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43 真相

 胡座の上にいるディーウィットに寄りかかるようにして、キーニが抱きついてきた。 「俺の部族の男は皆、愛する人を見つけ世話を焼くことを最上の幸せと捉えている。だが、俺のよく知る若い女はあの苛烈なまでに強い姉だろう?」  他の女性といえば、世話を焼かれるのが当たり前のように考えているのが透けて見える者ばかり。それまでの間にイェレミアスによって人間の裏の顔についても聞かされていたキーニは、どの女性にも一切興味を持つことができなかったそうだ。  年頃になりそろそろ相手を見つけてほしいと両親に言われても、心が動かねばどうしようもない。自分でも、「一生人を愛せぬままなのかもしれない」と諦めかけていたのだという。 「そんな時、突然俺の前に天啓のように現れたのがディトだった」 「天啓……ですか?」 「ああ」  集落に入ってきたディーウィットの姿は、月の光のような淡い金色の髪、夜空を映し出したような濃紺の瞳を持つと言う月の神『ムウェ・ラデ』の化身そのものだった。  ディーウィットが意識を失いキーニが慌てて抱き止めてすぐ、ディーウィットが男であることが分かった。一瞬魂ごと奪われた気持ちだったが、男ではどうしようもない。すぐに諦観の念に囚われた。  あぶれた者の中には男同士番う者もいるが、キーニは首長の血統だ。子も産めぬ男に手ずから世話などしてはならないのは、頭では理解していた。  だがこのまま放っておけば、恐らくディーウィットの命は消える。他の者に任せれば、もう二度とキーニのものにはならない。何故なら――。 「外から迷い込んできた物は、最初に拾った者の所有になる。それが俺らの決まりだ」 「えっ! じゃ、じゃあ、僕がキーニ以外の人に見つかっていたら……!」  キーニが眉間に皺を寄せながら頷く。 「ああ。最初に見つけたのが俺でなかったらと思うと、今でも喉を掻き毟りたくなるくらい苛立って仕方がない」 「の、喉……」  キーニの独占欲は、思っていたよりも重そうだ。 「結局俺は、死なぬよう世話をするだけだ、イェレミアスにしたのと同じことだと自分に言い訳しながら、お前を『ムウェ・ラデの家』まで運び看病することにした。回復したら、他の人間に任せればいい。最初はそう思っていた」  だが、とキーニが眉尻を下げながらぽつりと言う。 「お前は泣いた。俺が声をかけても、自分の身体だけを抱き寄せて小さくなりながら」 「キーニ……」  キーニがディーウィットのこめかみにキスを落とした。 「その姿を見た途端、ディトを守り慈しみ、俺の力で涙を止めたいと思った。これまで誰ひとりとして俺の心を動かせなかったのに、ディトの淋しそうな涙が俺の心を動かしたんだ」  ディーウィットは、高熱に浮かされながら聞いたキーニの呟きを思い出す。泣かないでくれ、見ているだけで切なくなると、傍にいるからと誰にも撫でられたことなどなかったディーウィットの頭を撫でながら言ってくれた。  あの言葉で、どれだけ心が慰められただろう。キーニの手の温かさがもっと欲しかったのに、欲しいと言っていいと考えることすらできなかった自分の心をここまで掬い上げてくれたのは、間違いなくキーニの献身だ。 「俺は看病を始めると、ディトが目覚めるのを待った」  ちゅ、ちゅ、とキーニは目尻に頬骨に、キスを次々に落とし始める。 「目が覚めたディトと接している内に、ディトが自分に厳しい人間で、何かにじっと耐えているように思えてきた。俺が愛を注いでも、受けるのは罪だとばかりに遠慮ばかりしていたな。あれはとても悔しかった」 「す、すみません……」  いや、とキーニは首を横に振った。 「俺は必死になった。このままでは、ディトは動けるようになったら俺の腕の中からいなくなってしまうと思った。ディトの事情を聞けば、俺はディトに誠実でありたいと欲するあまり飛び立つのを許してしまうだろう。だからずっと言わせないでいた」  キーニが語った内容に、ディーウィットは目を見開く。 「あれはてっきり僕が治療に専念できるように雑念を取り払ってくれようとしたのだとばかり……」  キーニが柔らかな微笑みを浮かべた。 「ディトがそういう人間だからだ。ディトの前では、悪人すらも善人になりたいと願う」 「そ、そんなことは」  だが、急にジト、とした目でキーニに見られる。 「だが、皇配と聞いて勝機が見えた。何か誤解が生じているのは、俺にはすぐに分かった。でもディトは頑なだったからな、俺の言葉だけではきっと信じないだろう。自分を犠牲にする考えから簡単には逃れることができないと思ったから、一緒に帝都に行くことにした」 「う……っ」  こればかりは、言われても仕方がないと今なら思う。ディーウィットの中では、とにかく祖国の王家におかしな行動を取らせないことで頭がいっぱいになっていたのだ。 「だが、俺はどうしてもお前を手放したくなかった。だからお前が宝石を持っていたのをいいことに、理由を告げず交換した。一族にも根回しをして、血族から養子を迎えることで両親の承諾も得た」  これについては、ディーウィットもひと言物申したい。しかめっ面の上目遣いでキーニを見る。 「伴侶の意味だって、どうして僕に言ってくれなかったんですか」 「皇配になるつもりだったお前に言ったところで拒絶していただろうが」  あっさりと返され、ディーウィットは黙り込んだ。図星だったからだ。 「集落を出た後も、俺がお前に触れると、お前は恥ずかしそうに頬を赤らめながらも嫌がる素振りは見せなかった。むしろ喜んでいるように見えた。俺の愛をディトは喜んでいる。なのに与える以上は求めようとしない。俺はそれが悔しかった」 「そ、それは」  キーニの手が、ディーウィットの服のボタンに伸びていく。プツリ、プツリとひとつずつ外されていった。 「ジュ・アルズの掟に則り夫婦となっても、ディトの心が完全に俺に向かなければ夫婦とは言えない。だから俺はイェレミアスとお前を実際に会わせるまでは、ディトを抱かぬと願掛けをした」  ディーウィットの肩から、上着がするりと落ちていく。ディーウィットの白い肌が、曝け出された。  キーニが、ニッと笑う。 「それでディト、今はどうだ? 俺に抱かれ身も心も愛されたいと、俺にも愛を返したいと思えているか?」  なんという口説き文句だろうか。愛して止まない愛しい人にここまで言われて、否と言える訳がない。  ディーウィットは指先を震わせながら、両手をキーニの頬に伸ばす。 「……はい、キーニ。僕を抱いて下さい。僕の……『ジュ・アルズ』……!」 「よく言えた」  キーニは太陽のような大きな笑みを浮かべると、うっとりとした表情でディーウィットに唇を重ねてきたのだった。

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