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番外編 その後、ナオ君と結婚記念日
「おいなりさんはクマにしてね!それとソーセージは宇宙人にして!それとそれと・・・・」
キッチンでお弁当を支度していると。長男の裕基がテンション高めにリクエストをしてくる。食べることが好きで、たくさん食べるので11月の就学時検診でも一番大きかった。
「卵焼きときんぴら入れて・・あと」
お弁当用のプチトマトを洗って一つそのにぎやかな口に突っ込んだ。
裕基は嬉し気に頬っぺたに手をあてておいしーと喜んでいる。今年6つになる裕基は涼介さんの母校であるエスカレーター式の小学校に合格した。
ひとえに晴斗君のおかげである。
裕基より一つ上の晴斗君は去年その小学校に入学した。裕基は晴斗君と同じ学校に行きたい一心で勉強して親の僕らでさえ、のんびりな裕基には難しいのではないかと思ったその学校に合格してしまった。
どうしてやる気を出したのか聞くと晴斗君が同じ学校に入学できたらデートをしてやっても良いと言ったかららしい。自分の合格を確認した足で晴斗君の家に行き今日の晴斗君とのデートの約束を勝ち取ってきた。
最近の子供はませていると思うがそこは口には出さなかった。
あらかた詰め終わったお弁当箱を確認のために裕基に見せると分かりやすいくらい喜んで「ヤッタ!ヤッタ!」と踊りだした。
当たってひっくり返さない様にさっさと高いところにふたを少し開けて置いた。
そうやって裕基とふたりにぎやかに準備をしていると、涼介さんが下の子の志乃を抱いてキッチンに来た。志乃は女の子なのに涼介さんに驚くほどよく似ている。性格も裕基とは二つしか違わないのにかなりしっかりしている。いまだって、さっきから騒いでいる裕基はパジャマのままなのに志乃は着替えも、たぶん洗面も終わっている。
「裕基。お弁当できたんだから、そろそろ顔洗っておいで」
裕基は「了解!」と言って踊っていたのをやめてぱたぱたと走って行った。
「涼介さん、志乃おはよう。朝ごはんちょっと待ってて」
「「おはよう」」
2人が同じタイミングでおはようと言う。こういう親子のシンクロに癒される。
僕は冷蔵庫からパンと牛乳を出すと二人に預ける。すると、洗面室から裕基の叫び声が聞こえた。僕は涼介さんから志乃を預かり、涼介さんに行ってもらった。
「志乃ね。ぼっこりーたべたい」
ちなみに僕は志乃にメロメロだ。冷凍庫からブロッコリーを出してスチームタッパーでチンする。志乃をダイニングの子供椅子に固定してから。お弁当の残りをお皿に盛りつけてダイニングに並べ。パンをセットして、温めておいたコンソメ味のハムと卵のスープを並べていく。
裕基を抱えて涼介さんが帰ってきた。
「裕基が俺の歯磨き粉使って悶えてたよ。まだ甘い歯磨き粉しかダメなのに大人ぶろうとしてた」
裕基はまだ涙目だった。
「牛乳飲んだらよくなるかもよ。席に座って牛乳飲みな」
僕は裕基の席の前に牛乳を置いた。ついでに志乃にもストローマグに牛乳を入れた。志乃はしっかり手を合わせていただきますをして。裕基は牛乳を一口飲んでから志乃の真似をしていただきますをした。
そうこうしているうちにパンが焼けた。ジャムの瓶は涼介さんに預けてバターを出す。
弁当の蓋を閉めてから僕もダイニングに座った。
朝からほんとににぎやかだ。
「パパ後で俺の服選んで。ハルくんが好きな奴。大人っぽい奴ね!」
「了解、食べながらしゃべると口からこぼれるよ」
「ぼっこりーおいしいねー」
「ねー」
やっぱり志乃は癒しだな。裕基はご飯を食べている時が一番幸せそうだ。瞬く間に平らげていく。大きくなるわけだ。
綺麗に食べ終わると皆で手を合わせてごちそうさまを言った。
自分のお茶碗は自分で片づける。志乃はまだ小さいから僕の食器と片付けるが、裕基は最近「大人」と言うキーワードを使えばチョロいくらいにお手伝いをしてくれる。
