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第9話

 『従僕には貞操具が必要だ』……それが真っ赤な嘘だった聞かされてから、一週間が経とうとした頃の夜。 「はぁ……ッ!」  ベッドに腰掛けていたシャノンは、体をビクッと震わせた。  強張っていた陰茎が、右手の中でゆっくりと萎んでゆく。鈴口に当てたボロ切れの中には、浅ましい肉欲の残骸が、べっとりと張り付いていた。  嘘を明かされてから、シャノンは自由を取り戻した。フェリックスの許可がなくとも、勃起も射精も許可なくできるようになったのだ。  さぁ。終わったことだし、寝よう。  汚物を片付けてベッドに横たわるが、眠れない。  その原因は自身の体にあった。腹の奥が切ない。芽吹かなかったはずの快楽の種が花開き、未だにしおれないのだ。 「……っ」  シャノンは唇を噛み締めた。  男に抱かれて感じた。……清らかだったシャノンは、その事実を認めたくなかった。  それなのに……体はを求めてしまっている。    ***  自室の中、フェリックスはランプの灯りを頼りに本を読んでいた。  ……シャノンから貞操具を外したのは、もう必要ないと判断したからだ。  生涯に渡って性を管理し続けるのも、悪くはないと思った。  射精させてやる代償として(とぎ)をさせる。ポロポロと涙をこぼすまで腹を穿つ。……想像するだけで肌が粟立ち、妄想で自慰に耽ることさえあった。  だが、自由にしてやったほうが、面白いことになると思った。  その時、自室の扉がノックされた。  ほうら。そろそろ来る頃だと思った。  「どうぞ」と促しながら、フェリックスは立ち上がる。  扉の先から現れたのは、やはりシャノンだった。気まずさや恥、恨みといった感情が、複雑に混ざり合った顔をしている。 「おや。こんな夜にどうしたんだ」  とぼけながら訊ねる。  扉をしっかりと閉めたシャノンは、しばらく無口だった。  フェリックスは決して急かさず、ただ彼の言葉を待っていた。  次第に目元を悲しげに歪ませたシャノンが、口を開いた。 「私は……もう、戻れません」  シャノンの寝巻きが、はらりと床に落ちた。  (了)

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