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第21話 ぬくぬくホットコーヒー
春の神・麗良と夏の神・立夏が白瞑の屋敷を訪ねて来てから二日後、湫憂から報せが来た。
『日の神と月の神は準備が遅れそうなんだ。特別に許可を出すから、二人で冬の神の所に行っておいで』
おしゃべりオウムが湫憂の伝言を届けてくれた。
「こっちから行くのか……冬の神の屋敷に、晴を連れて行くのか」
白瞑がテーブルに突っ伏した。
晴は、温々シロップを入れたホットコーヒーを出した。
「白瞑、大丈夫?」
ソワソワ見守る晴に、白瞑が目を向けた。
「大丈夫、決意していただけだから。私がこんなでは、晴を不安にさせるね」
白瞑が優しく晴の耳を撫でた。
「白瞑が辛いなら、僕一人で行って……」
「それだけは絶対にダメ」
白瞑にしては珍しく強めに、きっぱりと却下した。
(御厨守の合意のために、白瞑に無理させているのかな。僕が諦めたら……)
ここで諦めたら、狭間に戻らないといけない。白瞑の伴侶になるチャンスを失って、二度と神世には来られない。
「ごめん、白瞑。こんなに白瞑が辛そうなのに、僕……神世で御厨守をするの、諦めたくない」
簡単に白瞑を諦めたくないと思った。白瞑の腕が伸びてきて、晴を包んだ。
「そういう晴が好きだよ。諦めないでくれて、嬉しいよ。大丈夫、晴は私が守るから」
「うん……ありがとう」
白瞑の腕が温かい。この温もりに包まれていたい。
(何が足りないのかな。白瞑の気持ちと僕の気持ちは、何が違うのかな)
出口の見えない森に迷い込んだ気分だ。
「冬の神のこと、少し教えておくね」
「うん」
晴は、こくりと頷いた。
「冬の神の名前は氷魚 、冬の間を管理する神だけど、屋敷からほとんど出ない引きこもり。気に入った相手としか話をしない変り者だよ」
白瞑の説明には、所々棘を感じる。前にも冬の神を偏屈だと話していた。
(氷魚って、前に麗良様が白瞑に似てるって話していた神様の名前だ。冬の神様だったんだ)
しかも、白瞑は険しい顔をしてた。晴は、これまでの白瞑の態度を思い返した。
(自分に似てるから苦手なのかな。他にも理由があるのかな)
「晴が行けば会ってくれるだろうけど。私とは会いたくないかもしれないね」
「どうして? 喧嘩しちゃったの?」
白瞑が晴を眺める。あまりにずっと見てくるから、困った。
「……うん。ある意味、喧嘩だね。今は嫌われていると思うよ」
「それは、悲しいね。だから白瞑は、冬の神様の所に行くの、戸惑うんだね」
シュンと、狸の耳が寝る。
「それもあるけど、それだけじゃないっていうか。むしろ他の問題のほうが大きいかな」
白瞑が煮え切らない返事をした。晴は考え込んだ。
(喧嘩した二人を仲直りさせる方法って、あるかな。僕にできること、何かあるかな)
寝ていた狸の耳が、ピンと立った。
「御饌を持っていこう」
「え? うん、まぁ。運ぶことはできるけど」
「美味しいものを一緒に食べたら、きっと仲直りできるよ!」
「仲直り? もしかして、私と氷魚のこと?」
晴はコクコクと頷いた。
「冬の神様は、お鍋が好きなんだよ。白瞑もお鍋、好きでしょ?」
「それは、まぁ。晴が作る御饌は何でも好きだよ」
「みんなで一緒に、お鍋を食べよう」
我ながら良い案だ。フルフルと尻尾が揺れる。それを眺めていた白瞑が、ぎこちなく笑った。
「一緒に食べるかは、別にしても。御饌を持っていくのは、いいかもしれないね」
「うん! 二人のために、とびきり美味しいの、作ろるからね」
晴は気合を入れた。
「いや、あんまり頑張ると、氷魚がその気になっちゃうから、程々でいいよ」
「その気になっちゃ、ダメなの? 程々のほうが、仲直りできるの?」
よくわからなくて、晴は首を傾げた。白瞑が晴の耳をムニムニした。
「わわわ! どうしたの?」
最近の白瞑は晴の耳によく触れる。けれど、今はいつもと触れ方が違う。
ムニムニよりギュムギュムする感じだ。
「晴は良い子で可愛いから、困っちゃうね」
白瞑が息を吐いた。
「困る、の?」
シュンと寝そうになる耳を、白瞑が撫でた。
「そういう可愛い姿は、私だけに見せて」
白瞑が晴の髪に口付ける。ジワリと胸がくすぐったい。仕草も言葉もいつもの白瞑より甘く感じる。切ないように胸が締まるのに、滲む想いは甘かった。
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