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第9話 腐女子の勘は鋭い。
「諏訪くん、なんか ── えっろ。」
「?!」
営業会議が終わって。フロアに戻って早々、洲崎さんから浴びせられた言葉にあまり寝てない脳みそはすぐに反応できず、思わず固まってしまった。
普段の俺なら同じ状況下でもきっと「何言ってるんですか?仕事しましょ」なんて溜息交じりに簡単に躱せるだろう。
まあ女の子と平日にアレコレして、次の日にそんな事を指摘された事がないから、これはあくまでも予想の範囲で。実績はないから怪しいところではあるけど。
確かに、さっきまで犬神とあんなことやこんなことを致してしまって、いた。いたけど。
そんなにいつもと違う?いつもと違うのは、きっと俺の立ち位置だ。俺が、さっきまで彼にめちゃくちゃに愛されて過ごしていたという事だけ。
「今日の営業会議。犬神くんと諏訪くんがいないとホント成り立たないやつだから、しっかりしてよー?犬神くんが獲得 って来たこの大型案件、全社挙げて本腰入れてるし。今回は諏訪くんの資料なしには立ち向かえなかったやつだからね?」
「わかって、ます」
洲崎さんの言葉に、ぐ、と力が入った。
今日の営業会議は犬神が獲得 ってきた仕事のことで。我が社では初めて携わる、新規業種のところだ。
第3営業部という新規事業部門のための仕事だったのだが、その第3が立ち上げ直後だからか、なかなか軌道に乗らなくて。
結局、仕事を獲得ってきた犬神とその資料を作った俺が所属する第2で捌くことになり、その打ち合わせをする予定になっていた。
俺にキスしながら「今日の営業会議は気力がいる」と言った犬神の言葉を思い出して。
そんな大事な会議を前に俺とのキスで頑張れるという彼の態度に胸が軋むのを感じて慌てて首を横に振る。「これは、気のせい!」とセルフ突っ込みしていた俺の横で、洲崎さんがうーん、と唸り始めた。
あまり突っ込みたくないけれど、あまりにワザとらしい唸り方に思わず問いかける。
「ど、どう、しました?」
「いや、ね?見て?彼。犬神くん。ちょっと今日、色気ヤバすぎない?何か、雰囲気がさあ。いつも綺麗でセクシーなんだけど、拍車掛けてる感じ。妖艶っていうか、色っぽいっていうか」
「っ!」
「んん?あれぇ?怪しー。ふたりして昨日……何か、あった?」
「っ!な、なにも、ないっす、よ……?!」
じとーっとした目線を洲崎さんから向けられて、思わず顔を真っ赤にしてしまった。反論はしたのに全く反論できてない空気に冷や汗が止まらない。
どう否定しようか考えあぐねいていると、後ろにぐ、と引っ張られて。思わずよろけた俺の身体を、さっきまでずっと一緒にいた香りが包んだ。
「洲崎さん。あんまりコイツ、苛めないでやって」
「い、ぬかみ」
ふらついた俺をそっと抱き寄せたのは、紛れもなく犬神、その人だった。その人だったのだけれど、そこにあったのは、さっきまでの俺に向けた優しい甘い空気ではなく。彼の空気は、凍える様な、絶対零度の冷たさ。
( な、なんか、空気、怖……っ?!)
犬神の洲崎さんを見る目は恐ろしく冷ややかで、洲崎さんは犬神に向かってニッコリと微笑んでいる。
何故だか分からないけど、聞こえない筈のゴングの鳴る音が聞こえて。
俺はそんなふたりに挟まれて、そわそわしてしまったのだった。
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