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第1話

 蝋梅(ろうばい)のひとえだと、冬の気配を封じた依頼文を手に、韶華(しょうか)は重く息をつく。 「あなたを、軽んじているんです」  鶏明(けいめい)の白けた声だった。  あの神の使い、蝸牛(かたつむり)がことづてとともに南風を運んできたというのに、屋根の下の温度は一段と冷え込んだように感じられた。 「花神(かしん)なら断らないと、踏んでいるんでしょう」  柱を背にして鶏明は頑として突っぱねる。黄塵色(こうじんいろ)の長衣をすげなく風に靡かせる彼は、ひょっとすると韶華に向けて言い放つようでもあった。  遡ること四百年前、韶華は五百年の幽閉を命じられ、現在、百年の刑が残る身であるのは、やはり、蝋梅の枝と、その頼み事を断り切れなかったためだった。鶏明は手紙の内容に不服を示すと同時に、受け入れてしまう韶華を責めているのだ。  韶華は決して優柔不断な性格ではない。自分が裁かれると知りつつも、当時は状況もいずれ好転すると信じていたのだ。その結果が、心強い後ろ盾を失うことになり、惨めにも刑を言い渡されることになってしまうとは、当時は思いもしなかった。  韶華は苦々しく唇の端に笑みを浮かべた。 「勿論、断るつもりだよ。手の放せない雀が一匹、いることだからね」 「誰が雀だ」  睡蓮の咲き乱れる池のほとり。その、いじらしい花を彫りあしらった亭が花樹のように佇んでいる。瓦の先からほとほとと降りしきるのをみると、まさにこの亭が花を結んでいるようではないか。  足元に吹きだまる花片は貝殻のように白くかがやき、春の光りがたゆたうひとときに香りはつきず、草色は遠くけむっていた。  この常春の地は月の満ち欠けを韶華と共に四百年繰り返した牢獄である。当初の荒廃した姿は、韶華がかすかに吹きこぼす春気によってすっかり消え失せていた。  韶華は再び息を吐く。 「これは、面倒だな……」  手紙を睨みつつ筆の頭で鬢を掻いていた。  依頼人は北都北帝(ほくとほくてい)。天の神々を統べる天界の主、北の神だった。手紙に満ちる墨のかおりは、凍てついた厳冬のしぐれのかおり。ひょっとするとその香りは署名よりもはるかに北神その人の権威をしめす。  北神とはかつては同じ思いを掲げていた旧い友人同士で、時流に逆らった韶華をここへ投獄させたのは、その彼だ。  手紙を読み込んでいた韶華は三度目にしてようやく理解した。  要は幼神の養育を任せたいという、実に北神らしく傲慢……ではなく、遠回しに遠回しを重ねて逃げ腰に伺い立てるような、大変趣旨のわかりにくい手紙であった。  ――相変わらずのようだな。  それに、ひとつらの蝋梅。  北神の苦心は筆墨(ひつぼく)からもにじみでて明らかだが、子どもの養育など、煩わしい。都合をつけて断ってしまおう。

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