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第3話

最後の一口を大切そうに口へと運ぶと、コンスターチの付いた手をパンッと払った。 その手をボトムスで拭おうとするのを目で制すれば、めんどくさいとばかりの顔でもう数度手を叩く。 ウエットティッシュが卓上に用意されているというのにこれだ。 本当に……、と出そうになった言葉をアイスコーヒーで飲み込んだ。 口酸っぱく伝えてしてくれるなら言うが、しない人に労力を使うくらいなら掃除をした方が圧倒的に楽だ。 先生はそのまま床を蹴ってキャスターチェアを移動手段に奥へと引っ込んでしまった。 水滴の付いたコーヒーをそのままに。 すぐに戻ってきた先生の手には、現金なら嬉しい厚さの紙。 クリップでとめられたそれを差し出されると、空気は一変した。 「ん」 「…はい」 今度は俺がボトムスで粉を払い、仕事用の鞄から十数枚の紙を挟んだクリアファイルを手渡した。 「お願いします」 「んー…」 生返事とどちらが早いか、先生はすぐに俺の書いた物へと視線を滑らせる。 この人も相当の活字中毒者だ。 認知の特性も視覚情報優位らしく、ラジオやオーディオプレーヤーはあまり好まない。 徹底して視覚情報を好む。 ……まぁ、テレビをつけっぱなしで作業をすることも多々あるが。 文字を撫でる視線につい見惚れてしまう。 普段の子供とは違う真摯な目。 唇を指先で撫でる癖も色っぽい。 けど、俺はただ緊張する瞬間だ。 「面白かったよ」 「……、あ、りがとうございます」 駄目だ。 そう悟るのには充分な言葉だった。 「夏目くんの書く言葉は綺麗だね。 語感もとても良い。 ──で、誰のために書いてるんだい?」 欠伸をしながらのその言葉は、どんな死刑宣告より俺の息をとめさせる。

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