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第1話

 桜もそろそろ散り始め、次は藤の花だろうか……と思いながら散策をする。 いつもは真っすぐ公園への道を歩くのに、今日はその角を曲がるのをやめてカフェの前を通ってから公園に向かう。 たまには道を変えてもいいんじゃないかと思ったら、案の定いいことがあった。 「痛ってててて……」 「どうしたの?」 「塀から降りたらくじいたかも」 「へぇ。君、どこの子?」 「別にどこの子でもないけど」 「だったらウチ来る?」 「ぇ?」 「足、冷やそうか」 「んだよ。飼ってくれるんじゃないのかよっ」 「飼って欲しいの?」 「おいしいごはんと暖かい布団が欲しい。後、優しく撫でてくれる人間が欲しい」 「僕はそれ、全部出来るんだけど。ウチ来ない?」 「うんまあ。行ってやってもいいけど」  優しくしてくれる? と上目遣いで見られると、もう抱き締めたくなるくらい可愛かった。 「だったら行こうか。ほら」  そっと肩を貸すと家路に着く。 今日の散歩はこれでやめておこう。 〇  彼にはまだ名が無かったのでこちらで決めてみることにした。 「大我とかどう」 「別に何でもいい」 「じゃ、大我で」  足を冷やしながら毛並みを整えて「お風呂入る?」と聞いてみるけど首を振られる。 「じゃあ徐々に」 「じょじょに?」 「うん。また今じゃなくて気が向いたらって意味。ご飯食べる?」 「食べるっ! 俺、魚好き!」 「今ちょうどいいのがなくて……」 ソフトふりかけの鮭があったので、ご飯にそれを混ぜると彼は嬉しそうにほおばった。 徐々にでいい。 日頃から気にしてた君が今、僕の家に来てくれたんだから。それだけで十分幸せだと思った。 「お前は何て呼べばいい」 「咲さんでいいよ。よろしく大我」 「サキサン……。咲……さん?」 「そう。僕の名前は長瀬咲男。だから咲さんでいいよ」 「咲さん……」  前々から路地で出会うと目が合ってたりした。 いつも小綺麗にしているので絶対に飼い猫だと思ったが、それにしては首輪がないな……と思っていた。だから自分が飼えないのかな……と密かに日々思っていた。 散歩というのもそれは口実で、本当は「今日の彼」「今の彼」を見るために散策を繰り返していたに過ぎない。 「君はいくつだろう」 「知らないっ」 「でもまだ若いよね?」 「うん。体力有り余ってる。だから腹が満帆になったらまた外に出る」 「出てもいいけど、戻って来てね」 「うん。また腹が減ったら戻ってくる」 「良かった。今日からここが君の家だからね」 「うんっ」  今度彼が戻ったら首輪をしなければ。今日は今から色んなものを買いそろえなければ……と心躍る。 そして有言実行。 彼は食事を食べ終えた後、自分で毛繕いをするとしばらく丸まって眠ってから出て行った。 彼は再び戻ってくるだろうか……。そこは信じるしかなかった。  彼が出て行ってから彼の居場所を作るために日当たりのいい場所にソファを移動する。彼のために椅子をひとつ増やす。食器も彼専用の物を増やそう。咲の顔はほころんでいた。  夕方になった。晩御飯の時間だ。彼は戻ってくるだろうか……。食事の支度をしながら気もそぞろだ。 「分かるのかな……」  その前に。出て行ったはいいが、帰って来られるんだろうか……と心配になる。そして夕飯の支度が整った時、出来上がるのを待っていたように玄関ドアの横の窓がコンコンッとノックされた。覗くと彼が尻尾を振ってドアが開けてもらえるのを待っていたのだった。 「おかえり」 「ただいま。ごはんある?」 「あるよ。さっ、入って」  帰って来てくれたのが凄く嬉しい。  とっても幸せだ。 ご飯を食べて気分良くなった彼に風呂交渉をしてみる。 「体を綺麗にすればベッドで一緒に寝られるよ?」 「ベッド?」 「そう。フカフカのお布団で寝たいと思わない?」 「寝たい……かも」 「だったらお風呂も一緒に入ろうか?」 「一緒に?」 「一緒に」  ニッコリと笑いかけると呆けたような顔をして、それから気を取り戻して「いいよ」と笑顔になる。 青い瞳に銀色長毛の若い猫・大我。これからもずっと僕の猫でいてくれるといいな。      終わり タイトル「憧れの君は銀猫」20260501

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