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第1話

26歳、独身。 書店で勤務している、どこにでもいる普通の男。 きっと小説の出だしならこうだろう。 ……なんてな。 そんな俺は、いまだに夢を断ち切れないでいた。 26歳にもなって作家になりたいなんて夢を諦めきれなかった。 大学を卒業して3年もすれば、友達は転職をしたり、家庭をもったり、着々と自分の人生の舵きりをしている。 それなのに、俺といえば、同人誌即売会に足を運んでは出張編集部に自分を売り込むばかり。 漫画に比べその場での回答も少なく、出版社の数も少ない。 稀に名刺をいただくこともあるが、期待に反してあれは社交辞令だ。 また連絡します、なんて体の良いキープだと気が付いた。 そこへ足を運ぶばかりで従花にすらならない。 ──…花すら咲かせてないから従花なんて烏滸がましいか。 せめて芽を出してからでないと。 勿論、公募にも応募してるが結果はご覧の通りのこのザマだ。 1年間に出版される本は約8万冊。 1日に220冊もの本が書店に並べられる。 つまりは出版されてもすぐに埋もれてしまう。 憧れたのは、そんな世界だ。 そんな世界だから憧れたのだろうか。 富士山と同じだ。 富士山は遠くから見たら綺麗だ。 けど、実際に登ってみればごみが落ちていたり岩肌が危険だったり、美しいばかりではない。 けれど、皆、富士山を美しいと言う。 遠くから見ているから。 傍観者だから。 その方が美しいと思えるのなら、嫌いになる前に離れるのも手段なんだと思う。 それでも、それが出来ないからこのザマなんだ。 ポケットから取り出した鍵で解錠すると荷物は置かず、そのまま靴を脱ぎながら部屋の奥に声をかける。 「先生、この前言ってたゴミ捨ては出来ましたか?」 「……した」 「なら、このゴミ袋はなんですか?」 「…………」 「折角、先生の好きな松福で大福買って来たのに」 「松福…」 奥の部屋からキャスターチェアに座ったままの作家先生が顔を出した。 「夏目くん、入りたまえ」

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