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第6話 夢じゃなかった
夢だったら、なんて。そんなに現実は、甘くなかった。
目が覚めると「なんだ、さっきまでの夢だったのか。そりゃそうだよな。そんな事有り得るわけない」って目が覚めて、ホッと一安心してっていう、いわゆる夢オチってやつ。俺はそんなやつだったらいいな、なんて。淡い期待を抱 いたりした訳で。
だって、有り得ない。営業部エースで、恐ろしく人気者。陰でこっそりファンクラブなんかもあるような彼が。
平々凡々で仕事もそこそこの只の同僚のこの俺を激しく求めるなんて。
明るい内から寝室に入って、外では太陽がおやすみして、おはようする今の今まで、貪るように俺の全身を愛撫して。
全身至るところに赤い跡を散らして、いつまでも衰 えないアツくて硬い凶器を俺に必死に打ち付けて。
甘く脳に響く美声で「ずっとこうしていたい」なんてうっとりしながら俺に囁くなんて。
夢でしかないと。そう、思っていたのに。
重い瞼をゆっくり開けると、俺の横にはすぅすぅと寝息と寝顔までもが美しい同期。身体にはずっしりと彼の腕と足の重みを感じる。
( やっべェ。マジで犬神と、致して、しまった…… )
犬神がポメになるのも、犬神とえっちしたことも夢で。
目が覚めたら「やっぱりなー!夢だよね、そうだと思ったー!ちゃんちゃん ♪ 」 な未来を期待した俺が馬鹿だった。
ほんの数十分前まで激しく欲望を打ち付けられていた腰は、重苦しくてしょうがない。
2年後、三十路を迎えようとしている俺も流石に女の子とは経験はある。でも今回は男相手、しかも俺が女の子の立場は初めての経験で。
俺の腰は、よぼよぼのおじいちゃんになっていた。
( これ、仕事いけんのか?一応、動きはするけど ── 腰、おっも……ぉ )
腰の重さと眠っていないせいで動きの悪い頭に、現実を思い知らされる。
男とヤった事自体初めてだったのに、何の違和感もなく交わってしまった。
恐ろしや、犬神 新。ベッドの中でもテクニシャンなこの男は今まで何人の女の子を泣かせたんだろうかと動かない頭で考えて、きっと、その数は星の数なんだろうなんて思う。
だって、めちゃくちゃ気持ちよかったもん。ヤバい。癖になっちゃいそうで怖い。
誘われたら、絶対。またヤってしまう、自信がある。おいおい、そんな自信持つなよこのバカタレ。お前は気持ちもないのに身体だけ許しちゃうなんて、いつからそんなダメ男に成り下がったんだ。
今日は金曜日。時刻は只今8時半。10時から営業会議が入ってるから、遅くても9時半までには出社しなければならない。
この目の前のイケメンを、取り敢えず起こさねば。
「犬"神"。い゙ーぬ゙がーみ゙。や゙べ、声ガスガス。んんっ。あー、あー。起きろぉ。今日金曜だから会社、行かないと」
「 ── ん、すわ……?」
ゆっくりと瞼が動いて、やっと解放されるかと思った俺の身体は余計犬神に引き寄せられて、ちゅ、と口唇が重なって離れる。
「……やだ。まだ、お前と、こうしてたい……」
( っ!このヒト、ほんとに、ヤダ……!そんな気無いのに、心臓がときめいちゃう……! )
「い、か、げんに、しろ」
「すわ、なに」
「いい加減にしろ……っ!今日、大事な営業会議、あるだろ?!服、昨日のまんまだし、急いで用意しよ……?!」
何だか涙が出てきて、目が潤み始めてしまった。ドライアイだから目がじわじわする。
何なのこの状況。絶対おかしいって。
「その半べその顔もめっちゃ可愛くて、すっげェそそるけど。お前の事、困らせたくない。起きるよ」
そう言って、犬神はまた俺に軽く口唇を落としてベッドから降りた。
( なんなの、このめちゃ甘な感じ……!まるで、恋人同士、みたいな……っ! )
「なん、なの」
「え?」
「俺たち付き合ってもないのに、甘すぎる。おかしい。ダメだ。お前の態度、ダメ、絶対!」
「 ── は、?」
俺の発言に、訝 し気な表情の犬神の空気が少しずつ冷えてきた気がするのは、きっと。
気のせいじゃ、ない。
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