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17 対話
キーニの腕の中で目を閉じながら、ディーウィットは考える。
何故キーニは自分にこんなキスをしてくるのか。それに、本来なら触れることを忌避するだろう男の大事な部分に触れ達せられたのは、一度や二度のことではない。
同じ男なのに、何故キーニは躊躇いなく触れてくる。同じ男なのに、何故自分はキーニに触れられて安堵を覚えているのか。
グルグル考えても答えは出ない。ただ、このままこのぬるま湯のような優しい時を過ごし続けたら、抜け出せなくなる気がし始めていた。非常に拙い傾向だ。こうしてはいられないと、縋り続けたくなる想いからは目を背け、無理やり頭を切り替えることにした。
そう、帝国に向かわなければならない現実に、もういい加減目を向けなければならない。
キーニはディーウィットが身体を治すまで、こちらの事情は一切聞かないと宣言している。だがこうして立ち上がれるようになったのなら、いい加減話を聞いてもらえるのではないか。
キーニが話を逸らす為なかなかこちらから切り出すキッカケが掴めずにいたが、暫くしてようやく機会が訪れる。
いつもと同様に「ほら寝るぞ」と腕枕を差し出され、向かい合って抱き締められる。これまでは睡魔が勝り即眠りについてしまって会話どころではなかったが、体力も戻った今なら起きていられる気がする。
意を決し、話を切り出した。
「キーニ、話があります」
「……どうした」
答えるキーニの声は眠たげではないものの、いつもより低い。ディーウィットは唇を噛み締めてから、口を開いた。
「あの、僕の体調はもう戻りました。お願いです、そろそろ僕の話を聞いてほしいのです」
月明かりが開かれたままの窓から差し込む以外、この部屋に灯りはない。瞳に反射する僅かな光で、キーニがディーウィットをじっと見つめていることが分かった。
「キーニ、お願いします。僕はどうしても成し遂げなければならないことがあるのです」
ディーウィットの声色に含まれる必死さに絆されたのか、キーニが「はあー」と息を吐いた後、仕方なさそうに答える。
「……言え。聞くだけは聞いてやる」
あからさまに嫌そうな態度を取られて怯みそうになったが、もう自分は体力を取り戻している。キーニに迷惑をかけ続けていることに対する罪悪感も募っており、離れ難くなりつつある自分の弱さに気付き始めてからというもの、心の中で「早く、早く」という声に急かされ続けていた。
心を奮い立たせて話し始める。
「実は僕は、皇帝陛下の皇配になるべく祖国から帝国に向かっていたんです」
キーニが驚いたように小さな息を吐く。
「は……? 皇配? だがあれは――」
「正確には、皇帝陛下が所望されたのはアーべライン王家の至宝、夜の光石の化身です。それは僕の双子の弟、デアーグ王子のことのようです。華やかで美しい弟の評判は他国にまで伝わるほどだと聞きますから」
今度はキーニは何も言わなかった。ディーウィットはここぞとばかりに続ける。
「勿論、皇帝には皇后がおられることはこちらもちゃんと把握しています。ですからこれは皇配という名目での人質なのでしょう。アーベラインには『夜の光石』という特産品があります。『夜の光石』の採掘権を欲しがる国があるのは、僕もひしひしと感じておりましたし。我が父である国王がこれらを理解していたかまでは不明ですが……」
「……続けろ」
唸るような低い声が、短く告げた。
「はい。皇帝陛下からの親書には、何故かデアーグの名前が明記されていなかったようなのです。もしかしたら、名までは伝わっていなかったのかもしれません。国王を含む王家はデアーグを惜しみ、これ幸いと身代わりとして僕を送り出すことにしました。僕ならばいつでも切って捨てることができますから、人質としての価値もありませんし」
思わず自嘲気味な口調になると、キーニが眉間に皺を寄せた。
「……どういうことだ? お前の弟が王子ならば、お前も王子なのだろう?」
訝しげな声色のキーニの問いに、もうとっくに諦め何も感じない筈の古傷がズキリと痛むのを感じる。
「はい、僕はアーべライン王国の第二王子です。ですが王家にとって僕は不要な存在ですから……」
事実とはいえ、自分で暴露することにはどうしても抵抗があった。ディーウィットの言葉が尻すぼみになると、これまで聞いた中で一番低い声が、短く命じる。
「――詳しく話せ」
「……はい」
暗闇の中で小さく微笑むと、ディーウィットはここに来るまでの詳細を順序立てて話し始めたのだった。
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