「さすが裕基。片付けできるなんて大人だね」
そう言うとにっこりと得意げに笑う。この顔はどうやら僕に似ているらしい。
「じゃ、裕基、パパに服選んでもらいな、志乃はお父さんを見守ってて」
「「はーい」」
2人とも元気に返事をする。
食器を片付けて志乃を子供椅子から降ろしていると、涼介さんと裕基がまた戻ってきた。グレンチェックのパーカーに黒のハイネック、ブルージーンズと言う渋い仕上がりになっていた。裕基は満足げだ。
「じゃ、晴斗君に連絡するよ」
僕は牧野のお母さんに頼まれて牧野家の子供たちに勉強を教えている。そのおかげで晴斗君の連絡先を知っているのだ。
「10時に来るって」
晴斗君の家。瑞樹さんたちも牧野家の実家と言う名のマンションの3階に住んでいる。僕らの家にはエレベーターですぐだった。
裕基はリュックは子供っぽいとごねたがお弁当があるからリュックにした。その中にお弁当とお茶、レジャーシートにお菓子を入れているのをしっかりと確認させた。
10時の5分前に玄関のチャイムが鳴って裕基が走る。
瑞樹さんと晴斗君が来た。晴斗君は「おはようございます」と小1とは思えない落ち着きのかっこいい男の子に成長した。対する裕基は僕に似た顔ですごく緩んだ顔をしていた。
「涼介、直哉くん。今日はよろしくお願いします」
僕は瑞樹さんから晴斗君のリュックを預かる。その中に用意したお弁当とお茶を入れた。
「晴斗君の好きなから揚げ入れておいたからね」
リュックを返すとぱっと華やぐような笑顔でありがとうございますと微笑む。それに対して、裕基が軟体動物に成り下がっていた。
瑞樹さんが晴斗君の頭を撫でた後、帰って行った。
今日のデートは僕らが同伴だ。晴斗君の条件がそれだった。裕基からはできるだけ離れてねという密命を受けているが。
「じゃあ、晴斗君ちょっとリビングで待ってて」
「はい。志乃ちゃんおいで」
晴斗君はぬかりなく志乃の面倒を見てくれるみたいだ。僕は自室に戻って外出の準備をした。
「おまたせ」
涼介さんも鍵を持って立ち上がった。志乃は僕が手を広げると走ってきて抱き着く。裕基は相変わらず晴斗君の後ろを子犬のようについていく。振っているしっぽまで見えるようだ。
二人の初デートは公園デートだそうだ。
目的地は僕らの結婚式をしたあの公園だ。クリスマスの飾りがいろんなところにかわいらしくデコレーションされている。晴れた空は冬なのに陽が暖かくて少し汗ばみそうだった。志乃を挟んで涼介さんと手を繋ぐ。
「なんか、思い出すね。僕らも初デートがここだった」
涼介さんはマザーバッグを抱え直しながらにっこりと笑う。
「裕基が俺らの馴れ初め聞くから教えてあげたんだよ」
なるほど、涼介さんの提案か。前を行く晴斗君も裕基も会話は弾んでいるようだ。
「あれから7年?僕もう30歳を超えたね。道理で疲れやすいはずだ」
ふっと笑うと涼介さんも「俺はとっくにだ」と笑う。目じりの笑い皺があの頃より深い。志乃に合わせて歩くのでどんどんと前の二人からは離れていった。
「あの子たちもどんどんこうやって前に進んで離れてっちゃうのかな。この前まで赤ちゃんだったのに」
僕は寂しくなって志乃の手を握りなおした。
すると前方では僕らを二人が立ち止まって待っていてくれた。ジンとくる。
「あんな風に気遣える子になったんだね」
志乃が僕の手を放してお兄ちゃんたちの方に走っていた。
名残惜し気に手が志乃を追う。
「志乃もまだ赤ちゃんだと思ってたけどきっとすぐに大きくなるんだろうね」
「嬉しいことだね。どんどん大きくなってどんどん色んなことを伝えてくれるようになって。どんどんいろんな世界を見せてくれるよ」
僕はうつむいた。こういう見方ができる涼介さんがすごく好きだ。
「そうだね、だけど僕は7年経ったけど。変わらず涼介さんが好きだよ」
僕は子供たちが近くにいないことを良いことに言ってみた。初デートをしたこの場所だから言える。涼介さんが握っていた手を放して肩を抱く。
