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第9話※

「っ……」  膝立ちになって、チャックを下ろしてそれを取り出す。  冷えた部屋の外気にさらされても、それは熱を失わない。 「……ぅ」  汚さないようにシャツをたくし上げ、裾を口でくわえる。  右手でそれを持って、ゆっくりとしごく。  ずっと我慢していたこともあって、それはあっという間に硬く屹立した。  手を動かすたび、腰が跳ねる。  全身が熱い。  汗でシャツが張り付く。  でも、それすら甘い感覚を呼ぶ。  まるで軽い発情期みたいだ。 「くっ……」  俺は必死にシャツを噛んで声を抑えた。  もう、すぐ……。  のぼりつめようとした瞬間、部屋に無機質なノックの音が落ちた。 「泰斗さん」  俺は息を飲む。 「ここのアメニティ、洗顔料がないみたいです。僕持って来ているので、よかったら貸しますよ」 「……! い、いいって、だいじょうぶ……!」  立とうとするが、足に力が入らない。  俺はバランスを崩す。  思わず床に手をつくと、思っているより大きな音が鳴ってしまった。 「どうかしました?」  怪訝そうな声と、ドアノブに手をかける音。  ドアに鍵をかけていなかったことを思い出す。  俺が鍵に手を伸ばすより、雅がドアを開ける方が早かった。 「あ……」 「え……?」  床に四つん這いの格好で、雅を見上げる。  彼は目を丸くしている。  俺たちは見つめ合ったまま、動かなかった。  雅の喉が上下する。  ごくん、という音がいやに響いた。  そのとき、エレベーターのある方から人の声が聞こえた。  俺ははっとして立ち上がる。  ドアは外開きだ。影になって廊下は見えないが、前を通られたら――。  ドアノブを掴んで閉めようとしたが、びくともしない。  雅が力を込めたままのようだ。 「おい、雅」  小声で名前を読んでも、雅は俺をじっと見たまま、微動だにしない。  小さく舌打ちをする。  足音はどんどんこちらへ近づいて来る。  俺は雅の腕をひっつかむと、部屋の中に引っ張り込んだ。 「……っ」  勢い余って部屋に仰向きに倒れる。  引っ張られた雅も、俺の上に倒れ込む。  俺は痛みにうめきながら、耳だけでしっかり外をうかがう。  カツカツというヒールの音と、楽しそうな声が閉まったドアの前を通っていく。 「ギリギリ、セーフ……」  俺は力を抜いた。  危なかった。 「た、泰斗、さん」  雅が俺の耳元で声を出す。  倒れた拍子に、俺は雅を抱きしめる形になっていた。 「あ、わりぃ」  手を離すが、雅はその態勢のまま動かない。 「雅?」 「すみません、びっくりして」 「腰抜けた?」  雅は俺の肩口に顔を押し当てたまま言う。 「……なにしてるんですか」 「お前が悪いんだぞ」  ドアを勝手に開ける奴があるか。  雅は静かに言う。 「……私のせいですか」 「お前のせい以外にないだろうが」 「――責任、とります」  雅は俺の上に倒れ込んだまま、右手をゆっくりと下へ動かす。 「おい……?」 「僕がします」  彼は、そう言って俺のそれに触れる。 「こら!」  慌てて引きはがそうとするが、彼は離れる気配がない。  それどころか、俺の両手をひとつにまとめて、そのまま床に縫いとめてしまう。 「ちょ、待てって、なぁ……」  彼の細めの体のどこにそんな力があるのか。  その手は力強く、振り払うことができない。  彼はまた俺のそれに手を伸ばす。  さっきので萎えていたそれが、彼に触れられた瞬間に熱を取り戻す。 「まずいって……!」  俺の抗議を無視して、雅の右手が上下に動き出す。  さっきまでひとりでしていたせいで、それは先走りで濡れている。  こすられるたび、くちゅくちゅと水音が立つ。 