46 / 59
第45話 新生活と告白
お兄様が俺と大和の為の家を用意してくれた場所は、郊外の自然が多い所だった。周りは緑がいっぱい、自然がいっぱい。ちなみに住居らしき建物も、遠くにぽつんぽつんと数軒建ってるだけ。でも、此処は別に田舎って訳じゃない。別荘地なんだって。近くには遊歩道もある。『大和と二人で散歩』を日課にしたい俺としては嬉しい限り。ただ、近くに店の類はない。勿論コンビニもない。一番近いコンビニまでは車で二十分くらい、スーパーまでは三十分くらいって言ってた。まあ、食材や日用品などの必要なものは言えば調達して届けてくれるっていうし、個人的に必要なものはネットで買えるしね。うん、便利な世の中だ。
で、俺達が新生活を始める家は——。
なんと! 『ログハウス』だった! 二階建ての!
大和と手を繋いで屋内に足を踏み入れた俺は、「はう……」と感嘆の息を洩らした。
この場にお兄様がいたら、「ありがとうございます!」と叫びながら抱き着いていたと思う。もし本当にそうなったら、大和の嫉妬が凄そうだけど。
そのお兄様は…といえば、病院までは迎えに来てくれたけれど、会社に戻るから……と病院の前で別れて、此処まで連れて来てくれたのは門脇さんだ。まだ家族には大和の事は話してないらしい。まあ、そちらはお兄様に任せるとして……。
俺と大和は手を繋いだまま屋内を見て回った。
一階には、対面式のキッチンとリビングダイニング。あと、トイレと二人一緒に余裕で入れる広さのバスルーム。二階には主寝室と個室が二部屋。
二人で暮らすには十分な広さと設備だし、木の温もりが感じられるとこが良い。最高じゃないか!
大和も「素敵な家だね」って!
門脇さんが補足として「セキュリティも万全ですよ」と太鼓判を押してくれた。
うん、お兄様が選んだ家だからね!
今日から此処が俺達の家!…なんだけど、夢のマイホーム…って訳じゃないんだよね。流石にずっとは此処には住めないからさ。あくまで此処は静養地。いずれは街に戻らないとね。仕事とか、育児とかさ。
でも今は、此処での生活を目一杯楽しむ!
でも、その前に大和に話しておかないといけないんだけどね、《《あのこと》》。
ログハウス生活初日の今日の夕飯は、俺が腕を振るった。といっても、至って普通の『肉じゃが』なんだけど。大和のリクエストで。交際してた頃、大和の家でよく作ってたんだよ。お祖母ちゃん直伝の肉じゃが。他にも和食中心に色々作った筈だけど、大和の一番のお気に入りだったんだってさ。初めて聞いた。
夕食の後は、二人で一緒にお風呂。病院にいる時も、結局毎日一緒に入ってた。一度も甘い雰囲気にはならなかったけど。大和が絶賛子供返り中だったし。
「大和さん、お話があります」
リビングの床のラグの上に正座で向かい合って座り、改まって言う俺に、大和が身構える。いつもは敬称は付けないし、敬語も使わないもんな。雰囲気を出す為に使ってみたけど、うん、俺には向いてない。
「大和、話しておきたい事があるんだけど」
「な……なに…?」
話し方戻しても身構えちゃうか~。ま、改まって言われたら、誰でもそうか。いいや、進まないから本題に入ろう。
「俺、赤ちゃんが出来ました」
「…………。……えっ!? あ……赤ちゃん?」
「そう。赤ちゃん。貴方の子供です」
昨日、大和が退院前の身体検査とα科に診察に行っている間に、俺は俺で産婦人科に妊夫検診に行ったんだ。改めて診てもらい、赤ちゃんの心音を確認。間違いなく双子で、二卵性だと診断された。
だから、新生活初日の今日、話しておこうと決めていた。
「妊娠八週でね、心音も確認出来たよ。二卵性の双子なんだ」
「子供……。双子……」
呟く大和の顔を見て、はっ、とした。大和がぼろぼろと涙を流していた。
「……俺の子供……」
俺は大和の膝に自分の膝をくっつけて、彼の両手を握った。
「そうだよ。大和と俺の赤ちゃんだよ。大和がパパで俺がママ」
「……渚、結婚しよう?」
おっと、突然のプロポーズか。
「ごめんね。病院で自分から「結婚しなくてもいい」って言ったのに、俺……。やっぱり結婚したい。番にはならなくてもいいから、結婚して渚と子供達と『家族』になりたいよ……」
「番にはしてくれないの?」
「……え?」
「俺、大和と結婚するし、番にもなりたい。勝手なのは解ってるよ。あれだけ拒絶しておきながら今更……って思われても仕方ない。全部、自業自得。それでも今は、大和の番になりたい」
俺は結局、どうしようもなく大和が好きで愛してる。どうせ離れられないのだから、結婚して番になって大和の傍に在ればいい。来るかも判らない未来なんてクソ喰らえだ。その時はその時。今は目の前の幸せを享受すればいい。ほんと、気付くの今更だよな。大和を散々傷付けてさ。
「大和は俺と番いたくない?」
俺が訊くと、大和が激しく首を横に振る。
「なりたい! 渚と番いたい! で…でも俺、αフェロモンが………」
「大丈夫。きっと大丈夫だよ。『運命』の俺が傍にいるんだから。俺のフェロモンに毎日包まれてたら、きっと戻るから」
「……運命って、信じてくれるの……?」
「うん。本当はずっと解ってたんだと思う。本能ではずっと大和を求めてた。でも、認めたくないから『見えなかった』んだと思う。俺はαにだけじゃなくて、誰かに依存した生き方はしたくないって、ずっと思ってたから、自分でも気付かないうちに蓋をしていたんだ。再会した時に大和にはっきり『運命』を告げられて、ぴったりと欠けていたピースが填まった感じがした。それでも否定したのは、認めたら今までの自分の人生を否定される気がしたから。六年は短くない。俺のくだらない意地。けど、お世話になった人に言われたんだ。六年も経ってから再会した事には何か意味があるんじゃないか、って。それは何かは判らないけど…。結局、そんな事はどうだっていいんだ。俺は大和を愛してる。だから傍にいたい。この先の人生、大和と生きたい。それが俺の《《全て》》」
俺がありのままの想いを告げると、大和の瞳から、止まりかけた涙が再び溢れ出した。
俺は大和の両頬に手を添えて、自分の額を大和の額にくっつけた。
「泣き虫だなぁ、大和は」
「だっ……だっで……。ぐす……」
「うん。今はいっぱい泣いて良いよ。
ね、大和、焦らないで。俺が傍にいる。二度と大和の前からいなくならない。約束する。俺は大和がαじゃなきゃ良いなんて思ってない。大和からフェロモンが出ていなくても、大和に俺のフェロモンの匂いが判らなくても、俺が自分のフェロモンで大和を包むから。妊娠中で少し弱くなってるけど、毎日浴びせるから。ゆっくり取り戻そう?」
「……うん。うんっ……!」
滂沱の涙を流す大和を抱き締める。
「運命の番なら互いのフェロモンはより強く感じる筈だから、毎日一緒に過ごしてΩフェロモンを浴び続ければ、或いは……」と、可能性としてα科の先生が言っていた。俺は賭けてみようと思った。可能性があるのなら。
けれど、戻らないなら戻らないでもいいんだ。俺はαだから大和が好きなんじゃない。大和が大和だから愛してるんだ。
大和から体を離した俺は、愛する人の唇に自分の唇を重ねた——。
ともだちにシェアしよう!

