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第54話

「ご馳走さまでした」 「美味しかったね。 腹は満足かい?」 「はい。 そりゃもう、大満足です」 ミックスグリルにミニ丼、単品で唐揚げやサラダなんかも食べた。 ミニサイズのピザも。 先生からも少しおかずを分けてもらって、デザートまでしっかり楽しんだ腹はいつもより膨れている。 しかも後片付けもしなくていいときたら至福だ。 「じゃあ、散歩でもしようか」 散歩も本気だったんだ 昼間は随分暑くなってきたが、夜はまだマシだ。 ぬるい風が纏わりついてくるが昼ほどの不快さはない。 涼しかった店内から出たばかりのせいかジワッと汗ばむが茹だるほどでもない。 どちらにしたって部屋まで帰らなくては行けないのだから、食後の運動と思えば軽いものだ。 すっかり閉店した店の前を通りながらフラフラと散歩をする。 ゆっくり食事をした自覚はあるが入店前は灯りの点いていた店が真っ暗になっているのを見るとなんだか不思議な気持ちになる。 わくわくするような寂しいような。 街路樹はスクスク成長し葉を伸ばしていた。 その重みに枝が枝垂れ頭にぶつかる。 色んな所から時間帯や季節を感じることが出来る。 小説に使えるかもしれない。 「先生って、なんでキャスターで動くんですか。 座りっぱなしは身体によくないって聞きますよね。 エコノミー症候群とか。 こわくないんですか?」 「めんどくさいからね」 先生はなんてこともないように言いきった。 「でも、歩かないわけじゃないよ。 現に今、歩いているだろう?」 「まぁ、そうですけど…」 先生に歩数計をつけたどうなるのか考えるとちょっと面白い。 特に締め切り前。 案外歩くのだろうか。 それともトイレも我慢しがちなのか。 これだと生態が分からない動物の観察のようだ。 「世の中、すべてのものに理由をつけようとするね。 小説の世界もそうだね。 意味のあるものしか描かれない。 けど、一つくらい意味のないものがあっても楽しいだろ」 「哲学的ですね」 「難しく考えなくてもいいと思うんだよ」 先生は街灯をスッと指差した。 「なんで虫は灯りに集まると思う?」 「え…、走光性…ですか?」 「そう言われているね。 けど、本当のことは虫にしか分からないよ。 もしかしたら寂しいからかもしれないだろう」 虫に感情があるかどうかは分からない。 分からないから想像する。 先生は、そういうことを言いたかったのだろうか。 ……帰ったら少し書いてみよう

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