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番外編 その後、ナオ君と家出

玄関のドアが開く音がした。 時計を見ると9時をちょっと過ぎていた。今日も涼介さんは帰りが遅い。前は玄関まで迎えに出ていたけど。この家のどこに僕がいるのか探すのが楽しみだからお迎えはいいよと言われてしまった。 だけど、探す素振りもなく涼介さんは僕がどの部屋にいてもまっすぐ僕のところに来るんだからすごい。 ソファに座って待っているとまっすぐにリビングに来た。僕の正面に立つと肩に手を置いてチュッと音を立ててキスをくれる。 「ただいま」 そう言って満足するまで僕を抱きしてめてくる。 「おかえり」 僕はその動きを止めるように両手で頬を挟んでタコの口にさせた。面白い顔にしたのにかっこいいなんてズルい。僕はその唇にキスをした。 「今日も遅かったね」 首に手をまわして僕が睨むと「だってさ」と言って僕のお腹に手を当てた。 そう、僕らはあの12月のヒートで赤ちゃんを授かっていた。 2月の終わりのヒートが来なかったことで発覚した。予定日は9月だそうだ。 涼介さんはお父さんになるために張り切って仕事をしている。子供を育てるのはお金がかかるからと言う理由らしい。そのおかげで毎日帰ってくるのが遅いのだ。分かっている、僕らのためだって。 僕はキッチンに立って料理を温めなおした、その間に涼介さんは洗面と部屋を往復して部屋着に着替えてからダイニングに来ていた。お皿を出したり箸を出したりを手伝ってくれる。 「ナオもまだ食べてなかったの?お母さんたちと先に食べてて良かったのに」 僕の席にも料理を並べていると悪びれなく涼介さんはそんなことを言う。僕は涼介さんの前に座って手を合わせていただきますをした。 「ん、おいしい」 涼介さんはおいしそうに料理を平らげていく。 「僕はこうやって涼介さんと二人でご飯が食べたいんだ、ダメ?」 涼介さんは食べる手を止めて 「嬉しいけど、遅くにご飯を食べるのは消化に良くないだろ?それに俺に合わせてると寝る時間が遅くなるから。ナオの体に良くないんじゃないかな」 「うん・・・」 僕のために言ってくれているのも分かる。初めての妊娠で不安なのもわかる。 だけど僕はできるだけ涼介さんの側にいたかった、だから帰ってくるのを待っている。少しでも団欒して話をしたかったのに。ご飯くらい一緒に食べたいって言っても良いじゃないか。まったく、涼介さんは分かってない。だんだんとイライラしてきた。 「わかったよ、僕もう赤ちゃんが生まれるまでお母さんの家で暮らす」 僕は妊娠中だ。3秒でキレてやる。 僕は食べる手を止めて。そのままサンダルを履いて徒歩30秒の家出をした。両親の家の玄関に入るとしっかりチェーンもかけた涼介さんがこっちに来られないようにだ。 「おかえり」 お父さんがリビングのソファで手をひらひらさせて迎えてくれた。 僕が不満そうな顔をしてそのままソファに座ると、立ち上がって紅茶を入れてくれた。 「今日も涼介は帰りが遅かったんだね」 お父さんはテレビを消してオーディオを付けた。僕はコクリとうなずいた。 「子供を育てるのにお金が必要なのは分かるんです、だから一生懸命働いてくれている。僕らのために。だけど僕は涼介さんの体が心配だ。それにお金に困るのなんて慣れてる、だけど涼介さんと一緒にいられないのには慣れないからできるだけ・・・そばにいたい」 お父さんがうんうんとうなずいて肩を擦ってくれた。 くだらないことは分かっているけど止まらなくなった。 「ご飯だってたくさん食べられないからせめて二人で楽しく食べたいんだ。なのにお母さんたちと食べろって、僕は涼介さんが美味しそうに食べてるのを見ながら食べたいんだ」 僕はお父さんにさらに不満をぶつけた。 「僕たちのために働いてくれた涼介さんをねぎらいたいのに玄関は寒いからって出迎えなくって良いって言うんだよ。寂しい」 僕はうなってクッションに怒りをぶつけた。 さっきまで真剣な顔を作っていたのにお父さんがたまらず噴き出していた。 「君たちはいつも初々しいね。まったく。ちょっと待ってて」 お父さんは僕の頭を撫でてから玄関に向かい涼介さんを連れて帰ってきた。 「ナオごめん」 僕は答えずクッションを伸ばしていた。そうするとお父さんが涼介さんに向かって。 「言っただろ、ナオ君は自称めんどくさい性格なんだよ、ちゃんと話し合いなさい」 思わずお父さんを見た。僕は伸ばしていたクッションをぎゅうぎゅうと抱きしめてうつむく。 「何も聞かずにごめんって言ったな。ごめん、えっと、ナオはなんで怒ったの?」 涼介さんが僕の前に正座をして僕の膝に手を置き、顔を覗き込んできた。僕はぼろぼろと涙が出てくる。だって久しぶりに僕になんでって聞いてくれた。こうやって僕の話を聞こうとしてくれている。 「僕は・・・涼介さんが僕らのために言って・・・いろいろ考えてくれるのは嬉しいんだ。だけど、心配もしてる。僕はもっと涼介さんに甘えたい。一緒にいる時間を長くしたいんだ。玄関にだって迎えに行きたい。なのに・・・」 クッションに顔をうずめた。 「・・・そっか。やばい、可愛すぎる」 涼介さんが思ったのと違う返事をするから思わずクッションを投げた。それを軽々受け止めて涼介さんが僕を抱きしめてくる。 「ナオ、ごめん。ひとりよがりだった。お詫びをさせて今妊娠14週目だろ。4月になったら安定期に入るからそしたらさ。牧野の家族にもらった温泉旅行に二人で行こう。おいしいものたくさん食べよう」 僕は涼介さんの胸を押してじっと涼介さんを見た。 「ナオ。心配かけてごめん。愛してるよ」 涼介さんの背中に手を伸ばして力を込めた。 涼介さんはそのまま僕を抱き上げてお父さんにお辞儀をした後、玄関を出て僕らの家に帰った。 僕はソファに座る涼介さんの上に座って冷静になっていた。 「ね、涼介さん、ご飯とお風呂・・・」 「今は可愛い奥さんを堪能する」 涼介さんが僕の胸にぐりぐりと頭を擦りつけてニヤニヤする。 「明日はちゃんと帰ってくるから、オムライスが食べたい」 「分かった、待ってる」 「帰ってきたらあれやって、ご飯にする?お風呂にする?ってやつ」 「・・・うん」 「それでナオの膝枕でだらだらしたい」 僕は顔を手で覆った。 「涼介さん・・・大好きだよ」 「うん、今日すごく思い知った」 時計を見ると10時だった。僕の家出は30分で幕を閉じた。 そういえば、お父さんの家にサンダル置いてきちゃったな。

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