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第4話 この展開は聞いてない

「そうか。その手があった」 「え? いや、ちょっと待って。冗談だったんだけど」 「私に番はないので問題はない。彼が私の番になれば君たちも納得はしてもらえるだろう」  違うかと問われて神官たちは顔を見合わせた。確かに|豊穣《ほうじょう》龍の番として|娶《めと》られるならば、契約としては成立するだろう。  もしかすれば、これがきっかけでこれからも豊穣の力を使っていただけるかもしれない。神官は「豊穣龍様がよろしいのであれば」とこちらも問題ないと返事をした。  シャルルは生きられるならば生きたいし、あのくそみたいな結末を迎えないで済むならそうしたい。したいが、こういう回避の仕方をしたかったわけではなかった。 「番になるには契りを交わさねばならない。それを見せることはできないので、君たちはこの契約書を持っていくといい」  傍で待機していたウーリンから羊皮紙を受け取って豊穣龍は指を滑らせる。ひらりとそれを神官に渡せば、彼らは深く頭を下げた。  いやちょっと待ってとシャルルが口に出すよりも早く、豊穣龍は「話はこれで終わりだ」と神官たちに告げた。 「三日後、豊穣の力で作物を実らせよう。それから暫くは不作にはならないようにしておくので贄の必要はない」 「豊穣龍様の慈悲、感謝いたします」  ではと神官たちはウーリンに連れられて謁見の間を出て行った。残されたシャルルは「ちょっと待ってほしんだけど」と、目の前に立つ豊穣龍に話しかける。 「俺は番になるって言ってないんだけど」 「それ以外に君に選択肢があるということだろうか?」 「|僕《しもべ》でもペットでもいいじゃん」 「私は君を番にしたい」  なんでだよと思わず突っ込んだ。愛らしくて世話焼きなユリウスならまだしも、自分は暗殺の技しか能がない男だぞと言ってやりたいがぐっと堪える。 「番って重要な相手でしょ。好きでもない存在とするのはどうかと思うよ」 「好きでもないというが、私は君の態度や発言に対して好意的に見ている」  自分の意思のままに質問に答え、神に冗談を言える豪胆さ、死への恐怖もないというのに生へしがみつく滑稽さ。それらが実に面白く、今まで見てきた人間とはまた違っていた。  躾けられた犬のように同じことを言う贄と、へこへこと頭を下げる神官しか見てこなかったが、君はそうではなかった。豊穣龍は話す、君自身に興味が沸いたと。 「だから、番にしたいって? もう少し俺の事をよく見た方がいいと思うけどね」  悪いことを考えているかもしれないじゃないかと指摘すれば、その可能性もあるかとふむと豊穣龍は顎に手をやった。  なんなんだ、この神龍は。そういうこともあるかもしれないと気づくのが遅すぎないかと突っ込みたい。シャルルは一応は相手が神であるので口には出さなかった。 「だが、私は嘘を見破ることができる。君は今までの発言で嘘はついていないが、何か隠し事があるのだろうか?」 「…………」  嘘を見破ることができると教えられて、その質問に答えることができる人間は果たして何人いるのだろうか。誰かしら知られたくないことだってあるはずだ。  黙ってしまったシャルルに肯定だと受け取ったようで豊穣龍は「私には話せないことか」と問う。  話せないといえば、話せないかもしれない。死に戻った話は神である豊穣龍ならば信用はしてくれるだろう。一族の掟に関しては話しては、余計な波風は立たせたくないので話せないとなる。  シャルルは、「誰にだって言いたくないこともあるよ」と答えた。知られたくないトラウマがあるかもしれないだろともっともらしいことを言えば、豊穣龍はそうかと納得したように頷いた。 「なら、君が話してくれるまで聞くことはしない。だが、君は私の傍にいたほうが好都合だと思っているのではないだろうか」 「それはー、そのー」 「ならば、番となれば何の問題もなく傍にいれる」  神龍の番ならば余計な人間は手を出してこないはずだと提案されて、それはそうだよなとシャルルも思った。神の逆鱗にふれるかもしれないことをしでかす人間など早々いない。安全地帯ともいえるのだが、不安がないわけではなかった。 (確かにこれで父の手は届かなくなる、でもリリアーヌやユリウスが心配だ……)  自分の身が保証されようとも、可愛がっていた妹や、友達として接していたユリウスの身に何かあるかもしれない。  特にユリウスは暗殺の任がまだ残っている。でも、自分が豊穣龍の番として傍にいれば、そこまで考えてシャルルは悪くない提案なのではと気付く。  シャルルの表情の変化に気づいてか、豊穣龍は「君を私の番として守ることを約束しよう」と手を差し伸べる。この手を取れば自分は彼の番となり、安全も約束されるだろう。 (利用できるものはしたほうが、いい……か)  自分のくそみたいな結末は回避できたとしても、リリアーヌやユリウスに何かある可能性もあるのだ。シャルルは暫し考えたのにおずおずと手を取った。 「こんな小柄でも可愛らしくもない相手を番にして後悔しても文句は受け付けないからね」 「あぁ。君から愛を貰えるように最善を尽くそう」 「そこまでは別に……」 「さて。君の同意を得られたので契りを交わそう」  ぐいっと腕を引かれたかとおもおうとふわりと横抱きにされて、シャルルは何が起こったのか分からなかった。流れるような速さで抱きかかえられてしまって固まってしまう。 「ちょっと待って。契りってどういう……」 「簡潔に言うならば性行為だ」 「なんとなくそうだろうなとは思った!」  番の契りの話を聞いたことがなかったわけではない。深い関係を築くため、互いの弱さを受け止めるため、身体を重ねる。薄っすらとあった知識を引っ張り出してシャルルは無理と思わず、首を振った。 「そう恐れることはないと思うのだが?」 「絶対、女側だろ、俺」 「あぁ、なるほど。そうだな、君がそちら側だ。だが、無理はさせないので安心してほしい」  何処に安心する要素があるのだろうかとシャルルは突っ込みたかった。未経験者だぞ、こっちはと言い返したいが、豊穣龍はすたすたと歩き出してしまう。  そもそも、契りとはいえいきなり性行為とはどうなのだろうか。心の準備ができる時間ぐらいはほしいのだがと思うが、相手は待ってはくれない。  謁見の間を出て廊下を歩いていくその間に何度かシャルルは抵抗を試みたけれど、軽くいなされて終わった。  小柄でも華奢でもないほどよく筋肉もついている長身の成人した男だぞ、おい。なんていう主張を彼の神は聞き入れてはくれないのだ。 (あー、もう仕方ない。自分は成人した男だ、生娘でもないんだから覚悟を決めろ)  シャルルはそう自分に言い聞かせて、覚悟を決めた。

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