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第57話 君と紡ぐ未来《完》
俺と大和が"番"になって半年――。
俺は朝から、既に用意してあった荷物の最終チェックをしていた。今日明日と、家族四人で初めて大和の実家…一ケ瀬の家に泊まりがけで滞在する為だ。一泊とはいえ、赤ん坊が二人いればそれなりの大荷物になる。
絆と紡は一週間前に一歳の誕生日を迎えた。
誕生日の夜は、家族四人でお祝いをした。
お祝い、といっても、ご馳走やケーキを用意した訳じゃない。なにしろ、子供達のご飯はまだ離乳食。だから、子供達にはいつもの離乳食をお子様ランチ風に盛り付けたワンプレート、親はいつものご飯。子供達それぞれに「おめでとう」を言ってご飯を食べた後に、プレゼントを渡しておしまい。それだけ。その分、来年はもう少し豪華に出来るかな?
プレゼントは、子供達の身長の半分くらいの大きさのぬいぐるみ。クマさんとウサギさん。大和と二人で選んだ。初めは同じ物にしようかと思ったんだけど、最近は少しずつ自我が芽生えてきた子供達。
「選ばせてみたら?」と大和が一言。
「同じの欲しがったらどうすんの?」と俺。
「その時はその時。でもきっと大丈夫だよ」と大和。
一体その自信はどこから……と思ったけれど、俺も子供達の反応を見たくなって、結局、同意決定。
息子達よ、幾つになっても好奇心旺盛なママでごめん……。
と、そんな経緯がありつつも選んだプレゼントを、袋から出して子供達の目の前1m程の距離に置いてみた結果――。
うん。問題なかったね。二人ともハイハイで進み、絆はクマに、紡はウサギに抱き着いた。自分の前にあったほうじゃないんだよ? 絆の前にウサギを、紡の前にクマを置いてたんだもん。
でも、初の兄弟喧嘩にならなくて良かった。
そんな事があった誕生日から一週間。
双子達より半月早く一歳になったお義兄様と朝陽の次男・煌斗君と、ウチの子達の合同お誕生日会を一ケ瀬邸で開いてくださるという事で、ご招待いただきました。誕生日当日は両親と子供達でお祝いするべきだ、と言ってくださって、けれど、自分達も一緒にお祝いしたいから、と、お義父様とお義母様が二回目のお誕生日会を計画してくださったんだ。お祝い事は何度しても良いし、家族みんなにお祝いしてもらえるって、絆も紡も煌斗君も幸せだよね。
んで、やっぱり俺は考えちゃった。もし独りで産んでたらどうなってたんだろう……って。子供達に『家族』をあげられなかった……。
…………
あ~~~。ダメダメ! こんな事考えちゃ……!
今が幸せなんだから!
✩ ✩ ✩
『家族』が一堂に会すると凄いんだな……。
これ、俺の感想……。
半年前に大和と番になった後、俺は初めて一ケ瀬邸を訪問した。結婚して子供も産んでいるのにおかしな話だけれど、俺が妊娠中で移動が大変だから初顔合わせはそれぞれ日を分けて会いに来てくれたし、産後はいつ発情期が再開するか判らないから、まだ大和と番っていなかった俺は、αばかりの大和の実家には来れなかったんだ。
一度来てからは、月に一、二度訪れているけれど、まず全員が揃う事はなかったんだよな。
それが今日は、全員が都合をつけて集まってくれた。
お義父様とお義母様、雄大お義兄様と朝陽、葵斗君と彩良ちゃん、煌斗君、莉子ちゃんと明日香ちゃん(親公認で婚約中だから家族枠)、大和、俺、絆と紡。あと、俺は初対面なんだけど、朝陽のご両親と双子の弟君と妹ちゃん。朝陽の実家も一ケ瀬の『家族』だからね。朝陽と一回り離れてて、今中学生なんだって。名前は太陽君と深月ちゃん。
これだけで総勢十七名。あと、アメリカに住んでいらして来られない大智お義兄様と奥様の律さん(β男性)と彼らの三人の子供達。もし全員揃う事があったら、もうね、凄いと思う。
俺、高校卒業する前に独りになったのに、今は家族がこんなにたくさん!
