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第43話 和解案

 ひとまず、お兄様に俺が求める和解案は保留にして、俺は別の事を頼んだ。二つばかり。  一つは、今夜の俺の宿泊先はお兄様が用意しているだろうけれど、そこは止めて大和の病室に泊まるから、病院側にその許可と、着替え以外の準備を。  もう一つは食事。大和は病院食があるから、俺の分の夕食と明日の朝食の調達を。    目を離したらまた俺がいなくなると思って寝るのを我慢しようとした大和だ。また明日来るから、と言っても不安になるだろうと思った。なら、俺が病院に泊まればいい。俺だって折角少しは元気になった様に見える大和を再び不安にさせるのは本意ではないし、何より俺自身が大和と離れ難いから。  ほんと、二度も離れられた自分の思考が信じられない。  病院側からの宿泊の許可はすぐに下りた。完全看護の病院だから一般病棟の大部屋は付き添い禁止だけど、個室は申請さえすれば付き添いOKらしい。簡易ベッドも貸してくれるとか。が、俺は大和のベッドで一緒に寝る事にした。だって、流石特別個室っていうか、セミダブルのベッドだったんだもん。付き合ってた頃は、お互いの家に泊まった時はシングルベッドに二人で寝てたし、今回は本当に《《寝る》》だけだしな。睡眠的な意味で。  俺の付き添い宿泊の手続きをしてから、お兄様は「明日また来る」と言って、門脇さんと帰って行った。お兄様は会社へ、門脇さんは一ケ瀬邸に戻るらしい。まあ、秘書じゃなくて執事だしな。俺の食事は後で今日の夕食を、明日の朝に朝食を、門脇さんが届けてくれるらしい。俺はその辺のコンビニ飯で良いんだけど、まさかシェフに作ってもらったりしない…よな? 大和から離れられそうもないから頼んだけど、ちょっぴり後悔した俺だった。 で、そんな俺は、今もがっつり大和に背後からホールドされているわけで……。 「大和、ちょっと離れようか。顔、見えないよ?」 と言ったら、その場で回転させられた。そんで、今度は向かい合わせにホールドされてる俺。しかも大和はベッドに座ってて、俺はベッドに脚をくっつけて立ってる状態。大和の顔は見える様になったけど、その瞳は不安気に揺れていた。 「渚、さっきの話……」  うん。大和の不安も解るよ。  お兄様が勝手にした事とはいえ、大和の為にした事だもんね。自分の為に大切な兄が罪を犯した、なんて辛いし、悲しいよね。  俺、全く微塵も気にしていないのも本当だけど、大和が悲しませたくないから「何も要らない」って言ったんだけどな。お兄様、納得しなかったな。法に触れた以上、示談にするにしても謝罪だけで終わりに出来ない気持ちも解るけど。立場上、特に。  う~ん……。 「兄さん、どうなるの……?」 「どうにもならないよ? 言ったでしょ? 俺は全く気にしてないの。警察に突き出したりも、訴えたりもしないからな。ただ、お兄様は謝罪だけじゃ納得してくれなかったから、考えたくて明日まで保留にしてもらったの。大丈夫。そんなに不安そうな顔、しないで。みんなが納得する事、考えるから。ね?」 「…ろうん」 「……少し早いけど、お風呂入ろうか」  まだ不安そうにしている大和の気持ちを切り替えようと、まだ大分早いけれど、俺は入浴を提案した。 「ご飯までまだ時間あるし、お風呂入ってさっぱりしてから、いっぱい話をしよう」 「……入る。渚も一緒に入る……?」 「うん。一緒に入ろうか」  本当は大和だけ入れて、俺は下着姿で入って背中流したり頭洗ってあげようと思ってたんだけど。まあ、お互いの裸は散々見てるし、今更恥じらいも何もないか。  俺は頷いた。  一度浴室に行き、準備をして戻る。大和はベッドから脚を下ろしていた。両手を取り、ゆっくりとベッドから立たせる時に脚が踏ん張れずよろめいた大和を慌てて支える。脚の筋力が落ちているのが判る。αとて人間。腕であれ脚であれ、使わなければ筋力は落ちる。一度落ちた筋力は、当然使わなければ戻らない。大和は病室からは一歩も出ず、殆どをベッドの上で過ごしていたらしいから。  ゆっくり、ゆっくり、浴室に移動した。    脱衣場で先に全裸になった大和を見て衝撃を受けた。寝間着の上からでも細くなった事は判ったけれど、裸になればより顕著に見て取れた。肋が浮いて見える程ではないけれど、肉が薄い。細身に見えても裸になれば程よく筋肉が付いた、逞しくも綺麗な体をしていたのに……。けれど、それを指摘してはいけない。  俺は勢いよく服を全て脱ぐと、大和の手を引いて浴室に入った。大和の全身を傷付けない様に丁寧に洗い、自身の全身はおざなり洗ってから、泡まみれの二人分の体をシャワーで洗い流してから浴室を出た。  服を着て、髪を乾かしてから室内に戻った。  それから、他愛もない話をして、夕ご飯を食べて、また少し話をして、ベッドに二人で入った。自然な動作で布団の下で手を繋ぐ。  俺と二人きりになってからも、大和は俺から離れようとしなかった。話をしている時は手を繋ぎ、食事中は横並びでぴったりと体を寄せてきた。食べにくかったけれど、最近はあまり食べないと聞いていた大和が、一生懸命少しでも多く食べようと頑張る姿に「ま、いっか」と好きにさせた。大和が安心できるなら、多少の不便さなど、どうでも良かった。  自分より大きな体躯の大和だけど、その心は子供のよう。そこには交際していた頃の雄々しさはない。それだけ心が疲れているのだと思う。その原因を作ったのが俺の罪なら、俺のほうがお兄様よりよほど罪は重い。  ベッドに上がってからもお互いの方を向いて話をしていたのだけれど、大和が欠伸をしたから空いている手で背中をトントンしてやると、瞼がゆっくりと閉じていき、安らかな寝息になった。  先に眠ってしまった大和の寝顔を、飽きる事なく見つめる。寝顔すらイケメンなのに、可愛い。  俺は考える。みんなが幸せになれる和解案を。  考えながら、俺はいつの間にか寝落ちていた。  寝る前に大和と繋いだ手は、朝になっても繋がれたままだった——。  翌日、お兄様がやって来たのは昼少し前だった。門脇さんも一緒だった。  そして俺は告げた。昨夜、寝る前に考えた和解案を。 「大和が退院したら、俺は大和と一緒に暮らします。その為の『家』を用意して下さい。大和のアパートには暫く戻りません。大和には落ち着いた環境での静養が必要です。長閑な場所が良いです。近くにゆっくり散歩が出来る場所があると良いかな。それと、生活に必要な費用を全て。期限は俺と大和が働ける様になるまでお願いしたいです。 それと、俺は仕事を辞めてこちらに戻ります。辞表は書くので、俺の代わりに仕事を辞める際の手続きをお願いしたいです。本来は自分でしなければいけない事は解ってるんですけど、今は大和から『離れられない』。落ち着いたら直接挨拶と謝罪には伺います、と伝えてもらえたら有り難いです」 と——。

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