「俺もこの7年ずっと好きだった。毎日好きだ。それにいつも頑張ってるナオに感謝もしているよ。結婚してよかった」
「涼介さん」
僕は涼介さんを見あげた。
「あっ、志乃ちゃん。今行ったらだめだよ。良い雰囲気なんだから!」
僕の膝に志乃がボスンと抱き着いてきた。晴斗君が「あーっ」って言ってる。小学生に気を遣わせていたみたいだ。僕はぐっと顔が赤くなった。
僕は志乃を抱きあげてお腹に顔を埋める。志乃が嬉し気にキャーキャー言う。まだまだ、赤ちゃんの匂いだ。
芝生の広場には公園管理室があって受付に行けばタープが借りれる。涼介さんが手続きをしてくれて番号札を持って帰ってきた。裕基と晴斗君に7番と言うと二人して一気に走っていた。志乃も走りたくなったらしく僕から下りてお兄ちゃんたちの後を追った。
「なんか、公園って良いね、開放感があって」
僕は7番タープを見つけたことを報告する裕基に手を振った。
涼介さんも手を振り返し、子供たちを追ってレジャーシートを出している。裕基も負けずにレジャーシートを出して晴斗君に座るよう促していた。僕も追いついて敷いてくれたレジャーシートに座る。
「裕基も晴斗君も好きなだけ走ってきていいよ。僕ここから見てるから」
僕は子犬の放牧を決め込んだ。裕基がこの日のために用意したフリスビーやらボールを出して晴斗君に挑もうとしている。
たまに手を振るので振り返すとまた走り回っている。子供って元気の塊だな。
「あっという間だったね」
涼介さんがお茶をくんでくれた。僕はありがとうを言って一口飲む。
「そう言えば、ナオはあの頃こうやって家族で公園でお弁当食べるのが夢だって言ってたね」
涼介さんが僕のお茶を持ってないほうの手を握る。
「うん、あれから何度か来たね。何度も叶ったね」
晴斗君と裕基がフリスビーを投げ合って遊んでいる。晴斗君がたまに志乃にもフリスビーを持たせてあげていた。裕基の顔ははじけるような笑顔だった。
「就学時検診さ。裕基ってアルファだったね。やっぱり晴斗君の側を離れないのってそのせいかな」
「あぁ、そう言うのって思春期からだろ。今はただ単に憧れているだけだと思うよ」
「裕基を見てると、涼介さんを思い出すよ」
僕がニヤリと笑って涼介さんを見ると、涼介さんがちっとも怖くない顔でにらんだ。
「裕基の顔はナオに似てるよ。あの顔であんだけニヤついてたら面白くてたまらないけどね」
やり返された。少し睨んでからまた子供たちを目で追う。
「志乃は涼介さんににてるよね、ほんと遺伝子って不思議だね」
志乃は僕と目があったことでこっちに走って来た。両手を広げると飛んで抱き着いてくる。僕はそのまま後ろに倒れこんだ。気付けば一時間ほど遊んでいたみたいだ。
「よし、志乃ー良い時間だ。お兄ちゃんたちを呼んでお弁当にしよう」
志乃は僕から這って立ち上がると片手を上げて元気よく「はい!」と言って二人を呼びに行った。
裕基はリュックを背負うと晴斗君の手を握る。
「ハル君、むこうにお花の綺麗な場所があるんだよ。そこで二人で食べない?」
裕基が精いっぱいカッコつけて晴斗君を誘う。晴斗君はしょうがないなって顔をして「良いよ」と言って二人でお弁当を持って食べに行った。
「あーなるほど。これが狙いだったんだね。弁当を分けたの」
僕は志乃の手を除菌シートで拭きながら離れていく二人を見た。
「まぁ、今日は二人の初デートだから」
涼介さんはお皿とカトラリーを準備して僕らの前に置いてくれた。
「くまちゃーん」
志乃がお弁当の中のおいなりさんに挨拶している。僕は卵焼きを食べて味を見る。
よかったいつもの味だ。
「ぼっこりーおいしいね」
「ね」
「たまどもおいしいね」
「ね」
志乃はご機嫌にパクパク食べていた。食べ方が涼介さんと一緒だ。二人並んで食べる姿に癒される。
デザートに持ってきたみかんを剥いて志乃の口と涼介さんの口に放り込んでいると。
