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第18話
翌朝、俺のために車が用意されていた。
馬車のような見た目をしたその乗り物を、獣人は自ら牽いていくらしかった。曰く、「馬に牽かせるより自分で牽いた方が早い」ということだった。
獣人、見た目は人間と大差ないというのに、脚力は馬に勝るほどらしい。
俺はちょっとびびりながらそれに乗りこんだ。
車を牽くのはもちろんモーテスである。
「お、お願いします」
俺が言うと、モーテスは静かに頷いた。
「どれくらいかかる?」
「さあ……」
「揺れる?」
「さあ……」
モーテスは朝に弱いのだろうか、口数が妙に少ない。
彼は脚に力をいれる。
車はゆっくりと走り出す。
木々の間を切り開いて作られた道の真ん中を進む。
動き出した車には窓がついていて、俺はそこから獣人の村を振り返った。
村の入り口ではダットが立っていて、相変わらず俺を睨みつけている。
気に入らないなら寄って来なければいいのに、彼は俺を見張ることに余念がない。
俺は息を吐いた。
敵意、というのを向けられるのに慣れていない。
あのぎらぎらした視線から逃れられて、少しほっとした。
車は森の中をモーテスの歩幅で進んでいく。
俺は馬車には乗ったことがないので馬車との比較はできないが、これまで乗って来た蝙蝠車やワイバーンの背中のことを思うと、ずっとずっと安全な乗り物であるように感じた。
車軸がぎしぎしと音を立てる。
俺はその規則的な音を聞きながら、ゲンセンに着いてからのことを考えた。
――父さん、母さんに会って、俺が息子だって伝え……てもいいのかな。信じてくれるだろうか。
俺が18年前に消えた息子だという証拠はなにもない。
もし彼らが俺を息子だと信じてくれたとしても、今後一緒に暮らせるというわけでもない。
俺は産みの親に会ったら、精霊の父のところに戻るつもりなのだ。
会ってすぐに別れることになる。
でも、元気でやってると一言いいたい。
いろいろな思いが胸にこみ上げ、結局何も決められなかった。
親子なら何とかなるだろう、という甘い算段だ。
出たとこ勝負、ともいえる。
そもそもノープランでここまで来たのだから、ここでうだうだ計画を練ってもしかたないだろう。
俺は思索をあきらめ、車の中で目をつむった。
*
ゲンセンに着いたのは太陽が高く上ったころだった。
獣人であるモーテスが現れても、街の人たちは当然のように受け入れていた。
街の入り口では簡単な身体検査と身分証の提示が必要なようだった。
当然、俺はそんなものは持っていない。
俺はモーテスに言われたとおり、森で育った孤児だと答えた。
簡単な問答のあと、モーテスと庇護人として俺は街に入ることを許された。
「ありがとう」
門を抜けたところで、俺は改めてモーテスに礼を言った。
「?」
モーテスは首を傾げる。
いま俺は車から降りて、車を牽くモーテスの隣を歩いていた。
モーテスのしっぽが歩幅に合わせて揺れている。
「大きな街って、入門検査があるんだな。知らなくて。モーテスがいてくれなかったら中に入れないところだったよ」
俺が言うと、モーテスは「ああ」と耳を掻いた。
「別に、大したことではありませんよ。本当に、私も用があったんです」
「そっか。それってどんな用? 俺も手伝える?」
尋ねると、モーテスは沈黙した。
「え? ど、どうしたの?」
俺は慌てて隣を見上げる。
彼は顔を真っ赤にしていた。
俺はぽかんと口をあけた。
「え?」
「いえ……あの……その……用事は……ひとりで……」
彼はもごもごと答えた。
俺はちょっと首をかしげて、それから「もしかして」と邪推した。
「……逢引き?」
俺が言うと、彼はさらに顔を真っ赤にした。
そしてしっぽの毛を逆立てた。
――わかりやすい。
「ふぅん?」
俺はちょっと思春期の子どもをからかうような悪い大人の顔になって、彼の顔を覗き込む。
「隠れて会ってるの?」
「…………」
「この街に住んでるってことは、相手は人間?」
「…………う、うぅ……」
モーテスはその場に座りこんでしまう。
そして俺に懇願する。
「村のみんなには、黙っていてくれますか……」
「もちろんだよ」
俺は彼の背を叩く。
「相談、乗るぜ?」
ちょっと年上ぶってみる。何と言っても、俺の中身は大人だ。たとえこの身に転生してからは恋愛経験ゼロであったとしても。
胸を張る俺をモーテスは見上げている。
俺はまた言った。
「で? 相手はどんな子?」
モーテスは目に光を宿して、俺の手を握った。
「相談、乗ってくれますか」
「いいよ」
「実は……これから行く、ホークアイご夫婦の息子さんのことを、好きになってしまったのです……」
「え?」
俺は目を見開く。
そんな俺に気が付かず、モーテスは続ける。
「彼のことを思うと、胸が苦しくて……一目見るだけで満足なのですが、最近は、それがもの足りなくなって……」
「待って待って。え? ホークアイさんの息子?」
「ええ」
「えっと……何歳?」
もしかして、俺の弟の話だろうか、と思った。
しかし、その予想は外れる。
モーテスは答えた。
「息子さんは、18歳ですよ」
「え?」
――俺と、同い年?
俺は驚愕で声を失った。
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