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第22話 もこもこ着ぐるみ

 冬の神の屋敷に赴く日。晴は散々、着込まされていた。 「今の氷魚は荒れているだろうから、冬の間は絶対に寒い。いっぱい着込んでいかないと」  フード付きのコート、マフラーに手袋。厚手のボアが付いたブーツまで履くと、秋の間では熱い。 「あ、このフード、耳が付いてる。可愛いね」  鏡を見た晴の気持ちが上がった。コートのフードに丸い耳が付いている。 「晴の耳みたいで、可愛いでしょ」  白瞑が晴にフードを被せて、紐をきゅっと結ぶ。 「よし、じゃぁ、行こうか」  気合を入れて、白瞑が晴の手を握った。 「白瞑は厚着しないの?」  白瞑はいつもの着物姿だ。寒くないのだろうか。 「私は神力で保護できるからね。晴は……まだ伴侶じゃないから、そこまで私の神力が至らないんだ」 「そうなんだね」  伴侶ではない晴は、神世では常世と同じように只の獣人だ。 (心配や迷惑、いっぱいかけちゃうな。僕の中の足りないもの、早く見つけたい)  今の晴にはまだ、自分に足りないものがわからない。早く白瞑が望む伴侶になりたい。  焦る気持ちを胸に仕舞って、晴は白瞑の手を握り返した。 「忘れ物、ない?」 「うん。御饌と魔動コンロは、白瞑が持ってくれてるよね」  晴のリュックには、簡易の料理道具が入っている。 「僕の荷物も大丈夫」  リュックを白瞑に見えせる。白瞑の目が、笑んだ。 「いつもと違う装いの晴が可愛い。これが、ただのお出掛けだったら良かったのに。いっそ行くの、やめようかな」 「え! ダメだよ。行かなくちゃ」 「冗談だよ。大丈夫」  本当に大丈夫か不安になる。白瞑が晴の手を握り直した。 「それじゃ、行こうか」 「うん」  ふわり、と茜色の神力がヴェールになって二人を包んだ。神力が眩しくて、晴は思わず目を瞑った。夕焼けのように優しく温かな神力が、晴を包んだ。  目を開けた瞬間、吹雪だった。周囲が真っ白で、何も見えない。  さっきまでの温もりが、一吹きの風で全部剥がれていった。 「さ、寒い……」  ガタガタ震える晴を、白瞑が包んだ。 「私の近くにいて、晴。寒さを遮れる」 「本当だ。白瞑に触れていると、寒くない」  さっきまで包んでくれていた温かさだ。白瞑の神力を感じた。 「ここが、冬の間なの?」  白瞑に掴まって周囲を見回す。真っ白で何も見えないから、何もわからない。 「目の前に氷魚の屋敷があるんだけどね。まさか、ここまで荒れているとは」  白瞑が険しい顔をした。 「おーい、氷魚! 白瞑が来た。吹雪を解いてくれ!」  白瞑が大きな声で叫んだ。瞬間、吹雪がもっと激しくなった。もはやブリザードだ。 「うわっ!」  飛ばされそうになった晴を、白瞑が掴まえて抱えた。 「大丈夫?」 「ありがとう、白瞑」  晴を抱えたまま、白瞑がブリザードの向こうを見据えた。 「仕方がない。晴、氷魚に呼び掛けてもらえる?」 「僕が? 会ったこともないのに、大丈夫かな」 「御厨守は神世の皆が知っている。何より、晴なら大丈夫だよ」  晴の胸が、トクンと跳ねた。 (僕なら大丈夫って、白瞑が言ってくれた)  白瞑からの期待は、嬉しい。 「わかった。声掛けてみるね」  晴は大きく息を吸い込んだ。 「冬の神様! 御厨守の晴です。御饌を持ってきました。僕たちと会ってください!」  力いっぱい叫ぶ。  ブリザードが、ぴたりと止まった。真っ白だった景色が、色を帯び始める。目の前に、大きな屋敷が現れた。 「吹雪が止んだ」 「さすが、晴だね。それにしても、正直だなぁ」  白瞑が、微妙な顔をしている。 「えっと、ダメだった?」  少しだけ不安になって、白瞑を見上げた。 「いいや、ダメじゃないよ。晴は偉い。偉くないのは、氷魚のほう」  屋敷の門扉が開く。続いて、玄関が開いた。 「誰もいないのに、開いた」  吹雪は止んだものの、屋敷は人気がなく閑散としている。 「入っていいってさ。行こう」  抱えていた春の体を、白瞑が降ろす。しっかりと春の手を握った。 「うん、行こう。氷魚様に美味しい御饌、食べてもらおう」  晴は白瞑の手を握り直して、屋敷の中に向かった。

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