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撮影現場

翌朝、目を覚ますと聞き慣れない音がしていた。 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。 ぼんやりしたまま音のする方へ視線を向けた。 テーブルの上にはノートと数本のペン。澪はなにかを書き込んでいるみたいだった。 「おはようございます」 気付いた澪が顔を上げる。 「早」 「仕事なので」 そう言いながら笑う。 昨夜より少しだけ眠そうだった。 いつもは朝起きて一番に顔を洗うはずなのに、今日はベランダへ向かうと煙草に火をつけた。 付き合い以外で、煙草を吸うことはほぼない。 それなのに、今朝は妙に吸いたかった。 吐き出した煙は朝の空気へ溶けるように消えていく。 「早死にしますよ」 背後から声がする。 「澪じゃないから大丈夫」 「なんですかそれ」 呆れたような声だった。 けれど、どこか笑っている。 柊は煙草を咥えたまま空を見上げた。 「黄昏れる前に、早く準備してください」 「朝だけど」 「知ってます」 澪はそう言って洗面台の方へと向かっていく。 柊は煙草を灰皿へ押し付けると、澪を追うように洗面台へと向かった。 鏡の前では澪が髪をまとめている。 寝癖なのか、数本だけ跳ねた髪が残っていた。 思わず、その髪を指で弾くように整える。 澪は一瞬だけ動きを止めると、鏡越しに視線が合った。 「寝癖」 「わざとです」 「嘘つけ」 即答だった。 澪は小さく吹き出すと、どこか困ったような顔をしていた。 「なんで俺が用意してるのに、わざわざ隣で顔洗うんですか」 「顔洗いたかったから」 澪は数秒黙った。 それから視線を逸らして髪を整え始める。 「え、なに?」 「いえ、とりあえず早く行きましょう」 話を切り上げるようにそう言うと、澪は洗面台から離れた。 それを不思議そうに見つめながら、歯ブラシを手に取る。 その間も、澪はせっせと今日使う花達の整理をしていた。 ようやく柊もスーツへ着替え終わる。 「行こっか」 声を掛けると、澪は手元の花をケースへしまった。 「はい」 昨日の夜もあまり寝れていないはずなのに、その表情は妙に生き生きとしている。 本当に花のことになると別人だ。 二人は部屋を出ると、撮影現場へと向かった。 「二人ともおはよう、昨日はどうだった?」 撮影現場へ着くと、監督が楽しそうに聞いてくる。 スタッフ達もなぜか楽しそうにこちらに視線を向けてくる。 「楽しかったですよ」 「どうとは?」 二人の意見が食い違った。 楽しかったと答えた柊に澪は視線を向ける。 「えっと……楽しかったんですか?」 「え?逆に楽しくなかったんですか?」 ここにいる全員が目を丸くする。 朝から騒がしかった空気は、一気に静かになった。 「西条さん、澪さんに何したんですか!?」 スタッフのひとりが慌てたように聞いてくる。 意味が分からず眉を寄せた。 昨日ことを思いだす。 ホテルへ行って、少し話をして、寝ただけだ。 特に変わったことはなにもない。 「え、別に何もしてないですけど」 そう答えると、周囲はなぜかさらに騒ついた。 隣を見ると澪まで額へ手を当てながら、呆れたようにため息をついている。 柊はなぜこんな空気なのか不思議に思いながら、撮影開始を待った。 「そういえば西条さん、天馬は?」 監督がそう言うと、今度はこちらのざわつきが広がった。 「この辺に友達がいるとかで、近くだからそのまま行くとは連絡来てたんですが」 天馬が遅れてくることは珍しかった。 だから、嫌な予感がした。 そう思った瞬間だった。 「やっべ!すんません!俺遅刻しちゃいました!?」 勢いよく開いた扉と、息を切らしている天馬。 ここからでもハッキリと見えた。 首に着いているキスマークが。

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