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第42話

 空に浮かぶ細い月が、夜空を切り取ったように鋭く光る。カーテンの隙間から差し込む煌々とした月明かりが泡沫の火照った顔を照らした。 「泡沫、綺麗だ」  澪の愛撫に悶える白い体に、口付けを落とす。 「澪……中に、出して」  澪の首に縋って、泡沫がねだる。 「もう、必要ねぇだろ」  泡沫はもう、男の精を喰わなくても妖怪化しない。半妖のまま、人の理性を保って生きられる。 「でも、欲しい」  黒目の縁が淡い朱に染まる。腰を前後に振って、泡沫が抱き付く。澪の耳を甘く食んだ。 「そんなに欲しいか? 気持ちいい?」 「ん……すごく、いい。繋がっているだけでも、気持ちいいけど。中にくれると、もっといい」  ちゅくちゅくと、泡沫が澪の首や頬に口付けを繰り返す。その仕草が可愛くて、澪の胸がきゅっとしまった。 (か、可愛い……前と全然違う)  半妖を保つために性交していた時は、もっと淡々としていた。 (表情も、声だって……)  澪が少し腰を動かせば、泡沫の腰が跳ねる。 「あっ……ぁん!」  漏れる声を隠しもせずに、全身で澪を求める。 (この顔が、体が全部、俺を求めているんだと思うと、堪らない)  もうこの世にいない男ではない、澪だけを見て澪を求めている。そう感じるだけで、心が満たされる。 (俺の呪いも、解けたかな)  泡沫の瞳に誰が映っているのか、澪の体で誰を感じているのかを考えなくていい。 「澪……」  白くて細い指が澪の頬を滑る。それだけで、体が震える。 「泡沫、愛してる」  気持ちを自覚してから、一体何度、同じ言葉を繰り返しているだろう。  何度繰り返しても足りない。泡沫が愛おしくて仕方ない。 「好きだよ、澪。愛してる」  全身で澪を感じながら、泡沫が耳元で囁く。  互いの気持ちを言葉にして、口付けで飲み込む。もう何度繰り返しただろう。これからも、きっと死ぬまで、同じ行為を繰り返す。  堪らなくて、澪は泡沫を抱きしめた。 「……澪?」 「どんなに抱き合っても足りねぇな。泡沫が欲しくて、仕方ない」  耳元で、泡沫が小さく笑んだ。 「俺もだよ。もっと二人で、抱き合っていたい」  ちゅっと水音を鳴らして、泡沫の濡れた唇が澪の耳に口付けた。 「賭けは澪の勝ちだ。約束通り、俺ごと全部、くれてやる」   初めて会った時のような台詞だ。顔を上げたら、泡沫が吹き出した。 「そんな言葉で始まったんだと、思い出した。本当に全部、澪のモノになったな」  確かに、その通りだ。体も心も、寿命さえ、泡沫は澪のモノになった。 「賭けに乗って良かったよ。まさか本当になるとは思わなかったけど」 「賭けを持ちかけた相手が澪で、良かったよ」  泡沫の唇が近付く。唇が濡れるほど、何度も口付けを交わし合う。 「わかってるか? 俺も泡沫のものになってんだぜ」  泡沫の手を掴んで、自分の胸に触れさせる。 「この心臓に流れ込んでいる血液も、体中を巡る体液も全部、俺と泡沫は同じだ」  泡沫の頬にさす朱が、熱を増した。 「そう、か……そうだな」  心臓の鼓動を確かめるように、澪の胸に泡沫が顔を添わした。 「俺の中に吐き出す澪の精液も、俺の一部なんだな」  泡沫が澪を引き寄せた。 「もっと欲しい、澪。前より今のほうがずっと、澪が欲しくて堪らないよ」  唇を寄せて、泡沫が腰を浮かせる。 「俺も、ずっと泡沫と繋がっていたい」  泡沫の浮いた腰に、腰を押し当てる。ジワリと流れ込む快感が、背筋を昇った。 「もっと愛して、もっと繋がって、俺の澪」  体をピタリと添わせて、月明りが照らす唇に口付ける。  今まで当たり前のように交わしてきたキスも、体を繋げる行為も。有限だからこそ特別で、愛おしい。 (泡沫の命は無限から有限になった。俺たちの時間は限られる)  不死の人魚の殺し方を探す。澪は泡沫の中の人魚の殺し方を見つけて、実行した。けれど、泡沫は今も生きている。   「賭けは、二人とも勝ちだな」  澪を見上げて微笑む泡沫にキスをする。同じ強さで返してくれる唇を、強く吸った。  三日月が見守る夜に、澪は愛おしい伴侶という褒章を手に入れた。

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