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第52話 双子の命名と第二性

 翌朝七時、看護師さんが来て、体温と血圧を測った後、俺のおちんちんから導尿の管を抜いてから言った。「朝食の前にトイレまで歩いてみましょう」とにこやかな笑顔で。    歩いてみた感想。  死ぬかと思った……。  まず、ベッドから下りるのが一苦労。「ゆっくりでいいですよ~」なんて明るく応援してくれちゃってるけれど、そもそもゆっくりとしか動けないし、痛いんだってば! 大和は支えてくれながらハラハラしてるのが判るよ。何とか下りて歩き始めたけれど、一歩歩くごとに激痛が走り立ち止まる。痛み止め使っててもこんなに痛いの!? すぐそこのトイレが酷く遠く感じたよ。それでも何とかトイレに着いて大和に手伝ってもらいながら用を足して、帰りは大和に抱っこしてもらってベッドに戻った。まだ初日だからね。「帰りも歩け」って言われなくて助かった……。   タイミング良く朝食が運ばれてきても、痛みとの闘いで朝から満身創痍の俺に食欲はなく……。でも、「朝食の後に赤ちゃん達を連れてきますからね。授乳の指導もありますから、しっかりと食べて下さいね」と言われたら、無理してでも食べるしかないじゃん。大和が食べさせてくれて、何とか半分は食べた。残りは大和が食べた。  そして、一日ぶりの子供達とのご対面。  そわそわして待つ俺の入院室に、ベビーベッドが二台、運ばれて来た。  ベッドのプレートには『一ヶ瀬渚ベビー』の文字。長男は『第一子』、次男は『第二子』と書かれていた。  すやすやと眠る子供達。 「可愛い……」 「可愛いな」  俺達はほぼ同時に呟いた。じっと見つめていたら、次男がぐずり出した。大和がそっと抱き上げる。俺の前に連れて来た。俺は手を伸ばして頬を撫でた。 「抱っこするか?」 「したい……けど、少し怖いな……」 「大丈夫だよ。傷に触らない様に、胸にしっかり抱いて。支えてるから」 「う……うん……」  言われた通りに胸の位置で抱っこする。軽い。けど、温かい……。愛しさが溢れ、ついでに涙まで出てきた。  腕の中の我が子を見つめていると、本能だろうか。おっぱいを探す様に俺の胸に顔を擦り付けながら、口をもぐもぐと動かし始めた。 「お腹、空いてるのかな?」 「かもな。おっぱいを探してるみたいだしな。ほら、もう一人もぐずり出した」  大和が長男を抱き上げた。  けど、俺はどうしたらいいかが判らない。出産すれば誰でも母乳は出るって言われたけれど、どうすればいいの? 次男君は変わらず俺の胸をぐりぐりしてるし、長男君は大和の腕の中でぐずってるし……。  二人で顔を見合わせて途方に暮れているところにノックの音が響き、慌てて返事をすれば、入って来たのは丹羽先生だった。 「ああ。ちょうど良いタイミングだったみたいだね。授乳の手伝いに来たんだ」 「「…………」」  もう少し早く来てほしい……と思った俺達だった。  余談だが、何故、産科の医師や看護師ではなくΩ科の丹羽先生が俺の授乳指導に来たのか、といえば……。   現在、多くの病院、産院が、Ωの妊娠、出産、産後にαの医師や看護師、助産師は関わらない。Ω担当はβとΩに限られる。特に番やαの夫を持つΩに対する配慮だが、元来αは嫉妬深く、自分のΩが他のαに触れられる事を酷く嫌う傾向が強いから、無用なトラブルを回避する為である。  ただ、Ωの医師や看護師は極端に少ない為、出産以外のケアは産科ではなくΩ科の医師が担う事が多い。まあ、俺としては丹羽先生が担当してくれるのは凄く嬉しいけれど。  一旦、次男君をベビーベッドに戻して先生に言われるままに横になる。先生は素早い手つきで寝巻きの前を開いて、俺の胸を曝した。恥じらう間もなかった。 「触りますよ~」と言いながら、少し膨らんだ俺の胸を揉み…いや、マッサージを始めた。結構痛い……。そして、ガン見している大和の視線が気になった。  結果からいえば、母乳は出た。ちょっぴり……。でも、初乳は赤ちゃんには大切なものだから、と、先生が一人ずつ順に子供達にお乳を含ませてくれた。