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第16話 【オーウェン視点】再会

山を越えた先の小さな村。 朽ちかけた礼拝堂の裏手に、小さな家が建っていた。カナリアは迷いなく扉を叩く。 中から現れた男を見た瞬間、オーウェンの呼吸が止まった。 「おかえり…早かったな…」 見覚えのある横顔、そして記憶の底に沈んでいた声が甦る。 ──まさか、ウソだ… 「………父、さん……?」 男の目が、ゆっくりとオーウェンを捉えた。 その瞳には驚きと、深い後悔が宿っていた。 「オーウェン……」 服装や髪型が変わっていても、見間違えるはずがない。 ──10年以上前に蒸発したはずの父だ。 「なぜ……あなたがここに!? 生きていたの…!?」 「どういうことだ!?」 オーウェンの言葉にカナリアも動揺を隠さない。 「この人は、デギオン・ソーン・ハルメレイ、僕の父だ…」 「ハルメレイ……」 カナリアが驚くのも無理はない。育ての親がまさか身分を偽っていて、息子までいたというのだから。 オーウェンは動揺を抑えて父に問いかける。 「なぜ今まで僕や母の前に姿を現さなかったの? 僕達を危険に巻き込むと思ったの?」 「すまない、オーウェン…」 怒りなのか、悲しみなのか、自分でも理解できない。 だけどとにかく状況を理解し確かめなければならない。 「なぜ……?」 父は一つ息を吐く。 「……中に入ろう」 父に誘われ家の中に入る。 部屋は、積まれた薪や干された靴が生活感を醸す。オーウェンはすぐに壁に立てかけられた剣に目がいく。くすんだ刀身の剣は年季が入っていて、きっとカナリアに剣技を教えている剣なのだろうとわかる。 それは父とカナリアがここで長く暮らしていることを物語るようだったが、オーウェンは無視をする。 感傷的にはなりたくなかった。 カナリアが粗末な椅子に腰掛け、オーウェンは立ったまま視線だけは目の前の父に向けていた。 父は深く息をつき、語り出す。 「どういうことなの?」 長い間、父とは離れていた。もう、死んだのではとすら思っていたのに。でもそれは、自分のせいでもある。 父に向き合うことはオーウェン自身が辛い過去と向き合うことでもある。 「……あの日、王宮からの不信任を突きつけられた日…、カシアンに記憶を奪われ、殺されかけた。ある人が助けてくれたから港街に身を隠すことができた」 「そう、だったんですか…」 「記憶を取り戻してから、アミナとは何度か意思疎通をしていた」 「母さんと?」 僕の言葉に父は頷く。 母は何も言ってくれなかったけど、父が生きていることを知っていて、密かにやり取りをしていた。 驚きながらもオーウェンは納得した。 母があの家から出られなくても、ハルメレイ家の“伝達“の力を使えば、それは可能だからだ。 だから母はあの牢のような家でも耐えることができた。 母はオーウェンに「お父さんを恨まないで」と言っていた。 それとたまに母は気分が良さそうな日があった。 今になってオーウェンのなかで過去の意味が繋がっていく。 「…それで?」 僕はやり場のない感情でいっぱいになっていた。 だけど、心を落ち着けながら冷静に問う。 「ある時、アッシュフォルデから逃げるようアミナに言って屋敷の外で待っていた」 「それは…」 「ああ、うまくいかなかった。アッシュフォルデに知られ、アミナは酷い目にあったかもしれない」 当時、オーウェンはまだよくわからなかった、母の苦しみも父の思いも。 「アミナを妻にしたラザロはアミナが逃げないよう、お前を遠縁の家に隠した。俺は必ず居場所を突き止めると約束したけどアミナは…」 「──父さん、もういいです、よくわかりましたから…」 ──これ以上は聞きたくなかった。 僕はこの後のことを、たぶん父以上に知っているから。 父は母を取り戻そうとしていた。 だけど僕を隠されてしまって、身動きがとれなくなった。 母は僕の無事を祈りながら過ごしたかもしれない。 でも…母はあの家でだんだんと心を病んでいった。 父は結局、僕には辿り着かなかった。 僕が大人になって母と再会した時にはもう手遅れだった… 今まで黙っていたカナリアが問う。 「おじさん、記憶が戻っているならなぜ今まで黙っていたんですか? あんたはもとは貴族だったのか…!? リリズに…あの人に何したんだ!?」 それはオーウェンの疑問でもあった。 「リリズを襲ったのはまさか、父さんなの…?」 今まで伏せがちだった父の目に鋭い怒りが見えた気がした。 「ああ、そうだ」 「どうして……!?」 反射的に僕は語気を強め、詰め寄る勢いで父に問う。 「どうして? お前はわからないのか? ラザロ・ノアール・アッシュフォルデはカシアン・ヴァン・デヴローをそそのかして、お前を介して情報を盗んだ。息子のリリズを使ってだ!」 「一一一一なっ…!!?」 まさか… リリズが、あの時の子ども…? オーウェンは愕然とする。 ──そう…あの日、 ハルメレイ家が預かった大切は情報は僕が喋ってしまった。 そのことでハルメレイ家は信用を失い、家は取り潰された。それから両親は離れ離れになった。 父の話を聞いても、あの時の子がリリズだとは信じられなかった。 仲がよかった よく遊んでいたのに、 その子どもから聞かれたらことに答えた ただそれだけだったのに 「リリズ・ヴァン・デヴローとは関わるな」 父の強い眼差しと言葉が、物理的な力のように胸を打つ。 「───嘘…何で…そんなこと…」 「オーウェン、お前はなぜ奴と関わっている!?」 怒りが、憎悪が流れ込んでくる── 「──はっ……は…ぁ…」 うまく呼吸ができない。 (まさか、共鳴──!?) (リリズ以外で──) 父の言葉が追い討ちをかける。 「デヴロー家は汚れている」 言葉が感情とともに僕のなかにこだまする。 あまりのことに息がままならなくなっていた。

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