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第4話:未公開の関係からこんにちは。

もうすぐ冬が終わり、春がやってくる。 それなのに部屋は湿気がこもっているようでジメジメしている。 それも当たり前だろう。 先ほどから少年の乳首を、ペチョ…ペチョ…と舐めまわし、愛撫を繰り返し、吐息まじりの熱い声が聞こえているのだから。 「っあ…まさよし……もっとっ……」 少年が焦れた様子で乳首への愛撫を強請り、男の名前を呼ぶ。 部屋の温度は高くなり、暖房もいらないくらいだ。 この二人の関係は未だ、誰にも公開されていない。 未公開の関係からこんにちは。 花梅竜二は高校入学間近となった。黒髪はショートカットに切っていたが、少し伸びている。 そろそろ切り時だろうと思いつつも、本人の好みの問題だから誰も口にはしない。 「なあ正義」 「なんだい、竜二くん」 穏やかに返事を返すはこの男。河崎正義。 小学六年生の子供であった花梅竜二にチクニーを教えこんだ悪い男である。 おかげで竜二の自慰行為は乳首を弄らないと中々上手くいかなくなってしまった。 「俺、髪の毛染めるから」 「えっ…染めちゃうの?」 「うん」 あっけらかんとした言い方で毛染め宣言をし、竜二はバッグからブリーチを取り出して見せてきた。 ああ、自分で染めるのね…と正義はぼんやりと竜二の様子を見ている。 「けどその前にさ、正義を俺の家族に紹介したいんだ。いい加減」 ドキッとした。 盛大に、大きい音が心臓がして動悸がした。 「ぼ、ぼぼ僕を?君の家族に紹介?」 「どもりすぎだろ。だって俺ら恋人同士だろ?」 「けど小学六年生から君に変なこと教えてたし…」 「俺は気にしてないから問題ない」 「僕は気にするよ」 毛染めのイメチェンなぞ簡単に頭から吹き飛んで忘れてしまい、正義は焦る。 ご家族に警察にでも連行されてしまうのでは??? 犯罪行為だろこれは…、竜二くんはまだ高校に上がる前だ。 冷や汗がダラダラ出てきて正義は心臓の動悸が気になってソワソワする。 「俺の家族、みんな優しいよ。会ってくれるか?正義」 竜二が正義の傍に来て、手をきゅっと掴み上目遣いで見つめてくる。 純粋で綺麗な眼だ。この目は裏切れない。 正義は逮捕される覚悟を決めた。 「わかった。いつ挨拶に行けばいい?」 「今から」 「ふぇっ!?」 「今日、家族全員家にいるんだよ。ちょうどいいだろ」 「ふぇっ!?」 「あと俺に恋人できたこと、もう話してあるから。家族に連れてこいって言われてる」 「ふぇっ!?」 突拍子もない。正義には最初から逃げ場などなかったのではないか。 この子は本当に自分を振り回すのが上手だ、恐ろしい子だ…。 正義はまだ見ぬ両親に殴られる覚悟を決めた。 「じゃあ、さっそく行こう」 「え?僕、このままでいいの?」 「…頭、櫛でとかすか。それでゴムで縛ろう」 正義の髪の毛はすっかり伸びており、現在は背中あたりまで届いている。 竜二が櫛で、正義の髪の毛をとかし、スッキリした一本結びをしてあげた。 「服もスウェットじゃなくて、シャツとジーンズにしようかなぁ」 いそいそと着替えだし、なるだけ真面目そうに見えるように正義は焦る。 竜二のことが好きだからだ。 家族に嫌われて、竜二と離れ離れにさせられるのは避けたい。 土下座も考えつつ、正義は準備をし、外見を整えた。 *** 「正義って、キチンとすれば結構美形なんだなぁ」 「照れるなぁ」 髪の毛を後ろに束ね、清潔感のあるシャツを着て、紺色のジーンズをはき、真面目な好青年に見える。 もうアラサーであるが、外見から人を判断するというし、正義は頑張るしかないと思った。 「じゃあ俺の家、行こう」 「う、うん」 正義の住んでいるアパートから徒歩10分くらいで竜二の家はある。 