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第七話 誓いのトライフル①

 その晩ノアは憂鬱だった。最近はイヴァンが箱庭を訪れることを楽しみにしていたのに、今日はイヴァンに会うことに恐怖を感じる。 『箱庭から出ることを禁止する』  ノアに冷たく言い放ったイヴァンは、ノアが普段見るイヴァンではなかった。  クレーア城に来てからのイヴァンはいつも優しくて、声を荒げることなんてなかった。ノアがどんなに汚い言葉を使っても笑って許してくれたし、王族の出身でもないノアを卑下することなく平等に扱ってくれる。  そんなイヴァンとの時間が、心地よく感じられた。  しかし、今日の彼はあの日──イヴァンがノアの両親を殺めた日のイヴァンのようにノアの目には映った。人を殺めることに何も感じない、そんな氷のような心の持ち主。あの冷酷な瞳を思い出すだけで、自然と体が震えてきた。  今までは、穏やかで優しいイヴァンと自分は、対等の立場だと思っていた。でも、それが大きな間違いだったとノアは思い知ってしまった。 「やはりイヴァンは、一国の国王陛下だったんだ。自分と平等なはずなんてない……」  とんでもない勘違いをしていたことを、ノアは心の底から恥ずかしく感じた。 「所詮俺は、花生みとしてこの城に呼ばれただけだったんだ」  窓の外を眺めると、リヴィア教会に明かりが灯り、とても綺麗だった。しかし、そんな美しい光景がユラユラと涙で揺れる。  涙がノアの頬を伝うたびに、激痛が走る。目の奥が熱く、頭が割れるほど痛い。しかし、それ以上に心が張り裂けそうに痛かった。 「俺にはわからない。どちらが本当のイヴァンなんだ……」  ノアの頬を伝った涙はベゴニアの花の蕾となり、ノアの足元に落ちていく。最近になり花を生み出すことができるようになってきてはいるが、まだバースレスが続いているのだろう。蕾を生み出してしまうことが多い。  両親を殺めた冷徹な悪魔なのか、それとも自分を慈しんでくれる優しいイヴァンが本当の彼なのか……。どんなに考えても答えなど見つけられるはずなんてない。それは、まるで出口のわからない暗い森の中を歩き続けるような恐怖感を覚える。 「わからない。わからないよ……」  ノアはその場に崩れ落ちて、声を押し殺して泣き続けた。

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