裕基と晴斗君が帰ってきた。裕基がくねくねしてるのが面白い。
お弁当箱をしまうと涼介さんが志乃を抱き上げる。
「お父さん!今ハル君とね。むこうのチャペルに行こうって話をしてたんだ」
「うん」
「志乃も行きたい」
裕基がなんだが不自然にはしゃぎながら誘ってくる。志乃はご機嫌だ。
僕らは立ち上がってレジャーシートを片付けると。番号札を公園管理室に返してチャペルに向かうことにした。懐かしい道のりだ。
「パパと父さんはここで結婚式を挙げたんだよね」
「そうだよ。雪が降っててね。すごくきれいだったよ」
「ハル君は見たんだよね」
「赤ちゃんだったから覚えてないよ」
「結婚式はね、ありがとうと幸せだーをお世話になった人に披露する式なんだよ」
涼介さんを見上げて言う。涼介さんも思いだしたみたいだ。ニヤリと笑う。
あの頃は僕の歩幅に合わせて歩いてくれていたな、今は子供たちに合わせて歩いてくれている。
やっぱりこの人は何年経っても優しい人だ。
到着したチャペルは昔と変わらない佇まいだった。午前中に結婚式があったみたいだ。
家族で中をのぞいているとチャペルの方からスタッフの人が僕らを中に案内してくれた。
中は綺麗に花とキャンドルが飾られている。僕が邪魔になるから遠慮していると。
「今日ってクリスマスだよ」
裕基が俺を見て言う。昨日牧野家のクリスマスパーティーをしたから知っているけど。
「ナオは相変わらず自分のことは無頓着だな」
僕がハテナと言う顔をすると。信じられないと言う顔をする。
晴斗君と裕基をみると二人とも知っているみたいでやれやれと言う顔をした。
「今日、ちょっとだけ借りたんだ」
「えっ」
僕は涼介さんを見上げる。涼介さんが志乃を抱きなおして手を出すから、その手に手を重ねた。そのまま、中央の通路を祭壇に向かって誘導される。
晴斗君と裕基は後ろからついてきた。
一番前の席にはバラのブーケが置いてあった。晴斗君と裕基がそのブーケを涼介さんに手渡す。
「ナオ、12本のブーケだよ、ここまでヒントを出しても分からない?」
僕は情けなくて顔を覆った。そうか、今日は結婚記念日だ。
涼介さんが僕にブーケを差し出してくれる。僕がそれを両手で受け取ると。
「また、1年君を愛します。一緒にいてください」
僕はコクコクとうなずいて膝をついて近くにいた晴斗君と裕基を抱きしめる。
「もちろん。もちろん、僕も大好きです」
僕は泣いてしまった。子供ができて強くなったつもりだったのに。まだまだ、涙とは縁が切れない。
「今日がパパと父さんの記念日だって聞いたから。ハル君とパパと僕で考えたんだよ」
得意気に裕基が胸を張る。
「みんなのおかげですごく素敵な家族の記念日になったよ」
裕基が僕の涙を手で拭いてくれた。晴斗君が真っ赤になって僕の背中をさすってくれる。
涼介さんが僕を立ちあがらせて祭壇の方を指さすとそこにはカメラがあった。
「よし、ばあちゃんたちが家で待ってるから帰ろう。サプライズは成功だ!」
涼介さんがにっこりと笑う。僕の肩に手をまわしてカメラに向かってピースをした。
どうやら今日のことは牧野家が一枚かんでいるらしい。
僕は久しぶりに晴斗君と裕基を交互に抱きあげてみた。二人ともずっしりと重くて昔とは違う。
だけど僕がこの7年で集めて来たものが詰まっているようでその重さが愛おしかった。
家に帰ると応接室で牧野の両親、木下の両親、牧野家の家族がサプライズ成功と言う看板を掲げて僕らを待っていた。楽しんでいるなとは思ったけど、それ以上に嬉しかった。
応接室は昨日のパーティーの名残でまだきれいなままだった。机の上には家族記念日 7周年と書かれたチョコプレートが乗ったケーキが置いてあった。
「みなさんありがとうございます、サプライズ大成功です」
僕は深くみんなに頭を下げた。
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