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第55話
「歩き慣れない道を歩くのは楽しいね」
「はい」
玄関先に置かれた花を見たりしながら時間をかけて先生のマンションへと向かう。
暗い方がなぜか、こんなところに道があったことや建物があることに気がつくのだろうか。
夜というだけで雰囲気が一転するからか。
どちらにせよ楽しい。
「朝顔だね。
まだ咲くには早いみたいだね」
小学校で使っていたような色と形の植木鉢に朝顔が植えられていて、もうすぐ夏休みだと知る。
またあの茹だるような灼熱の真夏がやってくるかと思うとおそろしい。
スニーカーが小石にぶつかりコロコロと転がっていく。
ふと一歩先をみると、先生はサンダルだ。
「サンダルなんですね」
「あぁ。
楽だからね」
「蚊が喜びそう」
「足の裏をアルコール除菌するといいらしいよ」
「本当ですか?」
どうでもいい話をポツリ、ポツリ、と交えながら歩いていると、いつのまには視界には見慣れた道が広がっていた。
「寄っていくかい?
泊まっても構わないよ」
「帰ります。
書きたいの纏まってなくて」
「そうか。
気を付けて帰るんだよ」
軽く手を振る先生に会釈を返す。
本音は、もう少しこうして話していたい。
けれど今は、それ以上に書きたい気持ちが勝っている。
それでも、後ろ髪が一本だけ引かれるような感覚だ。
「先生も気を付けてください。
暗いから階段踏み外したりしないでくださいね」
「うん。
気を付けるよ」
じゃあね、と歩き出す背中を見送りながらやっぱりもう少し…と言う言葉を飲み込んだ。
書かたかったから。
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