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第4話(2)
「うっっま……」
ロイヤルミルクティーを一口飲み、京一郎は驚いたように声をもらした。
手元のカップを凝視する京一郎に、モネは
「そんなに?」
笑いながらホットコーヒーを口に運んだ。
「いつもはカフェオレにするんだけど、ロイヤルミルクティーもありだな」
ミスドはミルクが美味いんだよ、と熱弁する京一郎をモネはさして興味なさそうに聞き流す。
京一郎のトレーには、ココナツとホイップのトッピングされた白いオールドファッション、モネのトレーにはハニーディップがのっている。
「京一郎の、なんか珍しいね。あんまり見たことない」
京一郎は神妙な顔で頷くと、
「そうなんだよ。気になってつい買っちゃったんだけど、おれあんまりオールドファッション好きくないんだよね」
「なんで?」
「口の中の水分全部もってかれない?」
モネの表情を見て、京一郎は
「でもさ! 見たことないやつあったら食べてみたくなるじゃんか」
言い訳するように口をとがらせた。
「ぼくはいつもこれだから」
「ふーん……」
「なに?」
「いや……り……元カノもその組み合わせだったなって」
京一郎がトレーの上のコーヒーとドーナツに視線を落とすのを、モネはじっと見つめた。
京一郎は顔をあげることなく言葉を続ける。
「……なんかの小説家なんかでさ、ハニーディップとホットコーヒーを飲んでる描写があって、真似してみたらそのまま自分の定番になったんだってさ」
淡々と語る京一郎の表情はどこか柔らかく、そんな彼からモネはすっと視線を外した。
「……へー」
感情のこもらない相槌をうったモネは、おもむろに立ち上がった。
戻ってきたモネの持つトレーの上には、オールドファッションが一つのっていた。
そんなモネをきょとんとした表情で見ている京一郎に、
「ぼくも食べてみようと思って」
言いながらモネは腰を下ろした。
ドーナツを一皿にまとめ、トレーを重ねると、モネはオールドファッションを一口かじった。
「美味しい……」
ぽつりと言葉をもらすモネに京一郎は疑いの目をむけた。
「本当だって。ほら……」
モネはくすくすと笑いながら食べかけのドーナツを差し出した。京一郎は警戒した様子でドーナツを見ていたが、それを一口かじった。
かじった瞬間に京一郎の表情がぱっとはれた。
「うまい……」
京一郎は目を丸くしてモネを見返した。
「さっくりしてるのに柔らかくてしっとりしてる!」
全然記憶と違う!どういうことだ……? と京一郎は一転して困惑顔になった。モネはコーヒーの入った赤いマグカップを口に運びながら、そんな京一郎を眺めていた。
「……この店には、オールドファッション職人がいる……?」
ひとしきりドーナツとロイヤルミルクティーを堪能し、首をひねり続けた京一郎はさも重大な秘密を発見したというように、密やかにモネにささやいた。
モネはちらりとカウンターへと目を向けた。40代くらいの女性スタッフが手持ち無沙汰な様子で立っていた。
「オールドファッションを極めたってこと?」
「そうだよ! じゃないと説明がつかない……。こんなに美味しかったはずがないんだ」
モネにというより、自分に言い聞かせるように京一郎はつぶやく。
「谷野基次郎、53歳。独身。ミスド勤務35年。」
淡々と谷野何某のプロフィールを語り始めたモネに訝し気な視線を向けた。
「……誰?」
「オールドファッション職人」
京一郎はぱっとカウンターへ目を向けた。ドーナツが陳列された棚の奥に、谷野の姿を探すように。もちろんそこに谷野の姿はない。
「谷野……基次郎……」
「彼は完璧にオールドファッションのポテンシャルをひきだせるんだ」
「つまり今日食べたオールドファッションが100%本気のオールドファッションってことか……」
「そういうことだね」
モネはコーヒーを一口すすった。
「いや、そんなスーパーサイヤ人みたいなオールドファッションある?」
「実際戦闘力高かったでしょ?」
「いや……それはまあ……」
モネたちの隣のテーブルでは、老夫婦が映画のパンフレットを広げ、楽し気に微笑みあっていた。
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