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第32話 最終話

それからの記憶はとてもあいまいだ。 でも、どんなに「やめて」と言っても、泣いて懇願しても止まらなかったことだけは覚えている。 αって何度でも達せるんだなと、種としての強さを思い知った。 二度と…、「ラットになってもいいから抱いて」とは言うまい… とんでもない疲労感と倦怠感の中で目覚めると、クロード様はまだ眠っていて、痛いくらいに彼の腕が体に巻き付いていた。 番になったら執着心と言うものは若干薄れるものではないのだろうかと思っていたけれど…、このホールド感を見るにそういうわけでもないらしい。 彼は安らかな表情ではあるけれど、目の下には黒いクマがあった。 そりゃ寝ずにヤっていたらそうもなるだろう。 ゆっくりと彼の目が開いていく。 深緑が美しいと思って眺めていると、私の姿を捉えたのか、彼の表情がふっと緩む。 が、少しして彼が跳ね起きた。 「ユーフォルビア!! 体は大丈夫か? また…、酷くしてしまった…」 慌てた様子で私の体を確認していく彼。 私も今気づいたけれど、あちこちに蜜月の痕が残っている。 「ひっ…」 私の項を確認した彼が短い悲鳴を上げた。 私には見えないけれど、ジクジクと痛むし、まあまあ酷い有様なのだろう。 記憶の中でも何回か番の印の上から本気で噛まれた気がする。 私が気を失った後は、いったい何度噛まれたのだろう? 「医者に診せよう」 クロード様がベッドから降りる。 「え?いや、そんなに痛まないですし…」 と私が言いかけたのを彼が遮る。 「せっかくの番の印が膿んで、変な傷でも残ったら良くない」 彼はそう言ってすぐに部屋を出て行った。 あの…、肌着しか着ていませんよ!!と止めることは出来なかった。 その後、応急処置に来たメイドからも翌日来たお医者様からも、クロード様はお叱りを受けていた。 でも、誘ったのは私なので「私が悪いんです」と何度も訴えたが、「いいえ。これは旦那様が悪いです」ときっぱりと否定された。 -------- 鏡の前で、くっきりと付いた歯形を手鏡を使いながら確認して、思わず口角が上がる。 普段は隠しているこの痕を、今日はしっかりと見せるため、計算しつくされた衣装を身に纏っているのだ。 「ご機嫌だね、プリンセス」 私を背後から抱きしめて、クロード様が言った。 「ご機嫌にもなりますよ。 今日は私たちの晴れ舞台ですから。 あ、プリンセスって言うのはやめてくださいね」 私が彼を睨み上げると、彼は嬉しそうに笑った。 「どう足掻いても君が俺の番でいる限りはずっとプリンセスだよ」 「もう!私ももう20歳になるんですから、成人男性にプリンセスは~」 と文句を言っているところに、侍女がやってきた。 「ドラコニア侯爵様、侯爵夫人様、そろそろ会場の方へ」 「ああ、すぐに」とクロード様が答え、私の手を取ってエスコートする。 結婚式は挙げない。 でも、今日は私たちが番になった記念のパーティだ。 番になってから1年以上が経っているが、首の傷が安定するのに時間がかかってしまったのだ。 もう王家ではなくなったとはいえ、かなりの数の招待客がいる。 私の我儘で侯爵領の平民たちも希望者は参加可能にしている。 縁を切った王家の人々もいる。 陛下と王太子とマリア嬢だ。 なんだかんだでマリア嬢は破門されていないので、今はそれなりに頑張っているのだろう。 目が合ったので微笑みかけたが、プイッと顔を逸らされた。 相変わらずではあるらしい。 皆に挨拶を述べて、祝福される。 隣には愛するクロード様。 彼の胸のハンカチには、前よりもうんと上達したお刺繍が施されている。 婚約破棄の果てに…、私は本当の愛を得ることが出来ました。 ー了ー

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