和風の古めかしい日本家屋で、店も開いており、店頭にはこけしが並んでいる。 「いつもこのこけし、見ちゃうんだよなぁ」 「うちの父ちゃん、こけし職人だからな」 「そう言ってたねぇ」 「母ちゃん!俺、連れてきたよ!!!」 「ちょっ」 竜二が店の奥に向かって大声を出し、母親を呼ぶとドカドカと走る音が聞こえた。 正義は走る音に少し怯え、無性に怖くなってきた。 「竜二!お前の恋人どこなん!?見せてみ!!」 思った以上に若い美人な母親が飛び出してきて僕のほうをガン見してくる。 「あれ?竜二、お前の恋人って男なんか?お前ってそうだったっけ?」 「そうだよ。母ちゃん」 「てっきり可愛い女の子連れてくるかと思ったのに、残念だわ~」 異様にハイテンションの母親で、僕が男だということにも対して気にした様子もなかった。 興味津々に僕の顔をジロジロと見てきて、竜二くんのお母さんは僕の眼鏡を突然ひったくった。 「あらやだー!眼鏡とったら可愛いお顔じゃない!!まつ毛も長いし!!!切れな眼だわ~!!!」 「右京、近所迷惑だろ」 部屋の奥から怖そうな男の人が出てきた。ち、父親、かな? 右京とは、竜二くんのお母さんの名前かな? 緊張で僕は固まってしまい、竜二くんのお母さんは僕の髪の毛を触ったりして遊んでいる。 「お前が、倅の付き合ってるやつか…年齢はいくつだ?」 強面の筋肉質の、怖そうなお父さんが僕に尋ねていた。こ、殺される…! 「あの……29です…」 「はぁ………」 ため息をつかれ、僕はもう申し訳なさでいっぱいで死にたくなった。 横にいる竜二は普通にしており、 「俺からどんどんアタックしていったんだ!」 と声を張り上げている。 それを聞いて益々、強面のお父さんはため息を吐き、頭に手を当てている。 横にいる母こと、右京さんは爆笑しており、楽しそうに旦那さんを見ている。 思った以上に大丈夫なのかな?と僕が安心感を持とうとしていたら、 下手の奥からドカドカと音が聞こえてきた。 そういえば、お姉さんがいるって以前、竜二くんが言ってたな。 ぼんやりと部屋の奥を見ると、 ドドド… 「お前、さっき29って言ったか!!??」 顔に怒り筋がたくさん入った怖い顔をした、金髪オールバックのヤンキーが立っていた。 そしてあっという間に僕の襟首をつかみ、顔面を殴ってきた(眼鏡はまだ右京さんが持っていたから無事) 「ふざけんじゃねぇーーぞ!!てめぇ!!!この変態野郎!!!」 「やめなさい、京子!恋愛にも色々事情があるわよ!」 「うっせーー!!!どうやったら29のおっさんがまだ14の弟と恋仲になんだよォ!!!」 正論すぎて何も言えず、僕は怖い怖い竜二くんのお姉さん、京子さんに腹パンをされ、地面に倒れこんだ。 興奮した京子さんを、強面のお父さんが後ろから抑え込み、なだめている。 「いいか、京子、やりすぎだ。歳の差は仕方ない。父さんだって、当時16歳の母さんと結婚した身だ」 「そうだわよ!京子!父さんだって私と結婚するときアラサーだったわよ!!!」 「うっせーー!!!そんなの関係ねぇーよ!!!!竜二は私の弟だ!!!」 「大丈夫?正義くん、ごめんなさいねぇ。こんな乱暴な娘で」 地団太を踏み、怒り狂う姿はとても恐ろしく、僕は土下座するしかなかった。 右京さんが僕のことを心配してくれて、とても優しかった。 姉である京子さんの怒りが収まる時間まで、京子さんは父親である竜一郎さんに拘束されたままであった。 *** 「本当にすいませんでした。こんなに年の離れた息子さんに手を出してしまい」 座敷にあげてもらい、土下座をし、深々と頭を下げる。 さっき京子さんに殴られた顔と腹が痛むが、これは自分への罰だ。 「竜二、お前ェ…しっかりとこのヒョロイ兄ちゃんを守ってやんだぞ」 父親である竜一郎さんが声をだし、優しい言葉をかけてくれる。 