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第17話

 獣人の手は、一見普通の人間の手のように見えるが、触れてみると肉厚で、皮膚が固い。  爪も人間のものより硬く、しっかりと研げば小動物くらいは切り裂くことができるらしい。  俺はそんな獣人の手に右手を握られた状態で、村を歩いて回った。  モーテスが言うことには、こうして手をつないだ状態を見せつけておけば、父親も納得するだろう、ということであった。  いい大人が手をつないで歩いたくらいで……とも俺は思ったのだが、これが効果覿面であった。 「も、モーテスが精霊と手を……!?」 「もう恋人じゃん!」 「モーテス、やるなぁ!」  俺たちの姿を見た村人たちは中学生男子のように俺たちを冷やかした。  そのほかにも、顔を真っ赤にして逃げ出す者までいた。 「うぶ、なのかな……獣人って」  俺がぽつりと言うと、モーテスは耳を掻いた。 「まあ、そうかもしれませんね。獣人は、基本的に人前でこういう行為は……」 「こういうって……手をつないでるだけだよな?」 「あなたにとってはそうかもしれませんが……」  種族によってこうも違うとは。  ヴァンパイアの一族なんて手も握ったし抱き上げたし、なんならキスまでされている。  ワイバーンは服を脱いで裸まで見せた。  俺はウブな獣人に感化されて、こっちまで恥ずかしい気持ちになった。  獣人の村は無骨なつくりであった。  モンゴルのゲルを思わせるようなテントと、いくつかの小屋。森を切り開いた広場。それが彼らの村のすべてである。  食料はすべて狩りで賄っているという。  農耕は行わず、基本的には狩りで手に入れた毛皮を人間の村に持っていき、野菜などと交換するのだという。  村の中にはなめしている途中の毛皮がいくつも干されていた。 「人間と交易してる種族なんですね」  俺が言うと、モーテスは首を振った。 「交易というより、人間に服従しているんです」 「そうなんですか?」 「はい。魔物としては我々は力が弱く、人間と戦うには数が少ないので。先の大戦でも、我々獣人は人間側に従軍しました」 「へえ」 「だから、我々は獣人以外とは婚姻しないのです……人間とは、難しいでしょう……?」 「たしかに、そう、かなぁ」  いろいろな種族がいる。  精霊の父は、ほんとうに俺が人間よりの思考であることを尊重して見合い相手を探してきてくれていたのだ。  胸の奥がちくりと痛んだ。  村を一周したところで、俺は言った。 「その、どれくらいまで、手、つないでいれば……」  モーテスはまた耳を掻いた。 「十分です。ありがとうございました」 「いや、その、これだけでお役に立てたなら……」  離された手をひっこめる。  お互い、照れ臭くて、沈黙が落ちる。  そんな俺たちを、モーテスの弟のダットが近すぎもせず、遠すぎもしない距離から見ている。  彼は俺には口をきかないが、俺を鋭い目で睨んできている。  俺という存在に警戒しているようだった。  しかし、いまのところもうすぐに村を去る予定の俺には関係のない話である。  俺はダットの視線に気が付ないふりをして、モーテスを見上げた。  彼は耳をぴこぴこと動かして、俺を見ている。  先に口を開いたのはモーテスだった。 「ゲンセンに行かれるのですよね?」 「あ、ああ……その、道がわかったりします?」 「わかりますよ。ご案内します」 「いいの!?」  驚いて振り仰ぐ。  モーテスの目は俺から頭三個分ほど上にある。  彼はもごもごと言う。 「まあ、私もちょうどゲンセンに用があったので」 「くぅ~! 助かるよ!」 「人探しですよね?」 「そうなんです」 「手伝いますよ」 「うーん」  ありがたいモーテスの申し出だが、俺は首を捻った。  探すにも、名前がわかっていない。  両親の顔は覚えているが、それだけだ。 「似顔絵……描ける気がしないし…どうやって探そう……」  俺が言うと、モーテスも首を捻る。 「名前、わからないんですか?」 「うん」 「外見の特徴とかは……」 「ええっと」  俺は記憶をたどる。生まれてすぐの頃の記憶だ。  父親の外見の記憶はあまりない。平々凡々で、特に印象に残るタイプではなかったのだ。  しかし、母親の方はよく覚えている。 「桃色の髪をしたかわいい系の女の人と、平凡な男の夫婦、なんですけど」  俺が言うと、モーテスは目を見開いた。 「それって、もしかしてホークアイ夫婦ですか?」 「え? ホークアイ?」 「ええ。ゲンセンの、聖女さまとその旦那様ですよ。桃色の髪は聖女の証ですから」 「聖女……」  なるほど、と俺は合点した。  やはり、俺の母親を一目見たときに感じたあの「ヒロイン感」は間違っていなかった。  ドジっ子属性があると思っていたが、そこにさらに聖女属性までのっかるらしい。ますますヒロインだ。  そしてこの場合、主人公は間違いなく平々凡々な父親だろう。  ――う、うらやましい……。  俺は臍を噛んだ。  しかし、うらやんでばかりいても仕方ない。  俺はモーテスに尋ねた。 「聖女って、何なんですか? 魔物を退治したりします?」 「いいえ。聖女は魔物と人間の和平を行う存在です。ホークアイご夫婦は、我々獣人と、近隣の村々との調整を行ってくれています」 「へえ! 知り合いなら、話は早いな! 連れて行ってくれる?」 「かまいませんが……」  ここまで言って、モーテスは一度言葉を切った。  それから、躊躇ったあと、言った。 「なんの用ですか?」 「ちょっと、その、見てみたい、みたいな?」  俺の言葉に、モーテスは胡乱気な顔をした。 「聖女様に危害を加えられては……」 「ないない! 絶対ない! 誓う!」  俺が言うと、モーテスはため息をついた。 「では、明日、ご案内します」

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