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第3話
タイトル「憧れの君は銀猫3」
翌朝。銀猫・大我は朝から上機嫌で散歩に出かけた。
主人である咲は昨晩の汚れた体を綺麗にすることも出来ずにベッドで丸まって天井と窓の外を見ていた。
外は雲ひとつなくて真っ青な空が広がっていた。
「……」 今日も天気いいなぁ。
だが咲は朝早く『今日は体調が悪くて……』と会社に連絡を入れなくてはならなかった。
「さすがにこんなことが続くとは思わないが、続くとこちらの身が持たない」
早く解決しなくっちゃ……。何かいい手はないのかな……。
困り顔で考えていると向かいの家の屋根に一匹の猫が歩いて行くのが見えた。
あの猫も見知った顔だ。
ちょうど大我と同じくらいで美丈夫で、きっとカップルになったら綺麗なツインズって感じなんだろうなと思ったが、同じ雄同士だと縄張り争いとかに発展してしまうのかな……と何となく思う。
ボーッと空と一緒にそんな猫の姿を見ていると当然ながら視界から消える。
今日も一日気ままな暮らしを楽しむんだろうな……と思っていると、目の前の窓の外に彼の顔がヒョッコリと現れた。トントンッと手で窓を叩く姿にビックリしていると「開けて」と言われて手を伸ばした。
「おはよう。今日は休み?」
「ぇ……?」
「知ってるよ。あんた大我のご主人様になった人間だろ?」
「ぁ、うん。君は?」
「俺はあいつとは顔見知りって言うか。まあ兄弟みたいなもんだ」
「はぁ」
「あのさ。あいつはいい猫?」
「うんまぁ」
「何で俺じゃなかったの?」
「そう言われても……」
「誰でも良かったんじゃないの?」
「そういうわけでもないんだよ?」
「じゃあ、いつ俺のご主人様は来るの?」
「うーん。君は大我と同じように綺麗だから、すぐにご主人様も見つかるんじゃないのかな」
「……」
なんだか納得いかないような顔をして、それでも帰ろうとはしない彼を見て、咲は言葉を続けた。
「君、名前は?」
「大我だって名前なかっただろ? あいつは銀猫って呼ばれてた。俺は金猫って呼ばれてる」
「いい名前だね」
「名前じゃないよ。ただの呼び名。俺は俺のちゃんとした名前をつけてくれるご主人様を探してる」
「早く見つかるといいね」
「あんただったら、俺にどんな名前付ける?」
「うーん。君も綺麗だから……彩我 さいが 、とかどう?」
「大我と彩我か。いい名前だね」
「うん」
「じゃ、そういうことで」
「……うん……?」
それがどういうことなのか、最初はよく分からなくて首を傾げた。
彼は自分の名前をもらうと嬉しそうに去ってしまったからだ。それから何だか「あれ?」と言う気になって、次には「あれれ?」と考えた。
「名前……。付けちゃったけど……ホントに良かったのかな?」
その場に彼はもういないので正解は分からない。
けれど嬉しそうだったから「まあいいか……」で済ませてしまったのが運の尽きだった。
〇
体よく会社を休んで体力を回復すると太陽が傾く。
そろそろ大我が「ただいま」と元気よく帰って来るだろうと食事の支度をしながら玄関を気にするが、なかなか彼は帰って来なかった。
「おかしいな……」
もしかして猫の集会とかあるのかな? と思っていると外が騒がしくなって玄関のドアが開いた。
「ねぇ咲! 聞きたいことがあるっ!」
「お……かえり。どうしたの」
「それがさぁ、こいつも俺と家が一緒とか言い出して、ずっと付いてくるんだよっ!」
「だってもう名前もらったから、俺もこのウチの猫だよ」
「こいつこんなこと言ってんだけどっ!」
「嘘って言って!」 と言う眼差しで見つめられるが、もう一方で「名前付けたよね!?」 という眼差しで見つめられて返事に困る。
「こういうことか……」
しかし猫二匹。飼えるだろうか……。
「ねぇ咲! 咲ったら!」
「ごめん。確かに名前は聞かれたから付けたけど……」
「俺、もうここの猫だから!」
絶対に譲れない必死な顔は家猫になりたいからに決まっている。
「彩我はいいの?」
「家猫、いい!」
「いやソコじゃなくて」
「俺は嫌! ここは俺の家! 咲は俺のご主人様!」
「大我、ちょっと静かに」
「ぅん……」
「彩我。君は二番目の猫になるんだけど、それでもいいの?」
「嫌だ!」
「大我」
「はい……」
「いい! 二番目でもいい! 家猫は家猫! 俺、家猫!」
「だったら大我が一番。彩我は二番になるよ?」
それでもいいのか? と聞くと、それでもいいと強く言うので、なし崩しでもう一匹飼うことになってしまった。
まあ、どちらも美猫だからその点ではいいんだけど……。
一抹の不安はアレだ。
彩我も大我と同じように「したいしたい病」で迫られたらとても困る。咲は彩我の耳の切れ目を確かめようと振り返って彼を見た。
ぁ、あるっ! 良かったぁ……。
彼の耳にはカットがあったので、もう去勢済な証拠だった。でもだからと言ってどうなんだろうとちょっとした不安は残る。
「ぁ、あのさ。大我」
ごめんねの意味を込めて相手を見つめる。それを察した大我が納得いかないけど、主人の決めたことだから我慢するという顔で返してくる。
「仲良く。仲良くだよ?」
それは自分にも言い聞かせるように、二人の頭を撫でた咲だった。
終わり 20260704
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