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伝説の巫女②
祖母から巫女の話を聞いた凪は、伝説の巫女と呼ばれる存在が気になってしょうがない。
――巫女ってどんな人なんだろうか?
凪は、どうしても一目巫女を見たいと思い立ち、神社の本殿へと向かったことがある。
凪が湯花神社の本殿を覗き込むと、薄暗い部屋の中にはいつも一人の女性が座っていた。その不思議な佇まいに、はじめは声をかけることもできず、逃げ帰ったりして。
またある日、やはり気になっていた凪は本殿の中に彼女を見つけるものの、どうしたらいいかわからず立ちすくんでしまう。すると、見ず知らずの凪に対し彼女は、「よく来てくれたわね」とまるで旧知の友にかけるような優しげな声で、迎えてくれたのだった。
彼女の凛としたよく通る声に、凪は感動さえしてしまう。声からして、凪よりだいぶ年上なのかもしれない。
びっくりしてしまった凪は、それ以上まともな会話なんてできなかったけれど、自分に向かい微笑んでいるだろう女性の面影にどことなく寂しさを感じたのだった。
それから凪は巫女の元へと通うようになる。凪が「お邪魔します」と声をかけると「また来てくれたの?」と、本殿の奥から嬉しそうな声が聞こえてくる。それからというもの、凪は巫女と他愛のない会話を楽しむようになった。
凪が生まれた椿屋のこと、凪が好きなお菓子のこと……巫女はまだ幼い凪の話をとても楽しそうに聞いてくれる。両親はとても忙しく、一人で過ごすことが多かった凪にとって、巫女は友達のような親しい存在に感じられた。
「凪は不思議な力を持った子ね?」
「え? 不思議な力? そんなの感じたことはないけど……」
「まるで湯玄様に近い……そんな力を持っているように感じられる」
「湯玄様に? じゃあ俺ってすごい!?」
「ふふっ、そうね。凪はきっとこの湯滝村を救う力を持っているのかもしれないわね」
薄暗い本殿にいる巫女の表情はよく見えないけれど、とても楽しそうに笑っているように感じる。そんな巫女と会話をすることが、凪はとても楽しかった。
それと同時に、巫女の元を訪れる度に心が締め付けられる思いがする。この人は、湯玄様のお嫁さんになったんだ……そう考えると、もやもやしてしまうのだ。
自分は男だから巫女になることはできない。凪は目の前にいる巫女に嫉妬してしまう。それでも、どこか寂しそうな巫女の元へと、凪は通い続けたのだった。
季節は巡り冬を迎え、年を越した今も湯量は変わらず少ないままだ。
凪はたくさんの洗濯物を抱え、橋の下を覗き込む。
相変わらず鼻をつく硫黄の香りに、むわっと立ち上る湯煙。それでも、明らかに川を流れる湯量は減ってきている。凪はそれがとても悲しかった。
「あ、そんなことより洗濯しないと」
凪は慌てて洗濯場へと向かう。
凪が普段洗濯している場所は、川から引いた温泉が溜められている炊事場だ。湯滝村は温泉があるため、冬でも洗濯や炊事で冷たい思いをすることはない。とても恵まれた環境なのだ。
洗濯をするときも、汚れた食器を洗うときも手がかじかむこともない。これも一重に、湯玄様のおかげなのだと思えば、凪の心は熱くなる。
「もう一度、湯玄様に会いたい」
凪はいつもそう思いながら、過ごしてきた。それでも、両親や祖母の言いつけを守らなければと思うと、一人で源泉に行くことなどできるはずもない。
「会いたい。もう一度、会いたい」
凪の小さな声は、再び降り始めた雪が静かに掻き消していった。
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