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第46話 突撃の訪問者

 静養地で生活を始めて一ヶ月が経った。  この一ヶ月はゆったりとした時間が流れた。反面、あっという間だった気もする。  ただ、はっきりと断言できるのは、此処に来て良かった……という事。  俺と大和は片時も離れずに過ごした。  朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで。  天気の良い日は毎日一緒に散歩をした。手を繋ぎ、遊歩道をのんびり、ゆっくりと。冬だけど雪の少ない土地で積もる事は稀だから、歩くのに支障はなかった。防寒対策をしっかりして、冬空の下を寄り添って歩いた。  食事は毎食、俺の手作り。栄養バランスを考えて、少しの量でも栄養が摂れる様に。これは、施設で働いた経験が役にたった。子供達の食事は、職員が交代制で作っていたから。成長期の子供達に、栄養バランスを考えたメニューを考えるのは、結構楽しかった。  お風呂も毎晩一緒に入った。二人で余裕で入れる広さでもたまには一人でゆっくり入ったらどう?って言ってみたけれど、大和は俺と一緒に入りたがった。俺は一緒でも構わなかった。  毎晩、主寝室のダブルベッドで寄り添って寝た。離れてもゆったり寝れる広さでも、俺達は互いの温もりを感じたくてぴったりくっついて寝た。毎晩おやすみのキスはしても、性的な雰囲気にはならなかった。  先日、久し振りに街に出た。俺の妊夫健診の為に病院に行く為に。大和は初めて健診に立ち合い、エコー画面に映る子供達を見て、ちょっぴり泣いていた。俺も先生も気付いていたけれど、気付かないフリをした。  妊娠四ヶ月。まだ安定期には入ってないけれど、子供達は元気だ。  一ヶ月と少し経った今、大和の体力と筋力はすっかり戻った。日課の散歩は続けているけれど。歩く事は大事だからね。話し方も、子供の様な甘えた様な話し方から、以前の男らしい言葉遣いに戻った。フェロモンは戻ってないけれど。どのみち俺の妊娠中は番えないし、産後もすぐ発情期がくる訳じゃないから、焦る必要はない。  あと変わったのは、今は大和がご飯作ってくれる。  半月くらいは俺が作ってたんだけど、ある日いきなり「俺が作る」って。で、さすが本職。手際も良いし、美味しいし。それからは大和にお任せ✰ 俺も食器出したりとか手伝いくらいはするし、たまにリクエストされて俺が作ったりする事もあるけれど。  そんなこんなで順調な静養生活。  そんなある日の事——。  日課の散歩から帰ると、家の前に誰かがいた。  誰だろう?、と首を傾げる俺の隣で大和が、 「……朝陽?」 と呟いた。 「知り合い?」  俺が訊くと、 「いや、知り合い……なんだけど……」 と何だか煮え切らない態度の大和に更に詰め寄ろうとした時に、向こうがこちらに気付いてずんずんと近寄って来る。俺は繋いでいた大和の手を握った。  凄い形相で近寄って来るのは、よく見ればイケメン……というか、どちらかと言えば綺麗系の青年だった。何故か怒っている様に見えるけれど、美人は怒ってても美人なんだなぁ……と良くわからない事を思った俺だった。  青年は近寄って来るなり、大和の服を掴んだ。  俺はぎょっとした。大和は何だか気まずけな顔をしているけれど……。 「大和! 大丈夫なのっ? 入院してたって……!」  青年が大和に詰め寄り言った言葉は、大和を心配するものだった。   「あ…ああ、その……えっと……」  大和が何かおかしな事になってるけど、青年は大和に危害を加えるつもりはなく、心配しているのは解った。ので「立ち話もアレなので家に入りませんか?」と青年に声をかけた。その声で青年は俺の存在に気付いたらしい。「あ……」って言ってたから。ずっと隣にいたんだけどな、俺……。  そんな訳で、家の中に場所を移した俺達。ダイニングチェアは二脚、ソファーは二人掛け、という事で、ラグに直座りした。俺と大和が並んで座って、朝陽さん? が俺達の向かいに座る図だ。お茶は…。ま、後でいいか。話、あるみたいだし。  でも、その前に気になる事が……。  室内に入って、当然俺達三人、上着を脱いだんだけど……。 「朝陽、そのお腹……」  あ、大和も気付いた。