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第6話 腹ペコの神様

 夕の分の御饌を神々の祠に運んでいく。 「御饌をお供えに来ました」  声をかけると、白い光の柱が降りてきた。御饌台から御饌が吸い込まれていく。  白い光が消えても晴は洞窟の天井を見上げていた。 「何も降りてこないよね」  ぽそりと呟いた声が、洞窟に悲しく響いた。 「あれ……?」  ゆらゆらと、白い短冊が一枚、降ってきた。短冊が晴の顔に張り付いた。 「ふぇ?」  慌てて顔に張り付いた短冊を剥がす。 「もしかして、夕暮の神様かな」  短冊には、何も書かれていない。けれど、妙に気になった。 (夕暮の神様が、書き忘れて白紙で落としちゃった、とか?)  間違って書く前に短冊を落としたのかもしれない。時間帯を間違ったのかもしれない。晴に伝えたい何かが、あったのかもしれない。  色んなことを考えて、晴は息を吐いた。 (そもそも、この短冊が夕暮の神様とは限らないよね。何も書いていないんじゃ、わからない)  とぼとぼと、御饌台の片付けを始めた。  ――カラン  小石が転がる音が聞こえた。狸の耳が、ピクリと動く。晴は耳を澄まして、音を拾った。 (呼吸するような音がする)  さらに耳をそばだてる。 「誰か、いるの……?」  森の動物が迷い込んだのだろうか。気配のするほうに、歩み寄る。大きな岩の向こう側に影が見えた。 (何か、いる)  岩陰を、そっと覗き込む。小さな男の子が蹲っていた。 「え……神様?」  見目は人間だが、気配が神様だ。 「どうして、こんなところに」  晴は、そっと手を伸ばした。神様の子供が、晴の手を見詰める。恐々と伸びた手が、晴の手を握った。 (良かった。手を握ってくれた)  握った手から、神力を感じた。 「どうして、ここにいるんですか? 神世から落ちちゃったんですか?」  神様が、こくりと頷いた。 「……覗き込んだら、落ちてしまった。その衝撃で、姿が子供に退化したんだ」 「そうだったんですね」  神様の体が、ぐらりと傾いた。 「えっ! どうしたんですか?」 「お腹がすいた」  晴の腕の中で、神様がぐったりと倒れ込んだ。 「お腹、空いてるんですか? じゃぁ、一緒に御厨に戻りましょう。何か作ります」 「いいのか?」 「勿論です。僕のお務めは、神様に御饌を作ることですから」  神様を背負って、御饌台を引きながら歩き出す。 「そうか、君が神々の御饌を作っていた、晴か」 「僕を知っているんですか?」 「神々は皆、君を知っているよ。御厨守は神々の間でも殊更、大事な存在だから」 「そんな風に言われると照れます。けど、嬉しいな。ふふ」  晴は微笑んだ。いつも短冊で御饌の注文を受けて作るだけだから、そういう話が聞けると嬉しい。 (短冊で少しだけお話したのは、夕暮の神様だけだから) 「君の料理は、美味しくて優しい。皆も、そう思っているよ」 「……え?」  思わず、後ろを振り返った。今の言葉は、短冊で聞いた言葉に似ている。 「えっと、神様のお名前、聞いてもいいですか?」  小さな神様の肩が、ピクリと震えた。 「……白瞑(はくめい)」 「そっか……綺麗なお名前ですね」  安心したような、がっかりしたような気持ちになった。 (夕暮の神様だったら、なんて考えちゃった)  神様に会える機会なんて滅多にない。偶然の巡り合わせがあったらいいのに、と考えてしまった。 (こういう気持ちは、贔屓になるのかな)  不安とは違う胸のざわめきを感じながら、晴は御厨に戻った。

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