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第42話 罪と罰、そして償い

「さて、君達はこれからはずっと一緒、という事で良いかな?」    お兄様が最後の確認とばかりに訊いてくる。 「うん」 「はい」  俺達は顔を見合わせて返事をした。 「では、次は私の『罪と罰』の番だな」 「はい。私もですね」  お互いを見つめて微笑み合っていた俺と大和だけど、不意に言われたお兄様と門脇さんの言葉に、俺はハッとして、反射的に二人を見た。  二人はその顔に微笑みを浮かべていた。 「…………」  そういえば、そんな事……。  俺を訪ねて来た門脇さんが、後で幾らでも罰は受ける、と言っていた事を思い出す。 「……罪と罰? 何の事?」 「……それ……は……」 「私達は罪を犯したんだ。その罰を受けなければならない」 「おっ……お兄様……!」  大和に聞かせたくなくて制止しようと声を上げた俺を、お兄様が首を横に振って逆に制止した。 「だから、何の事……」 「大和、よく聞きなさい」 「……うん」  神妙な面持ちの兄に言われ、大和は戸惑いがちに頷いた。  戸惑うのも無理はない。何の事か解らないのに、罪とか罰とか言われたら……。俺だって、すっかり頭から抜け落ちてたんだから。 「大和は渚君が今住んでいる所は知っているか?」 「う……うん。詳しい場所は判らないけど、渚本人からΩ専門の児童養護施設で住み込みで働いてるって聞いた」 「その前にシェルターに身を寄せていた事は?」 「聞いた……けど……。ねえ、一体何の話……」 「聞きなさい」 「……っ!」  兄に一蹴され、押し黙る大和。  俺は兄弟を見守るしかない。今俺が言葉を発しても、同じ様に一蹴されるだろうし。 「大和、私と門脇は『Ω保護法』に違反したんだ」 「…………。……え?」 「Ω保護法はその名称の通り、Ωを護る為にある法律だ。生命は勿論の事、人権、生活、名誉など。普通に生活しているΩが不当な扱いを受けない為に。受けたとしても、決して泣き寝入りする事なく加害者には相応の罰を受けさせる為に」 「「…………」」  俺は知ってる。当然、大和も習った筈だ。  過去、Ωはあらゆる場面で不当な扱いを受けていた。αがΩを性暴行しても、Ωから誘った、Ωだから悪い。発情期があるΩはその度に休む事になる為、正社員として雇用しない。トラブルは御免だからΩには部屋を貸さない、など。あと、Ω保護法では最も重罪とされる、番契約の強制解除。番を解除されたΩは長生き出来ない。つまり、番契約の強制解除は『殺人』と同等なのである。だが保護法施行前は、合意のない番契約と解除が至る所で横行し、何人ものΩが犠牲になったというのに、加害αを裁く法律がないせいで、罪に問われる事はなかったらしい。    しかし、お兄様が言う彼等の『罪』は、もう一つのほうだ。  保護法があってもΩを取り巻く環境ががらりと変わる筈もなく、Ω性への差別や偏見、暴力などが完全に無くなる訳もなく、それに耐えかねたΩ達が避難してくるのがΩ保護シェルター。シェルターで保護されたΩは国に個人情報を登録する事で国に保護される。その情報は完全に秘匿され、誰であっても開示されない。国が用意した仕事先も住所もである。捜しているΩが全国各地にある何処かのシェルターにいる事を突き止めて捜して会いに行くのも、偶然に居場所を知って会いに行くのも、法律で禁止されている。会えるのは、Ω本人から連絡があり、本人が希望した時だけである。 「私は大和の書いたメモを見て、『渚』という人物が何か知っているのでは……と思い、捜す事にした。まずは大和の生活圏を調べた。すぐに『渚』という人物の名前、男性Ωであり、大和の『恋人』だった事が判った。が、大和のバイト先のオーナーの話によれば、突然仕事を辞めたという。渚君が住んでいたアパートも既に引き払われており、自ら姿を消したのだろう、との結論に至った。そこからの足取りが掴めず、目を覚ました大和は何も語らない。