彼のお腹、腹巻を何重にも巻いてるんじゃなければ、赤ちゃんがいるんじゃないかな。 「うん。僕、妊娠中なの」  やっぱり……。 「俺、訊いてないけど」 「帰って来なかったの、大和じゃん。年末年始に帰って来た時に直接話したかったのにさ」 「う……。それはそうだけど……」 「電話は絶対イヤだったの! もう! 今は僕の事はいいの! ねえ君、大和の彼氏さんでしょ?」 「っ!」  急に話しかけられてびっくりな俺。  これ、自己紹介を求められてるん…だよな…? 「は……はい。御崎渚です」 「渚君か。あ、そんなに身構えないでね。 僕、一ケ瀬朝陽。雄大の妻です。よろしくね」  ぺこりと小さく頭を下げる朝陽さん。 「あ、はい。こちらこ……そ……。えっ……? 妻っ?」    妻……。妻イコール奥さん、またはお嫁さん……。え……? 朝陽さん、何歳? 凄く若く見えても、実は三十代……とか……。 「うん。もう慣れたけど、面白いくらい予想通りの反応だねぇ。あ、あと、敬語は要らないよ。多分、歳はそんなに変わらないと思うし」 「えっ……?」 「僕、大和の同級生だから。二十五歳」 「…………。え"……」 「渚君、何歳?」 「……二十五…です」 「ほんと? じゃあ、同い年だ」 「…………」    うん、俺、もうどこに驚いたり、ツッコめばいいか、分かんない。 「朝陽、あまり渚をからかうな」 「からかってないし。文句なら雄大に言って。十四も下の高校生を誑かしたんたから」 「え……」 「だから! やめろって。 渚、違うからな? 始まりは兄さんの一目惚れからだけど、強引に迫ってないし、ちゃんと恋愛結婚だからな?」 「高校生に一目惚れする三十代ってどうなの? 恋愛は恋愛だけど、デキ婚だしね」 「え……」 「朝陽! 渚、朝陽はαだからな? 無理矢理じゃないからな?」 「…………。ぷ……ふふ……」  俺は吹き出した。二人のやり取りがまるで漫才の様で。うん。二人の間に特別な感情はない、と。で、朝陽さん……もとい、朝陽はお兄様の奥さんで大和の義理の姉、と。よし、理解した。 「改めまして。御崎渚、二十五歳。よろしく」  俺が握手を求めて手を差し出すと、「こちらこそ、よろしく」と握り返された。  それで、朝陽が何故突然訪ねて来たのか…というと、昨夜お兄様から、大和が体調不良で入院していた事を聞いたからだという。ドキッとした俺。どこまでも聞いたんだろう?と思ったんだけど、『心身の疲労』としか聞いていない様だった。俺が真実を言おうかどうか逡巡しているのを覚ったらしい大和からアイコンタクト。「言うな」って事らしい。俺は開きかけた口を噤んだ。  とにかく、大和が入院していた事実に、既に退院して別荘地で恋人…あ、俺の事な…と静養中だという。しかも、恋人は妊娠中。そして、朝陽はキレた。「離婚だ!」と叫んだらしい。『家族』なのに隠し事されたのが赦せなかった、と。事情はあるだろうけれど、大和の事なんだから話してほしかった、と。それに対して、お兄様は土下座して謝ったらしい。 「土下座……」と呟く俺に大和が「兄さんは朝陽に嫌われるのが何よりも怖いから」と耳打ちした。まあ、夫夫の事だからね……。「ま、離婚は怒り任せに言っただけでしないけど。子供もいるしね」って、朝陽は笑ってるけど、お兄様にとっては笑い事じゃなかったんだろうなぁ……」と、俺はお兄様に少し同情した。   「でさ、大和の居場所と、会いに行く事を許可してくれたら赦してやるよ、って言ったら、あっさり教えてくれたから会いに来たんだけど、元気そうで良かったよ。渚、大和の傍にいてくれて、ありがとね」 「う……うん……」  曖昧に頷いた。事情を知らない朝陽に「俺のせいだから……」とは言えず……。    話が終わった頃合いで、俺はお茶を三人分用意した。雑談に花を咲かせる。朝陽のお腹を触らせてもらった。五ヶ月だという膨らんだお腹に触れたら、気持ちかほかほかした。朝陽が俺のお腹に触った。まだ四ヶ月だけど、双子だからもう膨らみ始めてる。「双子ちゃんかぁ。楽しみだね」と朝陽が言った。  うん。楽しみ。  一時間ほど雑談をしてから朝陽は帰って行った。 「僕、三人目だから何でも訊いてね」と、この日、俺にとっては最大級の『爆弾発言』を投下して——。  

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