あと、一ケ瀬のお邸で働いてる人達も家族同然に大切な存在だと、お義父様が言っていた。確かに、他の人達の事はまだよく知らないけれど、門脇さんは使用人枠超えてると思うよ。ホント、お世話になったし……。
パーティーは開始からお開きまで、ずっと賑やかだった。主役の三人の子供達もご機嫌。普段から沢山の人に囲まれてる煌斗君はともかく、ウチの子達は人の多さに気圧されて泣いたりしないか心配だったけれど、全然大丈夫だった! 一ケ瀬の血かなぁ。パパママそっちのけでみんなに構い倒されて、まるで王子様!
朝陽のお母さんは、流石産婦人科医だと思ったよ。とても赤ん坊の扱いが上手なんだ。俺にも積極的に話しかけてくれてさ。産科医はお母さんと赤ちゃんの味方、って前に丹羽先生が言ってたのを思い出した。しかも、双子育児の先輩なんだよね。男女の双子だし、二人共αらしいけれど、小さいうちは性差はあまりないからね。参考までに…と色々質問する俺に、丁寧に答えてくれた。
それと、一ケ瀬家お抱えのシェフが用意してくれた離乳食! あれ、どうなってんの!? 最近、好き嫌いが出てきた上に自己主張も激しくなってきて、嫌いなもの…特に緑の野菜なんか絶対吐き出す子供達が、それぞれ、じいじとばあばのお膝の上で、パクパク食べてるんですけど!? まさにその、緑の野菜を! 軽くショックだった……。ママ、頑張ってるのに……。と、一瞬は落ち込んだけれど、俺はシェフがいる調理場を教えてもらい、「呼ぶ」と言うのを断って自分から足を運んだ。シェフに頭を下げ、離乳食のレシピを教えてほしいと頼んだ。だって、あんなに美味しそうに食べてるんだもん。何としてもモノにしたい。教えを請うのだから、自分から足を運ぶのは当たり前! シェフは恐縮しながらも快く了解して下さり、パーティーが終わる頃に、いくつかのレシピを書いたリストを持って来てくれた。明らかに俺が頼んでから作ってくれたらしいリストを手に、何度もお礼を言った。
ママ、頑張るからな! 覚悟しろよ、息子達!
賑やかなまま、お開きになったお誕生日会。
さて、次は『初めて』のお泊り。大和が実家を出るまで使っていた部屋は今は葵斗君の部屋になっているから、俺達家族は客間に泊まる事になった。客間には両サイドに転落防止の柵が付いた子供用のベッドまで用意されていてびっくり。初めての外泊だし、さっきまで興奮しきりだったから、寝付きは悪いかなぁ…と多少は覚悟していたけれど、子供達は親の心配を余所にあっさりと寝てくれた。しかも、二人共いつもは1回は夜中にぐずるのに、朝までぐっすり。俺と大和も久し振りに朝まで熟睡出来た。
朝起きて、改めて見渡した部屋の片隅には、二人分のプレゼントの山。一人一人から贈られたから、かなりの数だ。
まだ夢の中の子供達の寝顔を見つめた。起こさないように、心の中で呟く。
嬉しいね。楽しかったね。みんなにお祝いしてもらえて、幸せだねー。
✩ ✩ ✩
帰宅したのは、午後三時を過ぎた頃。
帰りの車の中で寝てしまった子供達をそれぞれ抱っこで自宅に運ぶ。ベビー布団の上に下ろしてから、大和が荷物を下ろす為に車に戻った。子供達を放っておく事は出来ないから、大和にお任せする。プレゼントが増えた分、一度には運べなくて、二往復してくれた。
「ありがとう。お疲れ様」
二度目の荷物である家族からの子供達へのプレゼントを抱えて帰宅した大和から半分受け取り、ダイニングテーブルの上に置く。大和が同じ様に置いてから上着を脱いでハンガーに掛けている間に、用意していた二人分のコーヒーをリビングのローテーブルに運んだ。大和がラグに腰を下ろすのを待ってから、ぴったりと寄り添う様に横に座る俺。
「渚も、お疲れ様」
大和が頭を撫でてくれる。
テーブル脇に敷いたベビー布団の上で仲良く並んで眠る子供達を、二人で見つめた。
