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第2話
ルーカスは男たちの靴を強引に磨くと、2人からきっちり代金を受け取った。そして彼はその金をポケットにしまうと、踵を返した。
「じゃ、夕飯食べてくるね」
「ルーカス様!」
男たちは慌ててその後ろをついてくる。そして言い募る。
「困ります。お父君はあなた様をお待ちなんですよ。お食事は後にしてください」
「ええ。お食事は我々がご用意しますから」
口々に言う男たちを睥睨して、ルーカスは言った。
「なんで僕が行かないといけないんだ? 探していたなら、そのα親とかいうのが来ればいいじゃん」
男たちの制止の手をすり抜ける。
ルーカスは人通りの多い路地を選んで走り出す。慣れた彼はするすると人の間を縫うように進み、何度も人とぶつかっては足を止める男たちとの距離を離していく。
そして仕上げに、角を曲がった瞬間、露店の主の足元にもぐりこんだ。
男たちは人ごみに押されながら角を曲がり、ルーカスを見失ったことに気が付くと、大声をあげて走り去っていった。
「……撒けたかな?」
ルーカスは地面を這って移動すると、そのまま露店の椅子に腰を下ろした。そしてポケットから金を出す。
露店の主はそれを受け取ると、代わりにルーカスに温かい肉入りスープを手渡した。
そして尋ねる。
「おう、ルーカス。どうしたってんだ?」
「ありがとう、おっちゃん。助かったよ。なんか変なのに目をつけられてさ」
「あいつら、何なんだ? 見かけない顔だったが」
「うん。たぶん、軍人」
男たちが履いていたのは厚みのある底、ボリュームのあるつま先の編み上げブーツである。ルーカスはそれが軍靴として使用されるタイプのものであることを知っていた。
露店の主は首を捻る。
「軍人? 軍はもう解体されたはずだから……軍隊崩れか。あちこちで悪さをしてるって話だな」
ルーカスたちが暮らすケントット国は一年前にダン帝国との戦争に負け、武装解除となり軍がすべて解体されてしまっていた。それで、職にあぶれた元軍人たちが裏稼業に手を染めているのだ。
「嫌な世の中だねぇ」
ルーカスは肩をすくめた。人通りの多い驛前で商売をしていると、こうした話を見聞きする機会も自然と多くなる。彼は大人を真似て、苦虫を噛み潰したような顔をしてみせた。
反対に、売り子は豪快に笑う。
「仕方ない、仕方ない! 戦争に負けるってのはそういうことなのさ」
「今日はさっさとマイトレ村に帰ろうかな」
「そうしろ。お前さんはきれいな顔をしているから、また妙なのに狙われるぞ。そういえば、こないだはマフィアのボスに愛人契約を持ちかけられたんだろ?」
「断ったよ。僕は心に決めた人がいるからさ」
「でたよ。運命の人!」
「おっちゃんも写真見る? かっこいいよ?」
「もういい。何回も見た」
ルーカスは写真を大事にポケットにしまうと、一気にスープを飲み干した。
「じゃ、行くね」
「おう。また来いよ」
意気揚々と露店を離れたルーカスだったが、路地を進んだところで運悪く先程の男二人と鉢合わせてしまった。
「いたぞ!」
男が叫ぶ。ルーカスはくるりを男に背を向け走り出す。
「ルーカス様!」
叫ぶ男に負けじと、ルーカスも叫ぶ。
「しつこく追いかけまわしているところ悪いんだけど! 僕! さっきスープ買ったから! 有り金全部使っちゃった! 狙う価値ないよ!」
「我々は詐欺師ではありません!」
「軍靴を履いている人間に近寄っちゃいけないって! 子どもでも知ってる!」
器用に人混みを抜けるルーカスを見て、男の一人が低く呟いた。
「クソガキが」
もう一人も言う。
「……誤解されているようですが、我々は正規の軍人です。ですので、こういうこともできます」
男のひとりが懐から拳銃を取り出すと、空に向けて引き金を引いた。銃声が雑踏の中に響いた。
乾いた音は天に吸い込まれ、一拍の後に沈黙を運んだ。
人々は咄嗟に身をかがめ、三拍後、口々に言った。
「なんだ?」
「銃?」
「本物か?」
ルーカスも例外なく足を止めて身をかたくしていた。その隙に男たちに距離を詰められ、その場にねじ伏せられてしまった。
「放せ!」
ルーカスは激しく抵抗したが、相手が大の男二人である。小柄なルーカスに勝ち目はなかった。
ルーカスは負けを悟ると、今度はあらん限りの力で叫んだ。
「人攫いだ! 誰か助けて!」
周囲にできた人だかりの中から、恰幅の良い男が何人か近付いてくる。ルーカスの顔馴染みの客もいた。
しかし、ルーカスを取り押さえている男たちは身分証を掲げ、乱入を阻止した。
「我々はダン帝国軍第7師団所属のグレンヴィル・グレン中尉とトニー・スチュアート少尉だ」
ルーカスを中心にできた人だかりが、一斉に一歩退いた。
「ダン帝国軍の身分証だ……」
「なんで帝国軍がここに?」
「ダン人なのか?」
困惑、恐怖。負の感情は一気に伝播し、野次馬たちは恐慌した。
それはルーカスも同じである。
ルーカスは抵抗をやめ、地面に転がされたまま、呆然と男たちを見上げた。
「帝国軍? 本当に?」
「ええ……。あなたのα親はダン帝国人なのですよ。いいですか、もう抵抗してはいけませんよ」
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