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第7話 癒すのは、犬

──朝。 「おはようございます、リリズ様」 かすかな声に瞼を開けると、キッチンに立つオーウェンの姿が目に入った。 白いバスローブに包まれた背中が、朝の光をやわらかく反射している。 「….何のつもりだ?」 寝起きの声で問うと、オーウェンは振り返って小首をかしげた。 テーブルの上にはサラダとパン、湯気を立てるスープ。 「どうしました?」 「お前が作ったのか?」 「ええ、ご迷惑でなければ食べてください、ケイデさんには朝食は部屋で食べますと伝えてありますから心配いりません」 ……まったく、おせっかいな奴だ。 オーウェンは貴族らしからぬ普通の青年に見える。気取ったところのない仕草や言葉が、いつのまにか心を楽にさせる。 リリズは無言のままバスルームへ向かい洗濯機の中から布の塊を取り出すと、それをオーウェンに放った。 「ほら、お前の服だ」 「──! まさか…僕はあなたに家政婦のように洗濯をさせてしまったの!?」 思わずリリズは吹き出した。 「心配いらない、洗ってくれたのは有能な洗濯機だ。お前の服は綿で安物だったから躊躇なく洗ってやった。あとは乾燥まで俺達が寝るより先に終わったはずだ」 「…ああ、なるほど」 オーウェンは真面目に納得した様子で頷いた。バカな犬みたいでどこか憎めない。 リリズはテーブルに戻り、皿の上の炒め物をひと口頬張った。 「……まずい」 「ご、ごめんなさい! 次は、もう少し練習しておきます…」 眉を寄せつつも、心の中で苦笑する。 自分で家から追い出したも同然の相手が、それでも「次がある」と言うのだから。 「別に、そんなもん必要ない」 そう言いながらリリズは窓の外へと視線を流した。 昨夜はオーウェンが居たおかげで余計なことを考えずにすんだ。 徐々に高くなる日差しが窓から差し込み、その金髪を淡く照らす。 やがて、リリズは椅子を引いて立ち上がった。 上着を羽織ると、オーウェンがすぐに声をかける。 「もう出かけますか?」 着替え終えたオーウェンが追い縋るように近づいてくる。 その瞳には名残惜しさがにじんでいる気がした。 「俺は、剣技選手だぞ。練習に行くに決まってるだろ」 リリズは短く答え、襟を整える。 昨日の屈辱的な敗北のことなど、もうどうでもよかった。 あの痛みも、悔しさも、今はただ静かに心身に馴染んでいく。 ──嫌でも、次はある。 オーウェンの言葉が、不思議と背中を押していた。

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