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第10話:初めての朝、おはよう。
まだまだ暑いこの季節。冷房を効かせて寝ないと熱中症を起こすリスクがあるので涼しくして眠っている。
朝、目が覚めると目の前に壮太の顔があった。
ぼんやりと眺めて、つないでいた手が汗で湿っているのを見て昨晩のことを思い出す。
あああ――――――!!!
無性に恥ずかしくなった。
けどここ数日のモヤモヤは晴れたわけだし、これでいいのだと司は思うようにした。
布団から起き上がると、壮太も目を覚まして俺のほうをぼんやりと見てくる。
「お、おはよう」
思わず声が裏返った。
そんな俺を見て、壮太は大きいあくびをして目をこすり、とろんとした表情で少し笑った。
「ねぇ司。おはようのちゅーは?」
「は!!??」
「しないの?」
「…………」
顔に熱が集中してくる。朝からこの男は何を言っているんだ。
ていうか俺の口、水分が枯渇しててネチャネチャしてる!?
「歯、磨いてからなら………」
断れなかった。
すぐに洗面所へ行って顔を冷たい水でジャバジャバと洗い、持ってきたタオルでゴシゴシ拭く。
歯ブラシで口の中をブラッシングして口をゆすぐ間、昨晩のキスを思い出して頭が沸騰してくる。
どうしようもない感情に襲われて唸っていたら背後から背中を触られて口から水を吐き出すと、壮太がニヤニヤしながら立っている。
「な、なんだよ……」
「俺も歯磨こうと思って」
「わーったよ。すぐどくから」
タオルで乱暴に口を拭き、顔に熱が集まったせいで壮太の顔をまともに見れず、その場を後にしようとすると肩を掴まれた。
振り返ると壮太に口づけをされ、寝起きのかさついた唇と壮太の長いまつ毛が見える。
え?え!?
歯、磨いてからじゃね―の?
純粋な疑問だったけど、触れるだけのキスはあっという間に終わり、水を含んだ俺の唇から水分を奪った壮太の唇は少し潤い、そっと離れる。
心拍数が上がってドキドキして、俺は壮太を押しのけると部屋へ戻っていった。
取り残された壮太が笑いながら、
「司恥ずかしいんか~」
と俺の背を見ていた。
***
寝間着からタンクトップとズボンに着替えるとリビングへ行くと、壮太のお母さんが朝食を用意してくれていた。
家ではいつも母子家庭だから自分で朝食を用意している司にとって新鮮な光景であり、ちょっぴり感動した。
テーブルには半熟の目玉焼きとベーコンが皿に乗っており、トーストが用意されている。
「司くん朝ごはんこれで大丈夫かしらね?適当なのでごめんなさいね~」
「い、いえ!ありがとうございます!嬉しいです!」
「ねぇねぇ司くんは家では自分でご飯作ってるんでしょ?偉いわね~。壮太から聞いてるわよ」
「あ、いや、母が働いているので…」
おしゃべりな壮太のお母さんに翻弄されている俺を、壮太が楽しそうに眺めていてコイツ……と思った。
壮太と隣の席に座り、朝食を食べていると、俺の太ももに壮太が手を置いてきて気になってしまう。
何をしてるんだ一体。
壮太のほうを見ると、別にどうでもよさそうな顔をしてトーストを食べていて、太ももに置いてある手は意図が不明で悩ませる。
朝食はとても美味しいのだが、足に意識が集中してしまい落ち着かなくなったので急いで食べて、壮太のお母さんにお礼を言って逃げるように席を離れた。
「一体なんなんだ……」
イマイチ何を考えてるのかわからない壮太に手のひらで転がされているような気がしてソワソワしてしまう。
とりあえず一泊二日のお泊まりは今日で終わりだ。
荷物をまとめようと、カバンから出していた衣類をたたんでビニールに入れる。
これ以上、壮太と一緒にいたら余計に転がされて沸騰するどころか蒸発してしまいそうだ。
「もうさっさと帰らせてもらおう」
「帰るんか?」
「…………!!!」
いつの間にか隣に腰かけている壮太に度肝を抜かされて目が飛び出るかと思った。
壮太が俺の目をじっと見てきて無言の圧をかけてくる。
「帰る」
「一緒に遊んでいこうや」
「お前、さっきのリビングでの手、なんだよ」
「ちょいと遊んだだけだよ」
「やめてくれ……」
「あいな」
そういうと壮太が立ち上がって俺からカバンを取り上げる。
呆気にとられ、目の前で奪われたカバンは壮太の手によって押入れへ押し込まれる。
「返せよ!!!何すんだお前!!!おい壮太!!!」
「奪ってみ!?ほら!!」
壮太が笑いながら構えて押入れの前に立ちふさがる。
俺が怒って壮太に掴みかかり取っ組み合いの喧嘩が始まり、床の上にゴロゴロと転がる。
マウントを取り、壮太の上に圧し掛かり首元を掴む頃には床のホコリが舞って朝日に反射してキラキラ光っている。
「司やっと笑ったな!」
「はぁ!?笑ってねーよ!!」
「いいや!笑ってる!!」
壮太がゲラゲラ笑いながら首元を掴まれていて、何なんだコイツとぐぬぬとなってしまう自分に戸惑いを隠せない。
確かに朝から緊張してたかもしれないけど、こんなのってどうなんだ!?
とことん壮太に翻弄される自分にあきれ返ってしまう。
「司、おい司」
「なんだよ」
「俺の名前、呼んでや」
「……」
恥ずかしい気持ちが襲ってくるも、俺をジッと見てくる壮太の目に逆らえず、
「……壮太」
と呼ぶと、ご本人はご満悦のようで嬉しそうににっかりと笑っている。
そして壮太が手を伸ばし、俺の頬へ触れると、しっとりと汗ばんだ手が少し震えていて俺はフッと笑い壮太の額に触れる程度の口づけをした。
おわり
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付き合い始めて、壮太は浮足立っててスキンシップ過剰になるんですけど、司はドライなほうです。
ドライっていうか恥ずかしくてこんな行動になってしまうw
好き避け行動を起こすのも司ですwww
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