4 / 6
第4話
なんとか息を吸い込むと喋る為にそれを使う。
喉の奥が震えようと先生には関係ない。
伝えるために言葉がある。
「…読んでもらうことを意識しました。
先日の出張編集で言われたことも。
それで、……書いてみました」
「うん。
それは、これを書いた背景だね。
俺の質問の答えじゃない」
「…はい」
「ま、俺のはゴミだけどね。
気に入らなくてボツにしたんだ」
これだけの枚数をボツ……
視線を手元へ落とすとザッと枚数から文字数を計算する。
何時間かかったのだろうか。
筆の早い先生でもそこそこの時間をかけたはずだ。
それを軽々しく“ゴミ”と言い切った。
先生がゴミだと言っても、それも大切な資料だ。
この人がなにを選び、なにを選択するのか。
なぜボツにしたのか。
一つひとつ考えていく。
咀嚼するんだ。
口の中で固さや味を確認する。
噛んで、ほどけ具合や変化をみる。
第一印象は?
余韻は?
何度も噛む。
吸収されやすいように。
血肉になるように。
血になって全身を巡れ。
心臓を動かせ。
脳までこの美しい言葉を運んでくれ。
先生の作品はまるで4DXみたいだ。
文字なのに、カメラロールも、空気の動きも、湿度も分かる。
においだって。
誰かの鼻唄。
石を蹴る音。
しあわせの色。
それを頭の中に流すのが上手い。
まるで主人公になれる。
共感じゃない。
自分が主人公だから、一緒のタイミングで笑い、泣くんだ。
なぜ怒るのか。
なぜ震えるのか。
それが肌感覚で分かる。
同じ視覚優位の俺は昭和のテレビ映像みたいだ。
画質が粗い。
ノイズが多い。
そんなことを思い知らされる。
それでも、好きなんだ。
本が。
書くことが。
この残酷な世界が。
ともだちにシェアしよう!

