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10 目覚め
次に目を覚ますと、葉で編まれたような、見覚えのない天井が視界いっぱいに広がっていた。
身体が土の中に埋められているかのように重い。ディーウィットは目だけを明るい方に向けた。土壁だろうか。茶色い壁面にぽっかりと空いた四角い窓の先には、鮮やかな空と森が広がっている。
「ここは……」
声を出した途端、驚くほどの喉の痛みにディーウィットは全身を強張らせた。段々と覚醒していくにつれ、自分の喉が熱を持って腫れ上がっているのが分かってくる。頭全体も熱く腫れているような感覚がある為、自分が発熱していると気付いた。
状況がよく掴めない中、最後の記憶を引っ張り出す。視界が不明瞭だったので明確ではないが、恐らくは部族の集落に辿り着いた筈だ。崩れ落ちる直前、男の声を聞いた記憶があった。
ということは、ここは部族の誰かの家の中だろうか。見たこともない造りの家なのではじめは驚いたが、常夏だというジュ・アルズならば、このような簡易な家の方が風通しもよく過ごしやすいのかもしれない。
それにしても、身体が異様に重い。まるで蛇か何かが身体に巻き付いているようだと思い、次の瞬間ハッと息を呑みかけ、再び喉の痛みに悶絶した。巻き付いているようなのではない。実際に自分の身体には、何かが巻き付いているのだ。しかも、素肌に直接。
「――ッ!」
思わず身動ぎすると、巻き付いていた何かがピクリと動いたのが分かった。ディーウィットが起きたことに気付いたのだ。
まさか、大蛇――?
目を見開いたディーウィットが恐る恐る目だけを動かして横を見ると、最初に見えたのは褐色の腕だった。上腕の裏表が非常に発達している。
蛇じゃないと分かり一瞬安堵しかけたディーウィットだったが、安堵している場合ではないことにすぐに思い至った。何故なら、蛇でないとしたら、この者の腕や足が直接自分の肌に触れていることに他ならないからだ。
目線をゆっくりと腕から裸の胸、太い首に浮かぶくっきりとした喉仏、そして不可思議な模様の布が巻き付けられたいくつもの棒状になった黒髪に移動していく。次に見えたのは、若々しくもがっしりとした顎に、真っ直ぐに引き締められた口だった。高い鼻、スッキリとした頬、そして最後に、好奇心が垣間見える切れ長の大きな黒目と目が合う。
寝かされて上から布をかけられているディーウィットに手足を絡ませすぐ隣に寝そべっていたのは、ジュ・アルズの部族の者だと思われる青年だった。ディーウィットとさほど年齢は変わらないのか、肌は瑞々しく張りがある。性格の明るさを表すような曇りのない笑顔を浮かべ、興味深げにディーウィットを見つめていた。
「ようやく起きたか。『ムウェ・ラデ』」
男が声を発した。最後に聞いた男の声と記憶が重なる。夢の中で聞いた『ムウェ・ラデ』という謎の言葉は、この男が言っていたのか。
男が話す言葉は、当然ながらディーウィットの母国語ではなかった。これは、ディーウィットが猛勉強したお陰ですんなり理解できるようになった言語、帝国語だ。
「……言葉が分からないか?」
男がやや不安そうな目になったので、ディーウィットは慌てて首を横に振った。
「わ、分かります……ゲホッ!」
「無理して喋らなくていい。喉を潤すものを持ってこよう」
男はディーウィットの額をするりとひと撫でしていくと、スッと身体を引き立ち上がる。一見スラリとした身体のように見えるが、剥き出しの背筋は相当鍛え上げられているものであることが分かる。鮮やかな赤を下地にした、細やかな草模様が刺繍された膝下ほどの長さの布を腰に巻き付けていて、その下は素足だ。
ディーウィットが目で追っていると、男は部屋の片隅に置かれている壺から柄杓で器に水を移す。それとは別の小さな入れ物を手に取ると、ディーウィットの元に戻ってきた。
「水だ。起き上がれるか?」
ディーウィットはこくりと頷くと、肘を突いて起き上がろうとした。だが、一切力が入らない。
男が肩を竦めた。
「無理そうだな。分かった、寝ていろ」
「すみませ……ゲホッゴホゴホッ!」
「無理するなと言っただろう」
穏やかな笑みを浮かべた男が、突然口に器を当てる。は? と思った次の瞬間、水を口に含んだ男が逡巡もせずディーウィットに唇を重ねてきた。
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