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30 再会

 どうしてデアーグがもう帝都にいるのか。  その答えは、二人が乗っていた船を見れば理解することができた。船の外観は明らかに貨物船とは異なり、麗美な曲線が美しい中型の帆船だったのだ。  意匠を凝らした、海の守り神と言われる厳つい姿の海神の船首像がついている。船のへりにあたる舷は白い塗装に金色の花模様が描かれていて、ひと目で貴族などの裕福な者が所有する個人船舶だと分かった。  デアーグは定期船には乗らず、まっすぐに海を渡ってきた。だから彼は自分と同じ時期に帝都に着いたのだ。一番避けたかった展開に、頭の中が真っ白になる。  衝撃のあまり表情を強張らせて固まっていると、馬鹿にするような微笑を浮かべたデアーグがディーウィットの前に優雅な足取りでやってきた。顔を近付けると、小声で尋ねてくる。 『ねえ、船から飛び降りて逃げ出した奴がなんで帝都にいるの?』  ここでようやく、ディーウィットの時が進み出した。当初の目的を忘れてはならない。デアーグを皇帝に会わせる前に止めなければ、祖国がどうなるか分かったものではないのだから。  今ならまだ間に合う。ディーウィットの訃報を聞き嫌々来たのだろうから、事実を伝え自分が行くから大丈夫だと伝えれば、きっとアーベラインへ戻ってくれる筈だ。  ディーウィットは首を横に振り、すぐさま否定した。 『船から飛び降りたんじゃない。嵐の時に事故で落ちたんだ。だけどジュ・アルズの浜に打ち上げられ、この通り生きている。アーベラインに報告する術がこれまでなかっただけだ。逃げ出してなんかいない。予定通り僕が皇配になるから、デアーグはこのままアーベラインに戻ってほしい』  だがデアーグは、胡乱げな目つきでディーウィットを小馬鹿にしたように見る。 『えー、それって本当かなあ。ただ単に、僕に意地悪したかっただけなんじゃないの? お前っていつもそうだもんね。悲劇の主人公ぶって、自分って可哀想って空気を作って同情を買おうとしてさ。誰もお前みたいな奴に救いの手なんて伸ばさないのに馬鹿だよね』  以前なら不快感はあってもあまりに日常すぎて気にもならなかった悪意に満ちた言葉は、キーニによって癒やされつつあった心に思い切り突き刺さってきた。 『ち、違う……っ! 事実、僕はこうして帝都に来ているじゃないか!』  するとデアーグは、ディーウィットの腰に手を置いたままのキーニを見上げ、侮蔑の表情を浮かべる。 『まあいいや。お前の言い訳なんか別に聞きたくないし。それにしても、誰? こいつ。なんか未開人って感じだけど、まさかこんなのを誑かしちゃったの? 僕のアルフォンスにしたみたいに』  デアーグが、ジロジロと不躾な眼差しでキーニを舐め回すように眺めた。 『確かによく見ると顔は整ってるし体つきもいいけど、野蛮人だし脳みそも単純っぽいから騙すのも簡単だったんじゃない? ああ、もしかしてアルフォンスの代わりにしたの? こいつ、性欲は強そうだもんね。ふふ、ばっかみたい』 『は……?』  何故こうも激しい悪意をぶつけられねばならないのか。憶測だけで語られるあまりの罵倒の内容の酷さに言葉を失っていると、デアーグがにたりと笑いながら続けた。 『でも残念。アルフォンスがお前に全部責任を押し付けられて苦しんでたところをこの僕が優しく慰めてあげたら、ころりと落ちたよ。今じゃすっかり僕のことが大好きなんだよね。お前のことは恨んでいるよ! あははっ』  恨んでいる――? 自分は恨まれるほど酷いことをアルフォンスにしたのだろうか。帝国に一緒に来て飼い殺しにされるよりはという自分の考えは、間違っていたというのだろうか。  実際にアルフォンスが恨んでいるのかどうか、本心が知りたかった。デアーグの後方で数歩分離れて立つアルフォンスに目線を移す。……何故彼は苦しそうな表情でディーウィットを見ているのか。 『アルフォンス……?』  沈黙に耐えかねてかつての大事な部下の名を呼ぶと、ふい、とアルフォンスの目線が背けられてしまった。それは、あからさまな拒絶だった。 『……っ』 『ほらね?』  デアーグが実に楽しそうな艶やかな笑みを浮かべる。  心がこの場に留まることに対し拒絶反応を示し始めたのだろうか。身体が勝手に半歩後ろに下がろうとする。すると、キーニが支えるように腰を掴む手に力を込めた。

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