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第8話 好き VS 好きじゃない

     朝食を一緒に食べて、シャワーを浴びて。俺の家から10分ほど離れているらしい犬神の自宅に着いてきて欲しい、とお願いされた。 「えっなんで?」 「お前がいないと不安なんだ。抑制剤は家。薬取りに行くまでに犬化したら……」 「そ、それはマズいな。分かった。着いてく」 「やっぱり、諏訪は優しいな……ありがと」  ニッコリと嬉しそうに微笑んで、犬神は俺の頬に口唇を落とした。ちゅ、とリップ音を立てて触れ合った箇所に熱を感じて、彼の熱の籠った視線と香りにドキリ、としたのは普段クールな表情しか知らないから。  突発的にイケメンの笑顔と熱を当てられて、心臓が吃驚しただけなのだ。きっとそう。     ── そうだと、思いたい。    我が家から10分ほど徒歩で移動して。着いて行った犬神の自宅はオシャレそのものだった。  同期として過ごして6年。初めて訪れる犬神の家に何だか変にテンションが上がってしまった。   「わぁ……っ!オッシャレ……!ひっろー!」 「ふふ。着替えて来るから、好きにしてていーよ」  寝室へ移動した犬神を見送った後、目の前にあるふかふかの大きいソファに腰掛けると、ふわっと犬神の香りがして、背筋がぞわぞわした。  犬神との行為を思い出して、そっと口唇に手を添える。 ( さっきまでの、すご、かったな )  女の子と経験は、ある。それでも犬神と致した以上の経験は正直言うとなかった。それまでの俺は好きだと相手から言われて、好きになれるかも?と気持ちもないのに付き合って、身体の関係を持って数か月でフラれるを繰り返していたのだ。  実は自分から好きになって告白して、という事をした事がない。  告白されて好きになれると思って付き合っても友達と遊んでる方が楽しくて。毎回、彼女との予定よりも友達との予定を優先してしまいがちだった。    " 羊くんにとって私って何?" って最後はみんな、この台詞を吐いて俺の元を離れるのだ。    今までの彼女たちの事は嫌いな訳じゃない。好きだなーって思うこともあったから付き合ってた。でも、この子じゃなきゃダメ!って子がいたか、と聞かれたら。    正直、返事に、困る。    振られても、別に凹みもしないし「またか」と思うだけ。そんな自分に、彼女たちに対して本気になった事が一度もないと自分でもハッキリ分かる。    犬神の香りに包まれているからか、昨夜からさっきまでの犬神を思い出してお腹が勝手に疼いた。  犬神の俺を求める動きは ── 今思い出しても堪らなくなる。「好きだ」と何度も耳元で囁かれて、穿たれた彼の熱に興奮が収まらなかった。  俺はさっきまでの事を思い出して、もっと犬神の匂いを嗅ぎたくなった。こんな気持ち、間違ってると思いながら。それでも、昨夜の出来事は、俺の中でトップクラスの経験になってしまった。きっと女の子相手に欲を吐き出した時の事を思い出すより、犬神に求められたさっきまでの出来事を思い出す方が、堪らない気持ちになるのだ。  コテン、と横になってソファの香りを嗅ぐと、さっきまで横にいた犬神が近くにいる様でムズムズする。 「お待たせ。……諏訪、かわい。……ん、」 「 ── ん?!んーっ!」  犬神が上からひょいっと現れて、不意打ちで口唇を奪われた。昨夜の事が脳裏を駆け巡って心臓がドコドコ太鼓を鳴らす。  キスの合間に、うっとりした顔で犬神が口を開いた。 「今日の営業会議、ちょっと気力いるやつだから ── 充電、させて」 「い、ぬっ、ん、だめ、っ!」 「諏訪とキスするの癖になりそう……堪んない。好き」  何度も、何度も。口唇を重ねて。くたくたになった俺を見て犬神はふわりと微笑んだ。   「これ以上すると止まんなくなる。今夜も、一緒にいたい。今日は俺の部屋(ここ)に、来て」  そう言って、口唇を頬に落として犬神は身体を上げた。  離れた口唇に少し寂しさを覚えたけど、気のせいだ、と頭を振る。 ( うう……!俺の中の悪魔が、にょきにょき顔を出している……っ! )    犬神のペースに、飲み込まれそうでマズイ。  

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