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第41話 離れられない

 大和が俺を手招きする。  俺はおいでおいでと招く手に惹き寄せられて、大和の腕の中に再び収まった。 「渚、愛してる」 「俺も、大和を愛してる」  互いに愛の言葉を交わし、微笑み合う。    大和は俺を腕の中に閉じ込めたまま、今度はお兄様を呼んだ。 「兄さん、こっち来て」  それに応えてお兄様と、そして門脇さんも俺達の所に来た。 「兄さん、ありがとう。渚を見つけてくれて」 「あんなお前を見たら放っておけないだろう?」 「うん。俺、最悪だったね」 「遅過ぎる反抗期だと思えば、腹も立たんさ。お前には反抗期らしい反抗期は無かったからな。聞き分けが良い子過ぎたんだ。お前に反抗期が無かった代わりに、莉子が酷かった」 「そうでございましたねぇ……」  俺は大和に抱き竦められたまま三人の会話を聞いてたんだけど。だって、水差したくないし。  でも、りこ? 誰だろう? 妹さん…かな…。  初めて聞く名前だったから、そんな事考えてたんだけど。そしたら大和が「莉子は妹だよ」と耳打ちしてくれた。  お兄様も俺が頭の中で考えてた事の答え、俺何も訊いてないのに教えてくれたけど、大和もなの? 俺、考えてる事、顔に出てるの?  あとそれと! 大和! 耳元で囁かないで! くすぐったいし! ゾクゾクしちゃうし! 変な声、出ちゃうから!  そんな俺の様子を他所に、彼らの会話は続く。 「莉子といえば……。兄さん、俺が入院した事、父さんと母さんには……」 「ああ。まだ言ってない。そもそも、今アメリカにいるから。年末からアメリカ支社に出張中。連絡してもすぐには帰って来られないし、私自身が状況を把握してなかったからな。まず、お前に何があったのか確認しようとすれば、頑なに何も語らないから困った」 「ごめん、て。反省してます」 「ん? えらく殊勝だな。ああ、渚君の前だからか。 ああ、ちなみに、父さんと母さんだけじゃなくて、誰にも言ってないからな。私と門脇だけしか知らない」 「え? そうなの? ああ、だからか。兄さんと門脇以外、誰も来ないから。別にお見舞いに来てほしい訳じゃないけどさ。莉子も朝陽も俺の入院を知れば、絶対突撃して来そうだもん。大智兄さんも電話くらいしてくるだろうし」 「まあ、否定は出来ないな」    兄弟は頷き合い、俺はといえば……。  また、知らない名前が出てきたけど、家族かな?  すると再び大和が俺の耳元に唇を寄せ、「大智は俺のすぐ上の兄さん。で、朝陽は雄大兄さんの奥さん」と、囁き声で教えてくれた。  けど!  だから! 耳元で囁かないで!  顔を上げて大和を睨み付ければ、目に飛び込んできたのは「どうしたの?」と無言で語る大和の笑顔。  ~~~~~!  おまっ……! わざとっ!? わざとなのっ!?  更に強く睨み付ければ、ちゅっ、とおでこにチューされた。 「なっ……!」  誤魔化したなっ! 大和めっ……! 「大和、止めて上げなさい」  呆れがちな溜め息を付きながら、お兄様が大和を窘めてくれる。さすが兄。弟の所業をよく見ていらっしゃる。 「ごめんごめん。あんまり可愛いからつい」  つい、じゃないっ……!  せめて……せめてっ……二人きりの時にして!!  さっきは二人の前で堂々とキスした事を棚に上げて、心の中で叫んだ俺だった——。  でも、嬉しさも感じていたんだ。  何日も無気力だったという大和が、俺が会いに来ただけで感情を取り戻して、泣いたり笑ったり。それと、ほんの少しの意地悪。俺は大和を酷く傷付けたのに、それでも俺を求めてくれる。  αだからすぐに立ち直る…なんて間違いだった。αではなく、一人の男として俺を愛してくれた大和は、Ωじゃない『渚』という一人の男をずっと求めてくれていた。俺達がαとΩである事実は変わらないけれど、別に分けて考える必要なんかなかった。だって『愛してる』んだから。体だけを求める本能じゃなく、心もお互いを求めてるんだから。  それで良いんじゃない?  大和はそれを伝えてくれたのに拒んだのは俺だから、今更調子がいいのは解ってるよ? でもさ、こんな俺でも大和が求めてくれるんなら、今度こそ傍にいようって思うんだ。赤ちゃん達もいるしね。 「渚、怒ってる?」    無言になった俺に不安を感じたのか、大和が俺を見つめて訊く。しゅんとする大和の頭に、へにゃんと垂れた犬の耳が見える…様な気がする。  俺は腕を伸ばして彼の頭を撫でた。 「怒ってないよ。怒ってはないんだけどね……」 「う……うん……」 「意地悪はしないでほしいかなぁ。俺、泣いちゃうよ? 暫く口聞かないかも知んない」 「っ!」  大和の顔が青くなる。俺の言葉にショックを受けた様だ。  ほんの少しの意趣返し。これくらいは許してね。 「しない! もうしないから!」 「うん」    俺が笑顔で頷けば、大和は安堵の息を吐いた。 「渚に嫌われたら、俺、生きていけない……」 「俺もだよ」  本当にそう思う。今となっては、どうして二度も大和から離れられたのか……とすら思うくらいだ。  大和からは変わらずフェロモンは感じられないのに、彼の腕の中はこんなにも落ち着く。  結局俺は、お兄様に声を掛けられるまで、大和の両腕に包まれていた——。

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