強面なのに何て優しい人なんだ…と僕は涙が少しこぼれた。 「もちろんだよ!父ちゃん!しっかり守ってやるからな!正義!!」 竜二くんもノリノリで、土下座している僕の背中をパンパンと手で触り、ハイになっている。 右京さんは相変わらずこの中で一番寛容で、ニコニコとしており、楽しそうだ。 「竜二の連れてきた恋人がこんな可愛い女顔の子なんてビックリだわ~ふふふ」 「おい、眼鏡」 右京さんの隣に座っていた恐ろしき実姉、京子さんがこちらをギロリと睨む。 「弟、泣かせたらぶっ殺してあの世までおいかけてやるからなッ!!覚悟しろよッ!?」 ドスの聞いた低い声で僕を睨んできて、僕は「はい」しか言えなかった。 このお姉さん、怖すぎないか?なんでこんなに怖いの? 「まぁまぁ姉ちゃんも彼女いるんだろ?俺たちのこと大目に見てくれよ」 「ああ!?竜二、お前もだよ!今まで黙っていやがって、大目に見ろだァ?」 「ね、姉ちゃん怖いって」 「怪しい大人にはついて行くなって散々ガキの頃教えたろ!!??」 「京子、お父さんがいたたまれないからそれ以上言うのやめてあげな」 右京さんが、横で頭を押さえる父親、竜一郎さんをかばって応援している。 この夫婦も若いころ色々あったのか、と思い、気にはなる。 「ふぅーーー……」 京子さんが重いため息を吐き、今度は竜二に詰め寄り、ドスの聞いた声でこう言った。 「花梅家の家訓、覚えてるよなぁ!?しっかり守れよ!!そこのヒョロいおっさんを!!」 祝福してるのか批判してるのかわからない怖い言い方でお姉さんはそれだけ言うと自分の部屋へ引っ込んでいった。 僕は未だに恐怖が抜けきらず、体に緊張がはしっている。 それを見た右京さんが気をきかせて、お茶菓子を用意し、リラックスできるように音楽を流してくれた。 「正義くん、京子のことは気にしないでいいで。あの子は昔からトゲトゲしいんよ。ほら、これ飲み」 あったかい緑茶と煎餅を勧められて、僕は泣きながら食べた。 竜一郎さんは、僕の肩に手をポンと置き、優しくこう言った。 「強くなれ、恋愛は自由だ。自分を責めてはいかん」 なんて優しいお父さんなんだ…と僕は余計に泣いた。 「貴方それ、自分に言ってるん?」 「…」 竜一郎さんが照れた様子で自身の頬をポリポリとかいている。 右京さんはとっても楽しそうに旦那さんを弄り倒し、イチャつきだした。 「なあ正義、俺の家族みんな優しいだろ?姉ちゃんはちょっと怖かったけどよ」 「う、うん」 「これからも宜しくな!仲良くやっていこうぜ!!」 竜二くんの眩しい笑顔に、さっきまで泣いていた僕も笑顔になる。 涙をふき、眼鏡をつけると、もう一度、ご両親に挨拶した。 「改めまして、河崎正義です。竜二くんとお付き合いさせていただいております。  どうか、宜しくお願いします」 「うん。大丈夫よ。正義君」 「うん。任せたぞ、竜二」 花梅家の優しい両親に慰められ、自分の実家ではこんなことなかったなぁと内心思った僕は胸がチクリとした。 そのまま、竜二くんは僕のアパートに泊まると言い出し、両親も「いいよ」と即答。 僕は竜二くんと二人でアパートまで歩いて帰った。 「ごめんな、正義。姉ちゃんに殴られちゃって、痛かったよな」 「大丈夫だよ…。お姉さんの言ってたことは正論だ」 「そっか…そうだよな。仕方ないな」 「こんな僕だけど、これからも一緒にいてくれるかな?」 「もちろん!」 竜二くんのヒマワリの花が咲いたような笑顔はとても眩しく、僕は癒された。 この幸せを守るために、お互い頑張っていこう。 「今夜はスキヤキにしようか」 「やったー!!!」 おわり

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