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第2話 犬神 新という男(1)

 俺たちの同期の中でも、犬神(いぬかみ) (あらた)はズバ抜けて仕事ができる男だ。    入社6年目。営業部のエースで、営業成績も常にトップクラス。社内表彰は数知れず。  サラサラな黒髪に、刈上げられた襟足は清潔感が漂う。目元と口元にはセクシーな黒子(ほくろ)。一重で大きな瞳。その瞳と軽く目線が合っただけで社の女性たちは黄色い声を漏らす。   「取りたい資料が届かなくて、脚立持ってこようかなと思ってたら犬神くんが……っ!私、何も言ってないのに『よかったらどうぞ』なんて言って取ってくれた~……!どうしよ、そんなことされたら、好きになっちゃうぅ」 「口元と目元に存在している黒子がすごくセクシーすぎるし、かっこ良すぎて泣ける。犬神くんの存在は全米が泣くレベルすぎてヤバい。はっ!今日も目が合っちゃった!溶けちゃうぅ」 「さっき出張土産配ってほしいって声掛けられちゃったぁ!イケボ過ぎてヤバい。耳から孕んじゃうぅぅ」  なんて。彼の魅力にどっぷり嵌って陰でこっそり存在している犬神ファンクラブ(通称・ワンラブ)は最近規模を増大させているらしいと俺の同僚で、部内の事務長である洲崎(すざき)さんが、この前こっそり教えてくれた。  そんな洲崎さんは、ワンラブ会員じゃないのかと疑問に思って彼女に問いかけたところ「犬神くんは恰好良いけど、どちらかというと犬神くん単体というよりかは諏訪くんと絡んでるのを見るのが至福のひとときかな」とか意味不明な返しをされて突っ込むのも面倒で、その話はそこで終了したことを思い出した。    洲崎さんは俺と同じ営業事務で俺の10個上。仕事も的確で早い上に、凄く綺麗な先輩。だけど、たまに俺が理解できないことを発言する不思議な女性(ヒト)でもある。  本人曰く「自分は腐ってるから、3次元の男には魅力を感じないのよねぇ。自分の恋愛より他人の恋愛を妄想する方がブチ上がるのよ。諏訪くんと犬神くんなんか最高すぎる。犬羊(イヌヨウ)、応援してるからね」とかなんとか。  その洲崎さんの発言も俺にとっては宇宙語そのもので「はあ、そうすか」と話を終わらせたんだった。    ちなみに。後からふと " イヌヨウ " の意味が気になって。  きっと " イヌ " は犬神の犬、 " ヨウ " は俺の羊だなと思ってスマホの検索画面で『人名と人名を掛け合わせ 意味 腐ってる女子が使う』で検索した。  以下、俺のスマホに現れた検索結果、なのだけど。   『 「人名と人名を掛け合わせ」は、腐女子文化において「カップリング」と呼ばれる概念に関連している』 『腐女子は、男性同士の恋愛を描いた作品( 特にボーイズラブ、BL )を好む女性を指し、彼女たちはキャラクター同士のカップリングを楽しむことが多い』 『あるキャラクターと別のキャラクターを組み合わせて「A×B」と表現することが一般的』 『腐女子は自分の好みに合わせてキャラクターを組み合わせ、深い感情を表現するための言葉や表現を用いている』    出てきた結果に、まさか。マジ?と固まった。  彼女の中で勝手に " 犬神 × 俺 " ( つまりは俺が女の子の立ち位置? ) の公式が出来上がっているのかと冷や汗が出たのは記憶に新しい。    洲崎さんは綺麗で仕事も出来るけど、恋愛対象には絶対にならないと断言できる。彼女と話してると途中で銀河の彼方を漂ってる気分になる。銀河の彼方に行ったことがないから正しいかはわかんないけど。それほど、理解できない言葉が多いのだ。   ── 洲崎さんのこと考えてたら、何か、疲れてきたな。  目の前に俺を心配そうに覗き込むポメ太( 犬神?)を見ながら、いつまでも玄関で横になっている場合ではないと重い身体を持ち上げた。  

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