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事情2
***
昔々オリウス達が住んでいる村は今とは違い大変栄えていた。
村独自の織物や学問が盛んだが、なんといっても有名なのが鈴でその形や色、音の美しさは遠く離れた都市の町まで評判を呼ぶほどだったという。
ある時骨董品好きの村長がいわく付きの置物を買い、村に持ち帰ってしまった。
するとその年村の作物は不作となり、謎の疫病が流行りだし次々に人が死んでいった。
不可解なことに亡くなる人は決まってある夢を見ると言う。
「少女……?」
「そうだ。長い黒髪で不思議な柄の衣(ころも)を纏っていると聞く」
「不思議な柄……」
「何でも夢の中で少女が遊びに誘ってくるのだが、遊びを断ったり、負けたりすると数日後に死ぬという話だ。少女の呪いなんて言われている」
「こ、怖いですね」
俺は別に信じていないがな、とオリウスが付け加える。
呪いの品。死の夢。そして謎の少女。
(少女……あれ、どこかで──)
「事を重く見た当時の村長が慌てて拝み屋を呼んだ」
思考を遮るように話が進む。
駆けつけた拝み屋は先ず例の置物を調べてあれこれ様々な方法を試したが死者がなくなることはなかった。そこで追い詰められた拝み屋はある策に出た。
村で作られた鈴を身代わりにすることで呪いを免れようとしたのだ。
早速特別な術を鈴に掛け、それを村人に肌身離さず持ち歩くよう指示した。
すると拝み屋の目論見通り死者はピタリと無くなった。
「それじゃ……」
「いや、これはあくまでその場しのぎに過ぎない。鈴が錆びればその部位を『呪い』がたちまち身体を蝕み、鈴を手放したり壊したりすれば命を落とす」
「え……」
「そうなる前に新しい鈴に取り替えるがな。……それに死者はなくなったが今度は何故か子供が生まれない」
少し前にこの村には時間がないとオリウスが言っていたことを思い出す。
死者はなくなっても子孫が増えなければ人口減少に歯止めがかからない。
ふと、そういえば何故一時的とはいえ鈴を手放したオリウスが無事なのか喜一が疑問に思っていると、オリウスが懐から別の鈴を取り出した。
「それは……」
「俺の、弟のものだ」
大事そうに見せてくれたその鈴はひどく汚れていて傷だらけだった。茶色の鈴に端の切れた青竹色の紐がついている。
「……情けない話だ。ある時俺は弟と──トゥテルと家のことで口論になってその後暫く口を利かなかった」
その時のことを思い出しているのかオリウスは悔いるように目蓋を伏せる。
「今となっては言い訳にしかならないが……後で謝るつもりだった。けどそれは叶わなかった」
手の中で鈴を撫でるとチャリ、と音を立てる。
「ある日夕飯時になってもトゥテルの姿が見えなくて……部屋を訪れたら代わりにこの鈴が落ちていた」
オリウスが手の中の鈴に目を落とす。
「一気に血の気が引いた……俺は必死で家中を探し、村にもお願いをして村の周辺まで探し回ったが……とうとう見つけることは出来なかった。村はトゥテルは死んでいると決めつけたが死体も出てこないのに俺は納得がいかなかった」
鈴をぎゅっと握りしめる。
「父は俺達が幼い頃に山で土砂崩れに巻き込まれて亡くなり、母は数年前に病死している。トゥテルは残された唯一のかけがえのない家族だ……俺は今もどこかでトゥテルが生きていると信じている。──だから、」
そこで真っ直ぐに喜一を見る。
「大変なのを承知でもう一つお願いがある……キイチ、俺が弟を探している間弟の身代わりをしてくれないか」
「そ、そんなの、」
無理ですよ、と喜一が断ろうとしたがオリウスはふっと微笑んだだけだった。
「大丈夫だ。トゥテルは幼い頃はともかく、最近は人前に出ず引き籠もっていたんだ。今の顔を知らぬ者も多いから誤魔化せるだろう。ここでの知識は俺が教えてやる。生活に必要なものはこちらで一通り用意する。……それに悪いが目的を果たすまでは俺もただではお前を帰さない。すべて終えたら元の世界に帰してやろう」
オリウスの脅しともとれる発言に覚悟を感じる。
喜一は泣きそうになりながら無理です、と言い続けたが相手が考えを改めることはなく、結局喜一の方が折れることになった。
「……やり、ます」
「そう言ってもらえて嬉しい。……キイチ、これも何かの縁だ、これから宜しく頼むぞ。──俺のことはこれから『兄上』と呼べ」
「あに、うえ」
「そうだ」
オリウスがふわりと微笑む。
すると喜一は何故か心臓がおかしな音を立てたような錯覚に陥った。
(え、何だ今の)
「では早速で悪いが勉学の特訓を始めるとしよう」
突如として始まったオリウスの特訓に喜一は自身に起こった異変が何なのか分からず有耶無耶になってしまったのだった。
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