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第2話
また子供みたいな移動して…
子供にしては随分と大きいその人は俺が先生と呼ぶ人。
実際、作家として生活をしているのだから先生で合っている。
俺より12も年上の大きな子供だ。
「もうお邪魔してます。
先生のお目当ては、俺じゃなくてこっちでしょ」
エコバックから取り出した生クリーム大福を手渡すと、無表情のまま書斎に戻ろうとするチェアを引き留めた。
こういう生活をしているからゴミがあちこちに溜まるんだって、何度言ったら覚えてくれるんだ。
苛立ちを隠して、あえて淡々と告げる。
「リビングで食べてください」
「……コーヒーね」
「ティッシュ敷くか、パックを持って食べてくださいよ」
先生は俺の言葉を命令ではなく、単なる念仏として受け取っている。
馬の方だ。
「先生、服汚したら洗濯ですよ」
「…………分かったよ」
まずは冷蔵庫の確認。
1口分だけ残された麦茶はないか。
飲みかけのペットボトルはないか。
ラップを使わずに入れられカピカピになった食べ物はないか。
溢したままの物はないか。
ついでに電子レンジもだ。
爆発させたりしていないかを確認する。
同時にケトルで湯を沸かす。
洗い物を出さないように普段から紙コップで生活をしている先生のシンクは特別汚れることはないが、その紙コップは調理スペースに積み重なっている。
ゴミ箱を教えても5回に1回程しか使ってもらえない。
弁当類のゴミはきちんと捨てられる辺り、最低限の線引きはそこなのだろう。
いや、紙コップも捨てろよ、なんて考え最初の3ヶ月で消え去った。
言っても無駄ならその動力が勿体ないからだ。
更に10ヶ月も経てばカップを溜め込まずに済むなら衛生的で良いとまで思えるようになった。
人間はこれくらい図太い方が寧ろ健全なんだ。
「夏目くんは食べないのかい?」
「俺の分はありますから、気にしないでください」
早速クリーム大福に噛り付く先生は、何度も俺の呪われた名前を呼ぶ。
誰もが知っている文豪と同じ名前を。
この名前だから小説家を志したんじゃない。
けど……、と思ってしまうのは俺が弱いから。
それから目を背けるように、インスタントドリップの封を破った。
ふわっと香る香ばしいにおいが辺りに拡がる。
「夏目くん」
「なんですか?」
「アイスコーヒーを頼むよ」
「……承知致しました」
そもそもなんでこの人のハウスキーパーみたいなことをしてるかと言えば、イベントで名刺をもらった編集者にかわりにおやつを届けてくれと言われたのがきったかけだ。
ついでにコネをつくれるよ、と甘い言葉に誘惑された自分がいけない。
そこで「…………誰?」と言われたのが出会いだ。
誰?は俺も思った。
著者近影で見たのとは似つかわしくないボサボサな髪と無精髭。
引きそうな俺に対して、「コーヒー、飲む?」ときたもんだ。
不審者を家に招き入れる馬鹿がここにいた。
けど、担当の名刺を見せると事前に連絡だけは伝わっていたのか「あぁ、君か」と。
そこからはトントン拍子に掃除をしてくれたらバイト代を出すよ、と話を纏められた。
一体俺のなにを気に入ったのか。
定職もあるが副業とはいかずとも賃金の出る契約は有り難い。
それも相手は憧れの作家だ。
学べるものもあるだろう、吸収出来ることは吸収して取り込めるんじゃないか、と。
だが、別日に預かった鍵で部屋へと入ると部屋の散らかり具合に引きそうになったが。
「アイスコーヒーです」
「あぁ、ありがとう。
もう頂いてるよ」
「美味しいですか?」
「うん。
とてもね」
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