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第3話 犬神 新という男(2)
「取り敢えず、ポメ太のお泊りセット一式、出すか」
スーツに皴が付くとダメだと思い、慌てて持ってきた犬神のモノと思 しきスーツ一式をハンガーにかける。スーツからはふわっと犬神の香りが漂った。
女性社員が「香りも素敵で、めっちゃいい匂いする……!」と興奮気味に話していたことを思い出して、なるほど確かに。これはクラッときてもしょうがないかも、と納得する香りがスーツから香る。残り香でこのクオリティの高さ。本物は嘸 かしムラムラくるんだろう。
俺の部屋から、ポメ太がたまにここに来ていた時に使っていたクッションを引っ張り出してリビングに置く。
念のため、トイレのセットも。ポメ太がいつ突然遊びに来ても使える様に綺麗な状態で仕舞い込んであったソレを、ポメ太に教えたその場所へ置いた。
今はポメ太ではなくて犬神が使うのだけど。置いた場所は、ここでいいのか?と一瞬悩んで。
でもきっと、ポメになった状態でも俺の言葉が理解していたっぽい感じがした。資料室での俺の質問に、犬語だけれど、ちゃんと答えてくれていた感じがした俺は、本当に使う時、ポメ犬神にここでいいかを確認しようと動かさず一旦そのままにする。
家に到着してから今迄、ずーっと俺の足元をちょろちょろ歩き回って尻尾を横に揺らす、犬神。
くっ!かわいい。かわいいがすぎる。
もうこの姿の時はポメ太でいい気がしてきたな。ポメ太って呼んでいいかな。
会社にふたり分の早退連絡を入れた。電話に出たのは熱狂的なワンラブ会員と噂のある、入社して2年目の総務部の子。
めちゃくちゃ可愛くて、我が社のアイドルと名高い子だ。
「お疲れ様です。第2営業部の諏訪です。実は、犬神が体調崩して。今、病院に付き添ってるんで、今日は俺と犬神、早退で処理お願いします」
『えぇっ!犬神さんが……?!だ、大丈夫ですか?お見舞い行きたいです……っ!』
うーん?ポメ化した犬神って誰かに見せても大丈夫なのだろうか?
犬神かどうかも不明な今、見せていいのか分からなかったので「すぐ家に連れて帰るから、大丈夫。犬神にも君が心配してたって伝えておくよ」と言って電話を切った。
あの子まで夢中にさせているとは。犬神、すごい。さすがです。
俺たちの上司である立木 部長と洲崎 さんにもチャットで早退の連絡をいれると、部長からすぐコールが入った。
『諏訪!犬神、大丈夫、なのか?!あ、総務に連絡、入れとくか?』
「大丈夫、です。総務にはさっき連絡して。明日には多分?行けると、思います、けど。無理そうなら、休ませます」
『そ、か。明日、お前たちが動いてくれた大型案件の打ち合わせあるけど、取り敢えずはコッチでやっとくから。無理するなよって犬神にも伝えておいてくれるか?すまない。しかし、たまたま諏訪が居合わせてくれてよかった。病院なんて相当だな。無理、させすぎたかなあ。じゃ、お大事にな』
「はい。失礼します」
電話を切って、取り敢えず落ち着きたくて。一息 付くためのインスタントのコーヒーをカップに入れた。一応、ポメ太の水入れに水もセット。
ご飯はどうしよう。まあ、俺のおかずを作る時に味、薄めの作ればいっか。
「ポメ、じゃなかった、犬神。おつかれ。取り敢えず、会社は今日休んだからな。こんな状態じゃ仕事出来ないだろうし。ホラ、ここ。ココ座りな?」
「きゅぅん」
クッションにポンと手を置いた俺にそんな可愛い声を出しながら犬神はそのクッションではなく、俺の胡坐をかいている足の中にトッ、とやって来てぐるぐる円を描いて、自分のベストポジションを発見したのか俺の足の上で丸まって寝た。
「あ~……ポメ太と同じことするぅ~!かわいいいい!」
「くぅん」
俺はきっと服がアレだけ散乱していたということは、犬神は裸なのだろうと、体調が気になって。
体調を拗らせたら大変だと、ポメ太のブランケットをポメ犬神に優しく羽織らせた。そして頭から背中にかけてゆっくりと手で優しく撫ぜた。
サラサラで艶のある黒い毛が、犬神の髪の毛を彷彿とさせる。
「しかし……このポメ太は犬神だとして。どうやったら人間に戻れるんだ?」
俺のその言葉に、耳をぴくぴくっと動かした犬神は、すっくと立ちあがった。そしてくるっと俺の方を向き、小さい足でトトトっ、と俺の上半身を駆け上がる。
「犬神?どうした?」
「くぅん、きゅぅん」
すると、俺の口唇に近付き。
俺の唇をペロ、とひと舐めした。瞬間。
ぼふんっ!
もくもくと煙が立ち込め、その中には、真 っ裸 の犬神。
「 ── !へぇ、こうしたら、戻るのか。すまない、諏訪。助かった」
「っ風邪、ひく!服っ!服、着ろ!」
営業部のエースで、俺の同期。犬神 新が予想通り素っ裸で現れたのだった。
こんな状態でもイケメンで色気駄々洩れ。
これぞ、全米をも泣かす男。さすがっす。
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