「……っ!」  完全に屹立したそれの先端を、指先でぐりぐりと押されて、俺の体がびくりと跳ねる。 「ぅあ……みや、びっ……それやめて」 「泰斗さん。……逃げないで」 「ちょ……うっ……」  腰を逃がそうとしても、上から体重を掛けられて押さえつけられる。  俺は彼の背中をばんばんと叩いた。 「雅……! 苦しいって」  その言葉を聞いて、雅はやっと俺の体を離した。  彼は俺の顔の横に手をついて、上体を持ち上げる。  ようやく、彼と目が合った。  俺は息を飲む。  ――彼の目は猛禽類が獲物を狙う時のようにぎらぎらと光っていた。  彼の股間も、ズボンが大きく膨らんでいる。  あのキスでこうなったのか。  それとも、いま部屋に引き込まれてこうなったのか。 「泰斗さん……」  彼は縋るように俺の名前を呼ぶ。  どう見ても、襲われているのは俺のほうなのに。  そんな声で名前を呼ぶなよ。  俺はゆっくりと雅の頬を撫でる。  まったく、手のかかる奴だ。 「雅」 「……泰斗さん」 「ほら、来いよ。……ちゃちゃっと擦って、楽になろうぜ」  俺は雅の手を引いた。 「は、ぁあ、あっ……」  ホテルの部屋に、ふたり分の吐息が響く。  ベッドの上で、俺に雅が覆いかぶさっている。  俺たちは互いの高ぶったそれをぴたりと合わせて、雅がしごきあげていた。 「はぁ、あっ……」  雅のそれは熱くて、俺よりずっと大きい。  ぬるぬると擦られると、つい声が漏れてしまう。  聞くに堪えず、俺は唇を噛んで声を我慢する。  雅も俺もスーツを着たままで、それだけを露出している。  汗ばむ肌、額に張り付く前髪。  彼の吐息が降ってくる。  でも俺たちはネクタイをしていて……。  倒錯的。  そんな言葉が頭のなかに浮かんだ。 「泰斗さん」 「んんっ……」  熱い。  雅に触れられているところが。  彼の吐息がかかったところが。 「くぅ……ぁあ……」 「泰斗さん」  彼の視線が、熱を孕む。  俺たちは見つめ合う。  雅の、形のいい薄い唇。  それがゆっくりと近づいてくる。  俺は首を振った。 「駄目だ……馬鹿」 「……っ」  「キスすんな……」 「……なんでですか」 「おさまらなく、なる……だろ……!」  俺は身をよじる。  たった1度のキスで、こんなふうになってしまった体。  2度目のキスをしたら、一体どうなってしまうのか。 「泰斗さん」  雅はせつなげな声を出す。  俺は首を振る。 「駄目だ……って」 「泰斗さん」  ああ、彼の声。  俺の名前を呼ぶ。  俺を、求めている。  俺は腹の奥がずんと重くなるのを感じた。 「雅、も、もうっ、一回、離れて……!」  これ以上は、駄目だ。  はやく彼から離れなくては。  頭ではそうわかっているのに。  俺の腰は彼の手にそれをすりつける。  もっと刺激を、もっとくれとねだる。 「泰斗さん」  雅の手の動きがはやくなる。  互いの先走りが混ざり合い、淫靡な音を立てる。  背筋を快楽が駆け抜け、足がぴんと伸びる。  腰がうねり、尻が跳ね、心臓が、うるさい。  視界が、白く塗られていく。  ふつふつと腹の奥から熱が込みあがって来る。 「み、雅、ごめ、俺、もう……」 「僕も、もう……」  体が、震える。  知らない。  こんな感覚は、知らない。  小さな泡が、体中から集まってひとつになって――。 「泰斗さん」 「ああっ……いっ……!」  名前を呼ばれた瞬間、それははじけた。  目の前が真っ白になる。  ぎゅうっとシーツを掴む。  腰が浮く。 「あああ……!」 「っ……!」  俺たちは、同時に精を吐き出して果てた。  

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