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第1話 プロローグ

   俺は、ポメラニアンが好きだ。  だってあんなに小さくて可愛くてふわふわな見た目なのに、勇敢にご主人を守るために吠えるその(さま)は、とてもかっこいいから。      俺、諏訪(すわ) (よう)は最近まで実家で一匹、『ポメ太』というポメラニアンを飼っていた。  ポメ太は黒色のふわふわの毛を纏った茶色のまろ眉ポメだ。くりくりの瞳に、常に上がっている口角は可愛さの極み。そんなポメ太は俺に一番懐いて、俺の傍を片時も離れなかった。  そんなポメ太と瓜二つなワンちゃんが目の前に、いる。 ( え、なんで、ポメ太が資料室に……?!お空からわざわざ逢いに来てくれた、割にはやけにリアル……! )  俺が資料室に来たのは、酔っぱらった時にポメ太の話をした同期からチャットで『緊急。資料室、すぐきて』と呼び出しがあったから。  そんな連絡が来た事によほどの事態なんだろうと、大慌てで駆け付けたのだ。  かわいい黒い毛を纏ったポメ太にそっくりなワンちゃんの周りには、散らばったスーツ、スマホ、資料、そして……社員証。  一抹の不安。これまでの経緯を組み合わると、その社員証の持ち主は、きっと彼だ。  社員証を恐る恐る手に取り、見た。  そこには同期の ──『犬神(イヌカミ) (アラタ)』の名前。 「犬神?!お前、犬神、なのか?」 「わんっ!」    俺は慌てて、ポメ太 ── 改め。同期の犬神の身体を彼のスーツで(くる)んで、資料を戻して彼の社員証とスマホを俺のポケットに仕舞い込み、資料室をこそこそ出て、陸部時代のフォームでポメ太になった犬神を誰にも気付かれないように運び出した。  会社から徒歩5分の、ひとり暮らしの俺の自宅へと恐ろしいスピードで駆け込んでみせた。これはきっと、自己ベストに間違いない。    くりくりのおめめに、ふわふわの黒色の毛。嬉しそうに舌を出しながら「はっはっはっ」と軽快な息遣いを繰り返す目の前のただのポメ太は本当に、同期で仕事の出来る営業部エースの犬神(いぬかみ) (あらた)なのか。  もしそうだとしたら、これは異常事態で。 「犬神、どうしちゃったんだよ。ていうか、会社に犬がいるのバレるとマズイと思って勢い余って家に連れ帰っちゃったけど。これから、どうしよう……」 「くぅん」と言いながら、玄関先で全力疾走して疲れ果てて倒れ込んでいた俺のほっぺを、ぺろぺろと舐める犬神(?)に「くっそかわいい……っ!」と俺はめろめろになってしまったのだった。    

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