どうしても渚君に会う必要があると考えた私は、見つからないΩの身を寄せる先として、シェルターに的を絞った。シェルターに避難したΩの身元は開示されない為、私は一ケ瀬の名前を使う事にした。次期当主である私が全責任を持つ形で。権力の行使だ。そして開示された名簿の中に『御崎渚』の名前を見つけた。幸いだったのは『渚』という名前は渚君一人だった事。『○○年○○月○○日・御崎渚』。時期も一致した。 私は、渚君の所在を故意に捜した 」  それが『一つ目の罪』とお兄様は言った。 「捜すだけではなく、私は門脇に頼んで渚君に会いに行ってもらった。これが『二つ目の罪』。私の罪に門脇を巻き込んでしまった」 「雄大様、それは違います。私は私の意思で共犯者になる事を選んだのです」 「…………」  大和は言葉を失くした様だった。  自分の為に、兄達が犯した罪を明かされて、どう反応したらいいのかが分からないのだと思う。  そして、俺自身も戸惑っていた。  何故なら『忘れていた』からだ。確かに秘匿されている筈の所在を知られて会いに来られて、その時は憤りを感じたけれど、そんなのは門脇さんの話を聞いた瞬間に消えたし、今は大和に会いに来て良かったとさえ……お兄様が俺を捜してくれて本当に感謝してるから。 『罪』だなんて思ってない。 「渚……」  大和が不安気に俺を見る。 「…………」 「私は罪を償うつもりだ。だが、勝手を言って申し訳ないのだが、一週間…否、五日待ってもらえないだろうか? 信のおける者を新たな社長に任命し、引き継ぎだけはしておきたい。多くの社員を路頭に迷わせる訳にはいかないから」 「ちょっ……ちょっと待ってくたさい……!」  自ら出頭するつもりらしく話を進めていくお兄様を止める為に声を上げた俺だけど……。 「私もお供します」    お兄様に門脇さんも便乗する。  なんで便乗すんのっ!? 「待って下さいってばっ!」   今度は怒鳴る様に声を上げた俺。 「何勝手に話を進めるんですか! まずは俺の意思を確認して下さい! 俺、訴えるつもりも警察に突き出すつもりもありませんから! そもそも、二人を犯罪者なんて思ってません!」 「「…………」」  取り敢えず場は静かになった。 「本当に俺、気にしてませんから」 「そういう訳にはいかない」  当人が気にしてないって言ってんのに、何で食い下がってくんの? そんなに警察行きたいの!? 「これは保護法で定められた法であり、子供の喧嘩とは違う。「ごめんなさい」「いいよ」で済む話ではないんだ」 「で……でも、法律だと言うのなら示談……で解決出来ますよね?」 「……示談、か。君はそれで良いのか?」 「俺は大和の家族を犯罪者にはしたくないです。示談で解決出来るなら、その方がいいです」  危害を加えられた訳でも精神的苦痛を味わった訳じゃない。結果オーライで感謝してるんだから、それで良いじゃない。 「ありがとう。示談にしてくれた事、感謝する。慰謝料の金額は君の希望する額を。それから、君の今後の生活の保障を約束しよう」 「えっ……? おっ……お金なんて要りませんよ」  俺は慌てた。慰謝料として希望する金額を…なんて言われたから。お金はあって困るものではないけれど、慰謝料としてのお金はホント、要らない。 「では、何を希望する?」 「え? 別に何も……」 「それでは示談にならない。示談とは双方が納得のいく条件で和解する事を言う。お金、物品、保障など。先程も言ったが、「ごめんなさい」「いいよ」という話ではない。お金は要らないというのなら、代わりの条件を提示してほしい。どんな条件でも受け入れる事を約束する」    そういうものなのか……。  俺は本当に何もしてもらわなくても赦してるんだけどな。でも、俺が何も要らないって言ったら、自分で警察に行きそうで怖いし……。 「一晩、考えさせてもらってもいいですか?」  俺はそう言うしかなかった。    

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