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箱庭④
「さぁ、ノア様。召し上がってくださいませ」
「はぁ……」
「我々が腕によりをかけて作った朝食にございます。存分にご堪能ください」
料理長と名乗る初老の男が、わかりやすい愛想笑いを浮かべながらノアに深々と頭を下げる。
ノアの目の前には朝食とは思えないほど脂っこい料理が、箱庭に置かれているテーブルの上に所狭しに並べられた。
「ちょっと待ってくれ……朝から肉はないだろ」
思わず独り言を呟きながら、頭を抱えて大きく息を吐く。確かに美味しそうではあるが、見ているだけで胸やけがしそうだ。だからと言って「あまり食欲がないので」などと断れる雰囲気ではない。
「食べるしかないか……」
綺麗に並べられたフォークを手に取る。テーブルマナーもよく知らないノアは、強い戸惑いを感じた。
──イヴァンがいたら助けてくれただろうか。
ふとそんな考えが頭を過る。イヴァンは昨夜眠りにつこうとしているノアの元に、新しい洋服を届けに来てくれた。
それは優雅な光沢を放つ絹でできたチュニックワンピースで、一目見ただけでその価値がわかってしまうほどだった。
「其方に似合うと思って」
そうはにかみながら手渡された洋服は肌触りが良く、思わず頬ずりをしたくなってしまう。月明かりに照らされた絹糸は、キラキラと輝いて見えた。
「今日は疲れただろう? ゆっくり休むがいい。また明日、様子を見に来るから」
ノアが無意識に不安そうな顔をしたのだろうか? イヴァンがそっと髪を撫でてくれた。
そんなやり取りがあったにもかかわらず、朝になってもノアの元を訪ねてきてはくれない。国王がどんな業務をこなしているのかなどノアにはわからないが、悔しいことに今ノアが頼ることができるのはイヴァンしかいないのだ。
こんなにもたくさんの料理を並べられ、どういう順番で使ったらいいのかわからないフォークにナイフ、それにスプーン。ノアの目の前が真っ暗になってしまった。
「さぁ、遠慮などせずに召し上がってください」
料理長に促されるように、とりあえずこんがりと焼けたパンを手に取って、口に放り込んだのだった。
結局出された朝食にほとんど手を付けずに、ノアは「ご馳走様でした」と手を合わせた。自分たちの作った料理がノアの口に合わなかったのかと、料理長が顔を真っ青にしていたけれど、どうしても食べ物が喉を通ってくれないのだ。
大体、高級な洋服を身に纏い、こんなにも立派な箱庭の中で、大勢の人たちに囲まれながら食事をしろというほうが無理だろう。
ノアの戸惑いは一夜明けてなお、大きかった。料理の味さえろくにわからない。
これから、自分はどうなってしまうのだろう。
そんなことを考え出すと、嫌なことばかり考えついてしまう。
「こんな環境で花を生み続けなきゃいけないのかな……。くそ……あいつ、早く来いよ……」
襲いかかってくる不安を振り解くように、ノアは強く首を横に振った。
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