小さな乳首をちゅうちゅう吸われる感覚は『不思議』の一言だった。性を匂わせない、純粋に『ご飯』として欲してくれる姿が愛おしい。  やっぱり全然足りなくてぐずる子供達に、先生の指導で大和が作ったミルクを飲ませてから、首を支え縦抱きをしてげっぷをさせた。先生に、 「マッサージを繰り返せば出る量は増えると思いますが、二人分ですし足りないと思うので、積極的にミルクも併用していきましょう」 と言われた。何でも、母乳育児にこだわり過ぎるあまりにミルクを使わず、子供を栄養不足にさせるお母さんが稀にいるんだとか。こ……怖い……。  授乳の後は子供達をベッドに寝かせ、大和がオムツ換えの指導をしてもらっているのを見ていた。俺、今はまだベッドから下りるの大変だから。後で大和に教えてもらおう。 「とりあえず今はこれくらいかな」と、先生は本日の勤務に向かった。就業前の貴重な時間に来てくれたんだと知った。感謝――。  産後三日目から、俺の本格的な指導が始まった。ミルク作りとオムツ換えはしてたけど、沐浴とか、赤ちゃんの体のケアの仕方とか? 中には『幸せ家族計画』なるものもあった。要するに、子作りは計画的に~みたいな…? 出産終えたばかりだけど…。  そうそう。大和は俺の産後指導開始日と同じ日からお仕事行ったよ。俺と子供達の退院日から三ヶ月の育休を取るから、働き始めたばかりで迷惑をかけるのだから、と。本当はもっと長く取りたかったらしいけれど、やっぱり初勤務日から日が浅いから、そこまでの我儘は言えなかったみたい。オーナーなら「良いよ」って言ってくれそうだけれど。その代わり、必要に応じて休みをくれるそうだ。大和も律儀だけど、オーナーもなかなか……。  誕生から五日――。  子供達の名前が決まった。名付けたのは大和。パパとしての初の大仕事。名前は一生ものだからね。   長男・絆〈きずな〉。   次男・紡〈つむぐ〉。  素敵な名前だと思わない? 子供達は俺達を繋いだ絆であり、家族で日々を紡いでいく――。  そういう意味を込めたんだって。  ね? 素敵だと思わない?  誕生から一週間。  一回目のバース性検査の結果が出た。  絆・α、紡・Ω――。    驚かなかった。一卵性の双子は必ず同じ性だが、二卵性の場合は違う性の事があると、事前に説明されていた。俺達はαとΩの夫夫。αとΩの夫夫からは通常、αかΩしか生まれない。つまりは、そういう事である。  そして翌日は待ちに待った退院の日。  前日の退院前検査では、俺も子供達も異常なし。俺は傷口も塞がって子宮の戻り具合も順調だし、子供達も順調に少しずつ体重が増えてるってさ。で、無事に予定通りの退院となりました。  午前の退院を希望したから、朝食後に絆と紡に白いベビードレスを着せたの。  もう! ちょー可愛いの! ウチの子達、天使だよね!  ドレスを贈ってくれたお義父様とお義母様、ありがとう!  大和が荷物を先に車に積んで、ついでに会計も済ませて来てくれたから、俺達はそれぞれに子供達を抱いて二週間あまりお世話になった病室を出た。  ナースステーションの前に差し掛かった時、お世話になった医師や看護師さんが見送りに出て来てくれた。口々に「おめでとう」「育児、大変だろうけど頑張ってね」「絆ちゃん、紡ちゃん、元気に大きくなってね」と言葉をくれた。俺達はお礼を言って病棟を後にした。  病院の一階ロビーでは、丹羽先生が待っていてくれた。今は外来の時間のはずだ。退院時間はあらかじめ言ってあったから、一時的に俺達の見送りの為に抜けてきてくれたんだろう。  先生には本当に感謝している。彼がいなければ、もしかしたら『今』はなかったかも知れないから……。  俺がΩである以上、これからもお世話になると思う。きっと、紡も世話になるんじゃないかな。先生、まだ若いから。 「頑張って。君は一人じゃないんだから」と言ってくれた先生に「頑張ります!」と返して、俺と子供達は病院を後にした――。

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