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第36話 桃の薔薇ケーキ 月の雫入り
屋敷に戻った晴は、白瞑と一緒に早速、料理を作り始めた。
材料を揃えながら、月の雫を取り出す。プレテストが終わった後、照陽がそのまま晴にくれた。
「まだ少し、残っているから」
オーロラ色の小瓶を眺めて微笑む。
「ケーキを作るの?」
晴が準備した食材を眺めて、白瞑が問う。
「そう。白瞑も知っているケーキだよ」
ボールに卵の黄身と白身を分けて落とす。
「白瞑はメレンゲをお願い。それで……」
卵の白身と砂糖に加えて、月の雫を小さじ半分、垂らした。
「これで作ろう。生クリームにもいれまーす」
「月の雫入りなんて、楽しみだね」
白瞑が嬉しそうにメレンゲを泡立て始めた。
小一時間ほどして出来上がったのは、桃の薔薇ケーキだ。
ココアスポンジに七色オーロラのバニラ生クリーム、桃で象った薔薇の花がケーキの上に咲いている。
「懐かしいなぁ。晴が最初に作ってくれたケーキだ」
「白瞑が、僕の好きな甘味が食べたいって言っていた時だよね」
あの時は、自分用にしていたケーキを作った。今は、白瞑と晴のケーキだ。
「月の雫が、輝いているね」
生クリームが七色に光り輝く。白瞑がケーキをうっとりと眺めた。
「ちょっと待ってね。こうすると、もっと……」
指先に力を籠めると、晴の指先に茜色の神力が灯った。
「本当に使えた」
何となくできそうな気がしてやってみたら、本当にできた。自分で自分にビックリした。
「私と同じ色の神力だね」
白瞑が嬉しそうに微笑んだ。
「白瞑から力を分けてもらったって感じがして、嬉しいな」
指先に灯った神力が、月の雫を引き出す。
「せーの、それ!」
ケーキから零れる光を引っ張り上げる。七色のオーロラがリボンのようにひらひらと飛び出して、桃の薔薇を包んだ。飴細工でラッピングしたみたいだ。
「ケーキの上に虹が掛かってる。綺麗だね」
白瞑と共に、美しいケーキを眺めた。
「二人で食べよう。伴侶記念だよ」
「最高の記念日だ。飲み物は何がいい?」
晴は白瞑と目を合わせた。
「フワフワ雲のミルクティ」
二人の声が重なった。
「私がお茶の準備をするから、晴はケーキを運んで準備して」
「わかった、ありがとう」
テーブルの上に、ケーキとミルクティが準備される。すっかり支度が整った。
「切るのが勿体ないね。とても綺麗だ」
「僕一人で作っていた時より、ずっと綺麗」
しばらく、二人でケーキを眺めた。
「美味しいものは味も堪能しないとね。切ろう」
「そうしようか」
白瞑が抑えてくれるケーキに、ナイフを入れる。二人分を切り分けて、席に着く。
「いただきます」
桃の薔薇ケーキを二人揃って、パクリとした。
「んー! 美味しい」
感動で晴の心が輝いた。
「前のケーキも美味しかったけど。このケーキは特別に美味しいよ」
「うん! 一人の時より、美味しいって思う」
白瞑の目もキラキラしている。
(二人で美味しいもの食べるって、いいな)
一人でも美味しいと思った味を二人で分け合えるのは嬉しい。
「いずれ、お店も開けるように考えてみる?」
白瞑の提案に、晴は考え込んだ。
「いつかは、やってみたい。だけど、今は御饌を届けるスタイルでいいかな」
「そうなの? 晴はお店に興味あるんだよね?」
「興味あるけど……今は白瞑と二人でゆっくり料理がしたいな」
お店となると、今よりバタバタする。勝手も変わってくる。
「それに、夕暮れ時までに終わらなかったら、一緒に空を見上げられなくなっちゃう。それは嫌だもん」
白瞑のお務めの時間は、晴にとって特別だ。二人でゆっくり過ごせる時間を、削りたくない。
「晴……やっぱり可愛い」
伸びてきた手が、晴の後頭部を掴まえた。
「え……んっ」
唇が重なって、ぺろりと舐めとられた。
「クリーム、付いてたよ」
白瞑が美味しい顔をしている。まるで晴が食べられたみたいだ。
「二人でゆっくり料理をする時間も、空を見上げる時間も、晴が大事にしてくれて嬉しいよ。私にとっても特別な時間だから」
白瞑が、ケーキを頬張る。とても嬉しそうだ。そんな当然が、晴にとっても嬉しい。
「しばらくは二人でゆっくり過ごそうか」
白瞑が微笑む。晴は頷いた。
「時間はたっぷりあるから。二人の特別、もっと増やそう」
笑い合って、一緒に美味しい御饌を食べる。それだけで、幸せだ。
ミルクティにフワフワ雲を溶かして、白瞑と一緒に飲み込んだ。
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