「楽しかったね。子供達も沢山の人達に囲まれて、嬉しそうだった」
「ああ。人混みに圧倒されて泣くかと思ったが、ずっとニコニコ、愛嬌振りまいてたなぁ。流石、俺と渚の子」
「あ、俺もそれ、思った。肝が据わってるっていうか、神経が図太いっていうか…。興奮しまくったわりには夜もぐっすりだったしさ」
うん。同じ事考えてた俺達も、似た者夫夫。
自然と笑い合う。
「大和、『幸せ』をありがとう」
「ん? どうした?」
「うん。大和と結婚してからさ、俺、いっつも思ってるよ。だから、改めて言葉にしたくなった」
「そっか。じゃあ俺も。渚、『幸せ』をありがとな」
大和が俺の肩を抱き、触れるだけのキスを交わす。
俺は大和の肩に頭を預けた。
「俺さ、今だに自分が解らないんだ。『あの時』、どうしてこの手を離せると思ったんだろう?」
大和の大きな手を握る。
「『二度目』の時もそう。大和を愛してる気持ちに嘘はないのに、どうしてあんなに拒絶したのか……。大和を傷付けて、α性を忌避させてしまう程、追い詰めて……」
思い出すだけで目に涙が浮かぶ。その涙が溢れ落ちる前に、大和が唇で吸った。ついでとはかりに頬にもキスしてくれた。
「渚、もう『過去』を振り返って、自分を責めるのは止めよう?」
「で……でも……」
「聞いて」
「…………」
「俺達は『すれ違った』だけなんだ。気持ちがすれ違って、沢山後悔した。本当は思ってもいない言葉で、お互いを傷つけ合った。俺は辛かったよ。悲しかった。けど、渚だって辛かっただろう?」
「……辛かった……」
本当はずっと大和の傍にいたかった。片時だって離れたくなかった。身を切り裂かれる程に辛かったのに、どうして手を離してしまったのか…。後悔しかないよ。俺が逃げないでちゃんと大和と向き合って、伸ばされたその手を掴んでいたら、お互いに苦しむ事もなかったのに……。
大和はいつも何度でも『自分を責めるな。渚は悪くない』と言ってくれる。それなのに俺は、今の幸せを感じる度に、後悔ばかりだった日々を思い出す。大和はきっとそれに気付いていたんだと思う。
「渚、こっち向いて」
俯いていた俺の両頬を大和の手のひらが包み、そっと上向かされる。優しい眼差しと視線が交わる。
「俺はね、渚。その辛い『過去』を乗り越えた先に『現在(いま)』があると思うんだ。すれ違い、傷つけ合い、後悔した日々も、決して無駄なんかじゃない。俺達はそうして今の『幸せ』を手に入れたんだ」
俺の瞳から止めどなく溢れ、流れる涙。その涙が大和の手を伝う。
「渚は今、幸せ?」
「…っ。うんっ……! うん、幸せっ……」
「うん。俺もだよ。渚、見てごらん」
言われて、示された方を見れば、いつの間に寝姿が変わったのか、揃ってバンザイした手の右手と左手を繋ぎ、今だスヤスヤと眠る子供達。
「可愛いだろ。俺達の子供達だ。この子達が今俺達の腕の中にいるのは、辛かった日々を乗り越えたからだと思わないか? どれか一つでも選択が違ったら、この子達は此処にはいなかったかも知れない。考えたくはないけどな」
「……俺も、この子達がいない毎日なんて考えられない。考えたくない……」
俺はいつも、今が幸せだから過去は振り返らないって自分に言い聞かせながらも、つい過去を思い出しては罪悪感に落ち込む自分が嫌だった。
けれど今、大和の言葉の一つ一つが胸に染み込んでいく。
後悔をするだけの日々はもう終わりにしよう。
『過去』は無かった事にはならないし、傷付け合った事実も決して消えはしないけれど、その先にあるのが『今』なら、もう振り返らない。
これからは『今』と『未来』だけを見つめて、生きていこう。
大和、絆、紡、愛してるよ。俺のたからもの。
君と……君達と一緒に未来を紡いでいく――。
《 一章・完 》
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